368 韓昌黎集 巻五 48 《山石》 韓愈 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 4166
- 2014/05/08
- 00:23
山に転がって進む道を邪魔する石。(韓愈受験に落第し、再度チャレンジすることを決したことをこの山道にたとえてうたうものである。) 山に登る道は大きい石がごろごろとたくさんあり、小道は細くなってかすかな感じになっている。黄昏(たそがれ)になって寺にたどり着くと、蝙蝠(こうもり)が飛んでいる。
368 韓昌黎集 巻五 48 《山石》 韓愈 | kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 4166 |
801年貞元17年 34歳 | |
48 | 山石 #1 |
山石 #2 | |
山石 #3 |
796年 董晋の招きで宣武軍節度使の幕府に入る。
797年 病気のため一時求職。
孟郊が来る。
798年 同所で進士科の予備試験員。
張籍、この試験合格者の中に有る。
799年 汴州の乱「汴州亂二首其一 韓愈特集-6」
「此日足可惜贈張籍 韓愈-7-#1 ~14」
徐州武寧軍節度使 張建封の幕府に入る。
韓愈、命受けて長安へ。孟郊、呉、越を遊覧。
「忽忽」忽忽 唐宋詩-218 Ⅱ韓退之(韓愈) 韓愈特集-22
800年 春長安より徐州へ帰る。幕府を退く。
彭城に帰る
「歸彭城」 #1(全4回) 韓愈 唐宋詩-219 Ⅱ韓退之(韓愈) 韓愈特集-23
801年貞元十七年
身言書判科を受験して、落第。三月、洛陽、冬、長安に戻る。孟郊、溧陽の尉となる。
「山石」
・孟郊常州に行く。
「将歸贈孟東野房蜀客」(將に帰らんとして孟東野・房蜀客に贈る。)
山石
山に転がって進む道を邪魔する石。(韓愈受験に落第し、再度チャレンジすることを決したことをこの山道にたとえてうたうものである。)
#1
山石犖确行徑微,黄昏到寺蝙蝠飛。
山に登る道は大きい石がごろごろとたくさんあり、小道は細くなってかすかな感じになっている。黄昏(たそがれ)になって寺にたどり着くと、蝙蝠(こうもり)が飛んでいる。
升堂坐階新雨足,芭蕉葉大支子肥。
お堂に昇っていく階に坐れば新たに充分な雨が降っている。この雨で、芭蕉の葉は大きくなって、梔子(しし、くちなし)の実が大きくなっている。
僧言古壁佛畫好,以火來照所見稀。」
坊さんは古い壁に措かれた仏の絵がすはらしいといい、明かりで照らしてくれたが、剥げているためいくらも見えなかった。
僧侶の方は「古い壁の仏画は好いものだ」とお説教をしてくれる。その仏画は、火で照らし出した部分、見えたのは、ごく一部である。
#2
鋪床拂席置羹飯,疏糲亦足飽我飢。
夜深靜臥百蟲絶,清月出嶺光入扉。
天明獨去無道路,出入高下窮煙霏。
山紅澗碧紛爛漫,時見松櫪皆十圍。」
#3
當流赤足蹋澗石,水聲激激風吹衣。
人生如此自可樂,豈必局束爲人鞿。
嗟哉吾黨二三子,安得至老不更歸。」
#1
山石 犖确(らくかく)として 行径(こうけい)微にして,黄昏 寺に到れば 蝙蝠(へんぷく)飛ぶ。
堂に昇り 階に坐ざすれば 新雨足り,芭蕉(ばしょう)の葉は大いにして 支子肥ゆ。
僧は言う「古壁の佛畫(ぶつガ)好し」と,火を以て 來り照らすに 見る所稀まれなり。
#2
床を鋪(し)き 席(むしろ)を拂いて羹飯(こうはん)を置き,疏糲(それい) 亦また我が飢を 飽(あ)かしむるに 足る。
夜深く靜かに臥すれば 百蟲(ひゃくちゅう) 絶え,清月 嶺を出て 光 扉(とびら)に入る。
天明 獨り去ゆくに道路 無く,高下に 出入して 煙霏(えんぴ) を窮(きわ)む。
山 紅(くれない)に澗(たに) 碧(みどり)に 紛まじりて 爛漫,時に見る 松櫪(しょうれき)の皆 十圍(じゅうい)なるを。
#3
流れに當りて赤足もて 澗石(かんせき)を 蹋(ふ)み,水聲 激激として 風 衣(ころも)を吹く。
人生 此かくの如く自から樂しむべく,豈 必ずしも 局束(きょくそく)として 人の爲ために鞿(つな)がれんや。
嗟哉(ああ) 吾わが黨の二、三の子し,安いづくんぞ 老おいに至りて 更に歸らざることを得ん。
貞元十七年の冬、韓愈は結新たに再度単身で長安に上京した。口では世捨て人へのあこがれを言っていても、それは強がり、現実的には、高級官僚への夢を容易に絶ち切ることはできないのである。吏部試をもう一度受験しのである。彼はめでたく合格し、念願を果たすのである。この詩は、韓愈が決意を新たにした時の詩である。
現代語訳と訳註
(本文) #1
山石犖确行徑微,黄昏到寺蝙蝠飛。
升堂坐階新雨足,芭蕉葉大支子肥。
僧言古壁佛畫好,以火來照所見稀。」
(下し文) #1
山石 犖确(らくかく)として 行径(こうけい)微にして,黄昏 寺に到れば 蝙蝠(へんぷく)飛ぶ。
堂に昇り 階に坐ざすれば 新雨足り,芭蕉(ばしょう)の葉は大いにして 支子肥ゆ。
僧は言う「古壁の佛畫(ぶつガ)好し」と,火を以て 來り照らすに 見る所稀まれなり。
(現代語訳)
山に転がって進む道を邪魔する石。(韓愈受験に落第し、再度チャレンジすることを決したことをこの山道にたとえてうたうものである。)
山に登る道は大きい石がごろごろとたくさんあり、小道は細くなってかすかな感じになっている。黄昏(たそがれ)になって寺にたどり着くと、蝙蝠(こうもり)が飛んでいる。
お堂に昇っていく階に坐れば新たに充分な雨が降っている。この雨で、芭蕉の葉は大きくなって、梔子(しし、くちなし)の実が大きくなっている。
坊さんは古い壁に措かれた仏の絵がすはらしいといい、明かりで照らしてくれたが、剥げているためいくらも見えなかった。
僧侶の方は「古い壁の仏画は好いものだ」とお説教をしてくれる。その仏画は、火で照らし出した部分、見えたのは、ごく一部である。
(訳注)
山石
山に転がって進む道を邪魔する石。(韓愈受験に落第し、再度チャレンジすることを決したことをこの山道にたとえてうたうものである。)
○韓愈の「以文爲詩」(散文的な手法の詩=散文的な語彙や句法、段落で作った詩)の代表的なもの。六朝詩や唐詩の華麗さがなく、夕暮れから夜、更に早朝の光景が、淡々と語られている。これらを詠いつつ、受験に落第し、再度チャレンジすることを決したことをこの山道にたとえてうたうものである。
山石犖确行徑微、黄昏到寺蝙蝠飛。
山に登る道は大きい石がごろごろとたくさんあり、小道は細くなってかすかな感じになっている。黄昏(たそがれ)になって寺にたどり着くと、蝙蝠(こうもり)が飛んでいる。
○犖确 〔らくかく〕山に大きい石が多くあるさま。ごろごろと。でこぼことしている。 ○行徑微 山道がだんだんと細くなるさまを謂う。 ○行徑 こみち。○黄昏 〔くゎうこん〕。たそがれ。夕方の薄暗い時刻。 ○蝙蝠 〔へんぷく〕コウモリ。
升堂坐階新雨足、芭蕉葉大支子肥。
お堂に昇っていく階に坐れば新たに充分な雨が降っている。この雨で、芭蕉の葉は大きくなって、梔子(しし、くちなし)の実が大きくなっている。
○升堂 お堂に入る。「昇堂」。屋敷の場合は奥座敷に使われるが、寺で僧侶に会う場合はお堂の方が良い。 ○坐階 階(きざはし)に坐(すわ)る。 ○足 充分である。足(た)る。○芭蕉 〔ばせう〕バショウ科の多年草。高さ4メートルくらい。葉身は、長さ約1.5メートルの長楕円形。 ○大 大きくなる。後出の「肥」と句中の対を構成する。 ○支子 〔しし〕=梔子(くちなし)の実。「梔」:〔し〕クチナシ。夢は実現するものということをくちなしの実の大きくなることで悟ってくることを示唆している。
僧言古壁佛畫好、以火來照所見稀。
僧侶の方は「古い壁の仏画は好いものだ」とお説教をしてくれる。その仏画は、火で照らし出した部分、見えたのは、ごく一部である。
○「古壁佛畫好」 「古い壁に画かれている仏画は素晴らしい。」古きものを大切にしなさいというお説教と考える。僧侶が作者・韓愈に言った言葉。○以火 火で。 ○來照 照らし出す。 ○所見 見えるところ。見える事柄。 ○稀 わずかである。
796年 董晋の招きで宣武軍節度使の幕府に入る。
797年 病気のため一時求職。
孟郊が来る。
798年 同所で進士科の予備試験員。
張籍、この試験合格者の中に有る。
799年 汴州の乱「汴州亂二首其一 韓愈特集-6」
「此日足可惜贈張籍 韓愈-7-#1 ~14」
徐州武寧軍節度使 張建封の幕府に入る。
韓愈、命受けて長安へ。孟郊、呉、越を遊覧。
「忽忽」忽忽 唐宋詩-218 Ⅱ韓退之(韓愈) 韓愈特集-22
800年 春長安より徐州へ帰る。幕府を退く。
彭城に帰る
「歸彭城」 #1(全4回) 韓愈 唐宋詩-219 Ⅱ韓退之(韓愈) 韓愈特集-23
801年貞元十七年
身言書判科を受験して、落第。三月、洛陽、冬、長安に戻る。孟郊、溧陽の尉となる。
「山石」
・孟郊常州に行く。
「将歸贈孟東野房蜀客」(將に帰らんとして孟東野・房蜀客に贈る。)
山石 韓愈 #1
山石犖确行徑微,黄昏到寺蝙蝠飛。
升堂坐階新雨足,芭蕉葉大支子肥。
僧言古壁佛畫好,以火來照所見稀。」
#2
鋪床拂席置羹飯,疏糲亦足飽我飢。
寝床と腰掛になる板を並べ、席(むしろ)の敷物をひろげてくれ、羹、煮物と御飯を置きならべてくれて、粗食であってもわたしの空腹を満足させるに充分である。
夜深靜臥百蟲絶,清月出嶺光入扉。
夜が深けて静かに横に伏せていたら、たくさんの虫の声が急に途絶えて、清らかな月が、嶺から出てくると、月光が戸口から入ってくる。
天明獨去無道路,出入高下窮煙霏。
天が明るくなったのにつられて、ひとりで出かけようと思うが道らしい道が無いのである。道は高くなったり、下に下がったりして変化に富んでいる、朝靄が深くなるところを窮めるまでるいていくのだ。
山紅澗碧紛爛漫,時見松櫪皆十圍。」
山は紅になり、谷川は、苔むした碧色で流れる水も淥である、赤と緑は混じり合って、光り輝いている。時々、松や櫪(くぬぎ)の十人でかかえほどもあるのを見かける。
#3
當流赤足蹋澗石,水聲激激風吹衣。
人生如此自可樂,豈必局束爲人鞿。
嗟哉吾黨二三子,安得至老不更歸。」
#1
山石 犖确(らくかく)として 行径(こうけい)微にして,黄昏 寺に到れば 蝙蝠(へんぷく)飛ぶ。
堂に昇り 階に坐ざすれば 新雨足り,芭蕉(ばしょう)の葉は大いにして 支子肥ゆ。
僧は言う「古壁の佛畫(ぶつガ)好し」と,火を以て 來り照らすに 見る所稀まれなり。
#2
床を鋪(し)き 席(むしろ)を拂いて羹飯(こうはん)を置き,疏糲(それい) 亦また我が飢を 飽(あ)かしむるに 足る。
夜深く靜かに臥すれば 百蟲(ひゃくちゅう) 絶え,清月 嶺を出て 光 扉(とびら)に入る。
天明 獨り去ゆくに道路 無く,高下に 出入して 煙霏(えんぴ) を窮(きわ)む。
山 紅(くれない)に澗(たに) 碧(みどり)に 紛まじりて 爛漫,時に見る 松櫪(しょうれき)の皆 十圍(じゅうい)なるを。
#3
流れに當りて赤足もて 澗石(かんせき)を 蹋(ふ)み,水聲 激激として 風 衣(ころも)を吹く。
人生 此かくの如く自から樂しむべく,豈 必ずしも 局束(きょくそく)として 人の爲ために鞿(つな)がれんや。
嗟哉(ああ) 吾わが黨の二、三の子し,安いづくんぞ 老おいに至りて 更に歸らざることを得ん。
貞元十七年の冬、韓愈は結新たに再度単身で長安に上京した。口では世捨て人へのあこがれを言っていても、それは強がり、現実的には、高級官僚への夢を容易に絶ち切ることはできないのである。吏部試をもう一度受験しのである。彼はめでたく合格し、念願を果たすのである。この詩は、韓愈が決意を新たにした時の詩である。
現代語訳と訳註
(本文) #2
鋪床拂席置羹飯,疏糲亦足飽我飢。
夜深靜臥百蟲絶,清月出嶺光入扉。
天明獨去無道路,出入高下窮煙霏。
山紅澗碧紛爛漫,時見松櫪皆十圍。」
(下し文) #2
床を鋪(し)き 席(むしろ)を拂いて羹飯(こうはん)を置き,疏糲(それい) 亦また我が飢を 飽(あ)かしむるに 足る。
夜深く靜かに臥すれば 百蟲(ひゃくちゅう) 絶え,清月 嶺を出て 光 扉(とびら)に入る。
天明 獨り去ゆくに道路 無く,高下に 出入して 煙霏(えんぴ) を窮(きわ)む。
山 紅(くれない)に澗(たに) 碧(みどり)に 紛まじりて 爛漫,時に見る 松櫪(しょうれき)の皆 十圍(じゅうい)なるを。
(現代語訳)
寝床と腰掛になる板を並べ、席(むしろ)の敷物をひろげてくれ、羹、煮物と御飯を置きならべてくれて、粗食であってもわたしの空腹を満足させるに充分である。
夜が深けて静かに横に伏せていたら、たくさんの虫の声が急に途絶えて、清らかな月が、嶺から出てくると、月光が戸口から入ってくる。
天が明るくなったのにつられて、ひとりで出かけようと思うが道らしい道が無いのである。道は高くなったり、下に下がったりして変化に富んでいる、朝靄が深くなるところを窮めるまでるいていくのだ。
山は紅になり、谷川は、苔むした碧色で流れる水も淥である、赤と緑は混じり合って、光り輝いている。時々、松や櫪(くぬぎ)の十人でかかえほどもあるのを見かける。
(訳注)
鋪床拂席置羹飯、疏糲亦足飽我飢。
寝床と腰掛になる板を並べ、席(むしろ)の敷物をひろげてくれ、羹、煮物と御飯を置きならべてくれて、粗食であってもわたしの空腹を満足させるに充分である。
○鋪床 寝床と腰掛になる板を並べる。 ○拂席 席(むしろ)の敷物をひろげてくれる。 ○置 しつらえる。準備する。 ○羹飯 〔かうはん〕羹(あつもの)と御飯。○疏糲 〔それい〕粗末な飯。粗食。 ○飽 〔ほう〕満腹する。満足する。 ○飢 〔き〕腹が減る。飢(う)える。
夜深靜臥百蟲絶、清月出嶺光入扉。
夜が深けて静かに横に伏せていたら、たくさんの虫の声が急に途絶えて、清らかな月が、嶺から出てくると、月光が戸口から入ってくる。
○夜深 夜が更ける。中唐・白居易の『夜雪』に「已訝衾枕冷,復見窗戸明。夜深知雪重,時聞折竹聲。」とある。 ○靜臥 静かに横になる。 ○百蟲 色々な虫。多くの虫。 ○絶 (虫の声が)途絶える。○清月 くもりのない月。
天明獨去無道路、出入高下窮煙霏。
天が明るくなったのにつられて、ひとりで出かけようと思うが道らしい道が無いのである。道は高くなったり、下に下がったりして変化に富んでいる、朝靄が深くなるところを窮めるまでるいていくのだ。
○天明 夜明けになる。明けがたになる。 ○獨去 独(ひと)りで出かける。 ○無道路 道らしい道が無い。・出入:出たり入ったりする。行ったり来たりする。○高下 高くなったり低くなったり。 ○窮 〔きゅう〕窮(きわ)める。 「終南別業」漢詩紹介
(入山寄城中故人)王維
中歳頗好道、晩家南山陲。
興来毎独往、勝事空自知。
行到水窮処、坐看雲起時。
偶然値林叟、談笑無還期。
○煙霏 〔えんぴ〕たなびく靄(もや。)煙がたなびく。
山紅澗碧紛爛漫、時見松櫪皆十圍。
山は紅になり、谷川は、苔むした碧色で流れる水も淥である、赤と緑は混じり合って、光り輝いている。時々、松や櫪(くぬぎ)の十人でかかえほどもあるのを見かける。
○山紅 山は、紅(くれない)になる。○澗碧 苔むした碧色で流れる水も淥である ○澗 〔かん〕谷川。○紛 入り乱れる。 ○爛漫 〔らんまん〕光り輝くさま。あふれ散らばり消える。山が紅であるから、楓が散り去ることともいえる。通常は、春の花が咲き乱れるさま。○時見 時折見かける。 ○松櫪 〔しょうれき〕松と櫪(くぬぎ)。 ○十圍 十(とお)かかえ。十人よって抱え込む(大きさ)。
796年 董晋の招きで宣武軍節度使の幕府に入る。
797年 病気のため一時求職。
孟郊が来る。
798年 同所で進士科の予備試験員。
張籍、この試験合格者の中に有る。
799年 汴州の乱「汴州亂二首其一 韓愈特集-6」
「此日足可惜贈張籍 韓愈-7-#1 ~14」
徐州武寧軍節度使 張建封の幕府に入る。
韓愈、命受けて長安へ。孟郊、呉、越を遊覧。
「忽忽」忽忽 唐宋詩-218 Ⅱ韓退之(韓愈) 韓愈特集-22
800年 春長安より徐州へ帰る。幕府を退く。
彭城に帰る
「歸彭城」 #1(全4回) 韓愈 唐宋詩-219 Ⅱ韓退之(韓愈) 韓愈特集-23
801年貞元十七年
身言書判科を受験して、落第。三月、洛陽、冬、長安に戻る。孟郊、溧陽の尉となる。
「山石」
・孟郊常州に行く。
「将歸贈孟東野房蜀客」(將に帰らんとして孟東野・房蜀客に贈る。)
貞元十七年の冬、韓愈は結新たに再度単身で長安に上京した。口では世捨て人へのあこがれを言っていても、それは強がり、現実的には、高級官僚への夢を容易に絶ち切ることはできないのである。吏部試をもう一度受験しのである。彼はめでたく合格し、念願を果たすのである。この詩は、韓愈が決意を新たにした時の詩である。
山石 韓愈 #1
山石犖确行徑微,黄昏到寺蝙蝠飛。
升堂坐階新雨足,芭蕉葉大支子肥。
僧言古壁佛畫好,以火來照所見稀。」
#2
鋪床拂席置羹飯,疏糲亦足飽我飢。
夜深靜臥百蟲絶,清月出嶺光入扉。
天明獨去無道路,出入高下窮煙霏。
山紅澗碧紛爛漫,時見松櫪皆十圍。」
#3
當流赤足蹋澗石,水聲激激風吹衣。
谷川の流れに行き至ったので、裸足になって、水中の石を踏んでいくと、水の音はだんだん激しく、風は強く衣のなかにまで吹きつけてくる。
人生如此自可樂,豈必局束爲人鞿。
人生とは、このように自分からら楽しめることだとおもえることをすべきものであるし。他人のことをきにして、その人のために繋がれてちぢこまっているということが、どうして必要なのか。
嗟哉吾黨二三子,安得至老不更歸。」
ああ、わたしの人生おける仲間の達、二、三人の君たちよ。どうして歳を取ってから、それでもなおまた、隠棲することにならざるをえないであろう。
#1
山石 犖确(らくかく)として 行径(こうけい)微にして,黄昏 寺に到れば 蝙蝠(へんぷく)飛ぶ。
堂に昇り 階に坐ざすれば 新雨足り,芭蕉(ばしょう)の葉は大いにして 支子肥ゆ。
僧は言う「古壁の佛畫(ぶつガ)好し」と,火を以て 來り照らすに 見る所稀まれなり。
#2
床を鋪(し)き 席(むしろ)を拂いて羹飯(こうはん)を置き,疏糲(それい) 亦また我が飢を 飽(あ)かしむるに 足る。
夜深く靜かに臥すれば 百蟲(ひゃくちゅう) 絶え,清月 嶺を出て 光 扉(とびら)に入る。
天明 獨り去ゆくに道路 無く,高下に 出入して 煙霏(えんぴ) を窮(きわ)む。
山 紅(くれない)に澗(たに) 碧(みどり)に 紛まじりて 爛漫,時に見る 松櫪(しょうれき)の皆 十圍(じゅうい)なるを。
#3
流れに當りて赤足もて 澗石(かんせき)を 蹋(ふ)み,水聲 激激として 風 衣(ころも)を吹く。
人生 此かくの如く自から樂しむべく,豈 必ずしも 局束(きょくそく)として 人の爲ために鞿(つな)がれんや。
嗟哉(ああ) 吾わが黨の二、三の子し,安いづくんぞ 老に至りて 更に歸らざることを得ん。
現代語訳と訳註
(本文) #3
當流赤足蹋澗石,水聲激激風吹衣。
人生如此自可樂,豈必局束爲人鞿。
嗟哉吾黨二三子,安得至老不更歸。」
(下し文) #3
流れに當りて赤足もて 澗石(かんせき)を 蹋(ふ)み,水聲 激激として 風 衣(ころも)を吹く。
人生 此かくの如く自から樂しむべく,豈 必ずしも 局束(きょくそく)として 人の爲ために鞿(つな)がれんや。
嗟哉(ああ) 吾わが黨の二、三の子し,安いづくんぞ 老おいに至りて 更に歸らざることを得ん。
(現代語訳)
谷川の流れに行き至ったので、裸足になって、水中の石を踏んでいくと、水の音はだんだん激しく、風は強く衣のなかにまで吹きつけてくる。
人生とは、このように自分からら楽しめることだとおもえることをすべきものであるし。他人のことをきにして、その人のために繋がれてちぢこまっているということが、どうして必要なのか。
ああ、わたしの人生おける仲間の達、二、三人の君たちよ。どうして歳を取ってから、それでもなおまた、隠棲することにならざるをえないであろう。
(訳注)
當流赤足蹋澗石、水聲激激風吹衣。
谷川の流れに行き至ったので、裸足になって、水中の石を踏んでいくと、水の音はだんだん激しく、風は強く衣のなかにまで吹きつけてくる。
○當流 (谷川の)流れに行き当たる。 ○赤足 裸足(はだし)。 ○蹋 〔とう〕踏(ふ)む。 ○澗石 〔かんせき〕谷川の石。○激激 〔げきげき〕水の勢いの激しいさま。
人生如此自可樂、豈必局束爲人鞿
人生とは、このように自分からら楽しめることだとおもえることをすべきものであるし。他人のことをきにして、その人のために繋がれてちぢこまっているということが、どうして必要なのか。
○人生 人生。人が生きる。 ○如此 このよう(に)。 ○自可樂 自分からら楽しめることとおもえることをやるべきものである。たとえ、落第しても、仲間と哲学論争をして、人生を意義あるものにしたい。○豈必 必ずしも…するには及ばない。 ○局束 〔きょくそく〕体や心が縮こまる。のびのびしない。人のことを気にしたり、受験のことだけで萎縮したり、知事困ったりすることの方が問題である。○爲人 人柄。人格、品格をけいせいすること。 ○鞿 〔き〕きずな。束縛。作者は動詞として使っている。
嗟哉吾黨二三子、安得至老不更歸。
ああ、わたしの人生おける仲間の達、二、三人の君たちよ。どうして歳を取ってから、それでもなおまた、隠棲することにならざるをえないであろう。
○嗟哉 ああ。おお。歎息する。感嘆する。 ○吾黨 わたしの仲間。 ○二三子 二、三人の者。 ○安得 どこに求められよう。どうして…だろうか。いづくにか…を得ん。いづくんぞ…なるを得んや。 ○至老 老齢になっても。年をとっても。 ○不更歸 なおまた隠棲することがない。「更不歸」の意。○安得不更歸 帰ってこざるを得ないだろう。
山石
山に転がって進む道を邪魔する石。(韓愈受験に落第し、再度チャレンジすることを決したことをこの山道にたとえてうたうものである。)
#1
山石犖确行徑微,黄昏到寺蝙蝠飛。
山に登る道は大きい石がごろごろとたくさんあり、小道は細くなってかすかな感じになっている。黄昏(たそがれ)になって寺にたどり着くと、蝙蝠(こうもり)が飛んでいる。
升堂坐階新雨足,芭蕉葉大支子肥。
お堂に昇っていく階に坐れば新たに充分な雨が降っている。この雨で、芭蕉の葉は大きくなって、梔子(しし、くちなし)の実が大きくなっている。
僧言古壁佛畫好,以火來照所見稀。」
坊さんは古い壁に措かれた仏の絵がすはらしいといい、明かりで照らしてくれたが、剥げているためいくらも見えなかった。
僧侶の方は「古い壁の仏画は好いものだ」とお説教をしてくれる。その仏画は、火で照らし出した部分、見えたのは、ごく一部である。
#2
鋪床拂席置羹飯,疏糲亦足飽我飢。
寝床と腰掛になる板を並べ、席(むしろ)の敷物をひろげてくれ、羹、煮物と御飯を置きならべてくれて、粗食であってもわたしの空腹を満足させるに充分である。
夜深靜臥百蟲絶,清月出嶺光入扉。
夜が深けて静かに横に伏せていたら、たくさんの虫の声が急に途絶えて、清らかな月が、嶺から出てくると、月光が戸口から入ってくる。
天明獨去無道路,出入高下窮煙霏。
天が明るくなったのにつられて、ひとりで出かけようと思うが道らしい道が無いのである。道は高くなったり、下に下がったりして変化に富んでいる、朝靄が深くなるところを窮めるまでるいていくのだ。
山紅澗碧紛爛漫,時見松櫪皆十圍。」
山は紅になり、谷川は、苔むした碧色で流れる水も淥である、赤と緑は混じり合って、光り輝いている。時々、松や櫪(くぬぎ)の十人でかかえほどもあるのを見かける。#3
當流赤足蹋澗石,水聲激激風吹衣。
谷川の流れに行き至ったので、裸足になって、水中の石を踏んでいくと、水の音はだんだん激しく、風は強く衣のなかにまで吹きつけてくる。
人生如此自可樂,豈必局束爲人鞿。
人生とは、このように自分からら楽しめることだとおもえることをすべきものであるし。他人のことをきにして、その人のために繋がれてちぢこまっているということが、どうして必要なのか。
嗟哉吾黨二三子,安得至老不更歸。」
ああ、わたしの人生おける仲間の達、二、三人の君たちよ。どうして歳を取ってから、それでもなおまた、隠棲することにならざるをえないであろう。
#1
山石 犖确(らくかく)として 行径(こうけい)微にして,黄昏 寺に到れば 蝙蝠(へんぷく)飛ぶ。
堂に昇り 階に坐ざすれば 新雨足り,芭蕉(ばしょう)の葉は大いにして 支子肥ゆ。
僧は言う「古壁の佛畫(ぶつガ)好し」と,火を以て 來り照らすに 見る所稀まれなり。
#2
床を鋪(し)き 席(むしろ)を拂いて羹飯(こうはん)を置き,疏糲(それい) 亦また我が飢を 飽(あ)かしむるに 足る。
夜深く靜かに臥すれば 百蟲(ひゃくちゅう) 絶え,清月 嶺を出て 光 扉(とびら)に入る。
天明 獨り去ゆくに道路 無く,高下に 出入して 煙霏(えんぴ) を窮(きわ)む。
山 紅(くれない)に澗(たに) 碧(みどり)に 紛まじりて 爛漫,時に見る 松櫪(しょうれき)の皆 十圍(じゅうい)なるを。
#3
流れに當りて赤足もて 澗石(かんせき)を 蹋(ふ)み,水聲 激激として 風 衣(ころも)を吹く。
人生 此かくの如く自から樂しむべく,豈 必ずしも 局束(きょくそく)として 人の爲ために鞿(つな)がれんや。
嗟哉(ああ) 吾わが黨の二、三の子し,安いづくんぞ 老おいに至りて 更に歸らざることを得ん。
- テーマ:詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
- ジャンル:学問・文化・芸術
- カテゴリ:韓昌黎集 全十一巻
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