373 韓昌黎集 巻五 106 《謁衡獄廟遂宿獄寺題門樓》 韓愈 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 4191
- 2014/05/13
- 00:35
謁衡獄廟遂宿獄寺題門樓 韓退之(韓愈)詩<51-#1>Ⅱ中唐詩344 紀頌之の漢詩ブログ1111
謁衡獄廟遂宿岳寺題門樓
衡嶽廟に拝謁してとうとう衡山にある仏寺の宿坊に宿し、その楼門に題す詩
五嶽祭秩皆三公,四方環鎮嵩當中。
五嶽は祭典序列はみな三公待遇である。天下四方に位置し、嵩山を中心にして天下鎮守するのである。
火維地荒足妖怪,天假神柄專其雄。
赤道に位置するといわれてきたこの地は荒廃し、妖怪どもがあまた棲息した、そして天は衡山に神の権能を賦与し、それらを雄伏させようとされたのだ。
噴雲洩霧藏半腹,雖有絕頂誰能窮。
雲を吹き出し、霧をもらしていて、中腹以上にいくとかくれている。頂上はもとより存在しているといっても、誰が見きわめえたというのか。
我來正逢秋雨節,陰氣晦昧無清風。
私はここへ来て正に秋雨の季節に逢ってしまった。秋雨の陰湿の気、ぶきみに暗いし、ここではすがすがしい風は吹かないのである。
#2
潛心默禱若有應,豈非正直能感通。
須臾靜掃眾峰出,仰見突兀撐青空。
紫蓋連延接天柱,石廩騰擲堆祝融。
森然魄動下馬拜,松柏一徑趨靈宮。
#3
粉牆丹柱動光彩,鬼物圖畫填青紅。
升階傴僂薦脯酒,欲以菲薄明其衷。
廟令老人識神意,睢盱偵伺能鞠躬。
手持杯珓導我擲,云此最吉餘難同。
#4
竄逐蠻荒幸不死,衣食才足甘長終。
侯王將相望久絕,神縱欲福難為功。
夜投佛寺上高閣,星月掩映雲朣朧。
猿鳴鐘動不知曙,杲杲寒日生於東。
(衡嶽【こうがく】廟に謁し、遂に嶽寺に宿り、門樓【もんろう】に題す。)
五嶽の祭秩【さいちつ】皆 三公【さんこう】、四方に環【めぐ】り鎮【ちん】して 嵩【すう】は中に當る。
火維【かい】地荒れて 妖怪【ようかい】足【おお】く、天 神柄【しんぺい】を瑕【か】して 其の雄を専にす。
雲を噴き 霧を泄【もら】して 半腹を蔵【ぞう】す、絶頂有りと雖も 誰か能く窮めむ。
我来って 正に 秋雨の節に逢ふ、陰気【いんき】晦昧【かいまい】として 清風無し。
#2
心を潜めて默禱【もくとう】すれば 応【こたえ】有るが若し、豈に 正直なるに非ずんば 能く感通【かんつう】せむや。
須臾【しばらく】して 靜かに掃って 衆峯【しゅうほう】出づ、仰いで見るに 突冗【とつごつ】として 青空を撐【ささ】ヘ。
紫蓋【しがい】連り延びて 天柱に接し、石廩【せきりん】騰擲【とうてき】し 祝融【しゅくゆう】堆し。
森然【しんぜん】として魄【はく】動き 馬を下って拝す、松柏の一徑【いっけい】霊宮【れいきゅう】に趨【おもむ】く。#3
粉牆【ふんしょう】丹柱【たんちゅう】光彩【こうさい】を勤し、鬼物【きぶつ】の圖畫【とが】青紅【せいこう】を填【うづ】む。
階に升【のぼ】って傴僂【うろう】し 脯酒【ほしゅ】を薦む、菲薄【ひはく】を以て 其の衷を明にせんと欲す。
廟令【びょうれい】の老人 神意【しんい】を識る と、睢盱【いく】偵伺【ていし】して 能く鞠躬【きくきゅう】す。
手に盃珓【はいこう】を持して 我をして擲【なげう】たしむ、云ふ 此れ最も吉にして餘【よ】は同じうし難し と。
#4
蠻荒【ばんこう】に竄逐【ざんちく】せられ 幸に死せざるも、衣食【いしょく】緩【わずか】に足りて長【とこしえ】に 終らんことに甘んず。
侯王【こうおう】將相【しょうそう】たらんとする望は 久しく絶ちたり、神 縦【たと】い福【さいわい】せんと欲すとも 功を錫し難し。
夜 佛寺【ぶつじ】に投じて 高閣に上る、星月 掩映【えんえい】して 雲 朣朧【とうろう】たり。
猿鳴き 鐘動いて 曙を知らず、杲杲【こうこう】たる寒日【かんじつ】東に生ず。
現代語訳と訳註
(本文)
謁衡獄廟遂宿岳寺題門樓
五嶽祭秩皆三公,四方環鎮嵩當中。
火維地荒足妖怪,天假神柄專其雄。
噴雲洩霧藏半腹,雖有絕頂誰能窮。
我來正逢秋雨節,陰氣晦昧無清風。
(下し文)
(衡嶽【こうがく】廟に謁し、遂に嶽寺に宿り、門樓【もんろう】に題す。)
五嶽の祭秩【さいちつ】皆 三公【さんこう】、四方に環【めぐ】り鎮【ちん】して 嵩【すう】は中に當る。
火維【かい】地荒れて 妖怪【ようかい】足【おお】く、天 神柄【しんぺい】を瑕【か】して 其の雄を専にす。
雲を噴き 霧を泄【もら】して 半腹を蔵【ぞう】す、絶頂有りと雖も 誰か能く窮めむ。
我来って 正に 秋雨の節に逢ふ、陰気【いんき】晦昧【かいまい】として 清風無し。
(現代語訳)
衡嶽廟に拝謁してとうとう衡山にある仏寺の宿坊に宿し、その楼門に題す詩
五嶽は祭典序列はみな三公待遇である。天下四方に位置し、嵩山を中心にして天下鎮守するのである。
赤道に位置するといわれてきたこの地は荒廃し、妖怪どもがあまた棲息した、そして天は衡山に神の権能を賦与し、それらを雄伏させようとされたのだ。
雲を吹き出し、霧をもらしていて、中腹以上にいくとかくれている。頂上はもとより存在しているといっても、誰が見きわめえたというのか。
私はここへ来て正に秋雨の季節に逢ってしまった。秋雨の陰湿の気、ぶきみに暗いし、ここではすがすがしい風は吹かないのである。
(訳注)#1
謁衡岳廟遂宿獄寺題門樓
衡嶽【こうがく】廟に謁し、遂に嶽寺に宿り、門樓【もんろう】に題す。
衡嶽廟に拝謁してとうとう衡山にある仏寺の宿坊に宿し、その楼門に題す詩
・謁衡岳廟 底本巻三。衡岳廟は衡山の山霊を祭る嗣である。衡山は中国五岳の一つで、湖南省卸南県の南方にあたり、衡山県の西三十里の地にあり、南岳とよぱれた。永貞元年九月中下句、槨州から新任地江陵へ向かう途中の作。・岳寺 衡山にある仏寺。・門楼 楼門。
五嶽祭秩皆三公,四方環鎮嵩當中。
五嶽の祭秩【さいちつ】皆 三公【さんこう】、四方に環【めぐ】り鎮【ちん】して 嵩【すう】は中に當る。
五嶽は祭典序列はみな三公待遇である。天下四方に位置し、嵩山を中心にして天下鎮守するのである。
・五岳祭秩皆三公『礼記』王制に「天子は天下の名山大川を祭る。五岳は三公に視へ、四涜は諸侯に視ふ。」とある。五岳とは
華山(西嶽;2,160m陝西省渭南市華陰市)
嵩山(中嶽;1,440m河南省鄭州市登封市)、
泰山(東嶽;1,545m山東省泰安市泰山区)、
衡山(南嶽;1,298m湖南省衡陽市衡山県)、
恒山(北嶽;2,016,m山西省大同市渾源県)
これを祭るとぎ、その祭器や犠牲の数を、三公すなわち国家の元老たる太師・太傅・太保を正餐にまねく場合になぞらえ、四涜すなわち長江・黄河・淮江・済河の四大川を祭るときは、諸侯になぞらえる、というのである。
火維地荒足妖怪,天假神柄專其雄。
火維【かい】地荒れて 妖怪【ようかい】足【おお】く、天 神柄【しんぺい】を瑕【か】して 其の雄を専にす。
赤道に位置するといわれてきたこの地は荒廃し、妖怪どもがあまた棲息した、そして天は衡山に神の権能を賦与し、それらを雄伏させようとされたのだ。
・火維 赤道に位置するもの。衡山は 『初学記』に「南岳衡山は朱陵の霊台、太虚の宝洞にして、上は冥宿を承け、徳を銓り物を釣ぶ。放に衡山と名づく。下は離宮に踞し、位を火郷に摂り、赤帝その嶺に館し、祝融その陽に託す。故に南岳と号す」。と記すように南方熱帯の地にある山だ。・天仮神柄 天が衡山に神としての権能を貸し与えた。
噴雲洩霧藏半腹,雖有絕頂誰能窮。
雲を噴き 霧を泄【もら】して 半腹を蔵【ぞう】す、絶頂有りと雖も 誰か能く窮めむ。
雲を吹き出し、霧をもらしていて、中腹以上にいくとかくれている。頂上はもとより存在しているといっても、誰が見きわめえたというのか。
我來正逢秋雨節,陰氣晦昧無清風。
我来って 正に 秋雨の節に逢ふ、陰気【いんき】晦昧【かいまい】として 清風無し。
私はここへ来て正に秋雨の季節に逢ってしまった。秋雨の陰湿の気、ぶきみに暗いし、ここではすがすがしい風は吹かないのである。
・晦昧 くらい。
謁衡獄廟遂宿獄寺題門樓 韓退之(韓愈)詩<51-#1>Ⅱ中唐詩344 紀頌之の漢詩ブログ1111
謁衡獄廟遂宿岳寺題門樓
衡嶽廟に拝謁してとうとう衡山にある仏寺の宿坊に宿し、その楼門に題す詩
五嶽祭秩皆三公,四方環鎮嵩當中。
五嶽は祭典序列はみな三公待遇である。天下四方に位置し、嵩山を中心にして天下鎮守するのである。
火維地荒足妖怪,天假神柄專其雄。
赤道に位置するといわれてきたこの地は荒廃し、妖怪どもがあまた棲息した、そして天は衡山に神の権能を賦与し、それらを雄伏させようとされたのだ。
噴雲洩霧藏半腹,雖有絕頂誰能窮。
雲を吹き出し、霧をもらしていて、中腹以上にいくとかくれている。頂上はもとより存在しているといっても、誰が見きわめえたというのか。
我來正逢秋雨節,陰氣晦昧無清風。
私はここへ来て正に秋雨の季節に逢ってしまった。秋雨の陰湿の気、ぶきみに暗いし、ここではすがすがしい風は吹かないのである。
#2
潛心默禱若有應,豈非正直能感通。
須臾靜掃眾峰出,仰見突兀撐青空。
紫蓋連延接天柱,石廩騰擲堆祝融。
森然魄動下馬拜,松柏一徑趨靈宮。
#3
粉牆丹柱動光彩,鬼物圖畫填青紅。
升階傴僂薦脯酒,欲以菲薄明其衷。
廟令老人識神意,睢盱偵伺能鞠躬。
手持杯珓導我擲,云此最吉餘難同。
#4
竄逐蠻荒幸不死,衣食才足甘長終。
侯王將相望久絕,神縱欲福難為功。
夜投佛寺上高閣,星月掩映雲朣朧。
猿鳴鐘動不知曙,杲杲寒日生於東。
(衡嶽【こうがく】廟に謁し、遂に嶽寺に宿り、門樓【もんろう】に題す。)
五嶽の祭秩【さいちつ】皆 三公【さんこう】、四方に環【めぐ】り鎮【ちん】して 嵩【すう】は中に當る。
火維【かい】地荒れて 妖怪【ようかい】足【おお】く、天 神柄【しんぺい】を瑕【か】して 其の雄を専にす。
雲を噴き 霧を泄【もら】して 半腹を蔵【ぞう】す、絶頂有りと雖も 誰か能く窮めむ。
我来って 正に 秋雨の節に逢ふ、陰気【いんき】晦昧【かいまい】として 清風無し。
#2
心を潜めて默禱【もくとう】すれば 応【こたえ】有るが若し、豈に 正直なるに非ずんば 能く感通【かんつう】せむや。
須臾【しばらく】して 靜かに掃って 衆峯【しゅうほう】出づ、仰いで見るに 突冗【とつごつ】として 青空を撐【ささ】ヘ。
紫蓋【しがい】連り延びて 天柱に接し、石廩【せきりん】騰擲【とうてき】し 祝融【しゅくゆう】堆し。
森然【しんぜん】として魄【はく】動き 馬を下って拝す、松柏の一徑【いっけい】霊宮【れいきゅう】に趨【おもむ】く。#3
粉牆【ふんしょう】丹柱【たんちゅう】光彩【こうさい】を勤し、鬼物【きぶつ】の圖畫【とが】青紅【せいこう】を填【うづ】む。
階に升【のぼ】って傴僂【うろう】し 脯酒【ほしゅ】を薦む、菲薄【ひはく】を以て 其の衷を明にせんと欲す。
廟令【びょうれい】の老人 神意【しんい】を識る と、睢盱【いく】偵伺【ていし】して 能く鞠躬【きくきゅう】す。
手に盃珓【はいこう】を持して 我をして擲【なげう】たしむ、云ふ 此れ最も吉にして餘【よ】は同じうし難し と。
#4
蠻荒【ばんこう】に竄逐【ざんちく】せられ 幸に死せざるも、衣食【いしょく】緩【わずか】に足りて長【とこしえ】に 終らんことに甘んず。
侯王【こうおう】將相【しょうそう】たらんとする望は 久しく絶ちたり、神 縦【たと】い福【さいわい】せんと欲すとも 功を錫し難し。
夜 佛寺【ぶつじ】に投じて 高閣に上る、星月 掩映【えんえい】して 雲 朣朧【とうろう】たり。
猿鳴き 鐘動いて 曙を知らず、杲杲【こうこう】たる寒日【かんじつ】東に生ず。
現代語訳と訳註
(本文)
謁衡獄廟遂宿岳寺題門樓
五嶽祭秩皆三公,四方環鎮嵩當中。
火維地荒足妖怪,天假神柄專其雄。
噴雲洩霧藏半腹,雖有絕頂誰能窮。
我來正逢秋雨節,陰氣晦昧無清風。
(下し文)
(衡嶽【こうがく】廟に謁し、遂に嶽寺に宿り、門樓【もんろう】に題す。)
五嶽の祭秩【さいちつ】皆 三公【さんこう】、四方に環【めぐ】り鎮【ちん】して 嵩【すう】は中に當る。
火維【かい】地荒れて 妖怪【ようかい】足【おお】く、天 神柄【しんぺい】を瑕【か】して 其の雄を専にす。
雲を噴き 霧を泄【もら】して 半腹を蔵【ぞう】す、絶頂有りと雖も 誰か能く窮めむ。
我来って 正に 秋雨の節に逢ふ、陰気【いんき】晦昧【かいまい】として 清風無し。
(現代語訳)
衡嶽廟に拝謁してとうとう衡山にある仏寺の宿坊に宿し、その楼門に題す詩
五嶽は祭典序列はみな三公待遇である。天下四方に位置し、嵩山を中心にして天下鎮守するのである。
赤道に位置するといわれてきたこの地は荒廃し、妖怪どもがあまた棲息した、そして天は衡山に神の権能を賦与し、それらを雄伏させようとされたのだ。
雲を吹き出し、霧をもらしていて、中腹以上にいくとかくれている。頂上はもとより存在しているといっても、誰が見きわめえたというのか。
私はここへ来て正に秋雨の季節に逢ってしまった。秋雨の陰湿の気、ぶきみに暗いし、ここではすがすがしい風は吹かないのである。
(訳注)#1
謁衡岳廟遂宿獄寺題門樓
衡嶽【こうがく】廟に謁し、遂に嶽寺に宿り、門樓【もんろう】に題す。
衡嶽廟に拝謁してとうとう衡山にある仏寺の宿坊に宿し、その楼門に題す詩
・謁衡岳廟 底本巻三。衡岳廟は衡山の山霊を祭る嗣である。衡山は中国五岳の一つで、湖南省卸南県の南方にあたり、衡山県の西三十里の地にあり、南岳とよぱれた。永貞元年九月中下句、槨州から新任地江陵へ向かう途中の作。・岳寺 衡山にある仏寺。・門楼 楼門。
五嶽祭秩皆三公,四方環鎮嵩當中。
五嶽の祭秩【さいちつ】皆 三公【さんこう】、四方に環【めぐ】り鎮【ちん】して 嵩【すう】は中に當る。
五嶽は祭典序列はみな三公待遇である。天下四方に位置し、嵩山を中心にして天下鎮守するのである。
・五岳祭秩皆三公『礼記』王制に「天子は天下の名山大川を祭る。五岳は三公に視へ、四涜は諸侯に視ふ。」とある。五岳とは
華山(西嶽;2,160m陝西省渭南市華陰市)
嵩山(中嶽;1,440m河南省鄭州市登封市)、
泰山(東嶽;1,545m山東省泰安市泰山区)、
衡山(南嶽;1,298m湖南省衡陽市衡山県)、
恒山(北嶽;2,016,m山西省大同市渾源県)
これを祭るとぎ、その祭器や犠牲の数を、三公すなわち国家の元老たる太師・太傅・太保を正餐にまねく場合になぞらえ、四涜すなわち長江・黄河・淮江・済河の四大川を祭るときは、諸侯になぞらえる、というのである。
火維地荒足妖怪,天假神柄專其雄。
火維【かい】地荒れて 妖怪【ようかい】足【おお】く、天 神柄【しんぺい】を瑕【か】して 其の雄を専にす。
赤道に位置するといわれてきたこの地は荒廃し、妖怪どもがあまた棲息した、そして天は衡山に神の権能を賦与し、それらを雄伏させようとされたのだ。
・火維 赤道に位置するもの。衡山は 『初学記』に「南岳衡山は朱陵の霊台、太虚の宝洞にして、上は冥宿を承け、徳を銓り物を釣ぶ。放に衡山と名づく。下は離宮に踞し、位を火郷に摂り、赤帝その嶺に館し、祝融その陽に託す。故に南岳と号す」。と記すように南方熱帯の地にある山だ。・天仮神柄 天が衡山に神としての権能を貸し与えた。
噴雲洩霧藏半腹,雖有絕頂誰能窮。
雲を噴き 霧を泄【もら】して 半腹を蔵【ぞう】す、絶頂有りと雖も 誰か能く窮めむ。
雲を吹き出し、霧をもらしていて、中腹以上にいくとかくれている。頂上はもとより存在しているといっても、誰が見きわめえたというのか。
我來正逢秋雨節,陰氣晦昧無清風。
我来って 正に 秋雨の節に逢ふ、陰気【いんき】晦昧【かいまい】として 清風無し。
私はここへ来て正に秋雨の季節に逢ってしまった。秋雨の陰湿の気、ぶきみに暗いし、ここではすがすがしい風は吹かないのである。
・晦昧 くらい。
謁衡獄廟遂宿岳寺題門樓
衡嶽廟に拝謁してとうとう衡山にある仏寺の宿坊に宿し、その楼門に題す詩
五嶽祭秩皆三公,四方環鎮嵩當中。
五嶽は祭典序列はみな三公待遇である。天下四方に位置し、嵩山を中心にして天下鎮守するのである。
火維地荒足妖怪,天假神柄專其雄。
赤道に位置するといわれてきたこの地は荒廃し、妖怪どもがあまた棲息した、そして天は衡山に神の権能を賦与し、それらを雄伏させようとされたのだ。
噴雲洩霧藏半腹,雖有絕頂誰能窮。
雲を吹き出し、霧をもらしていて、中腹以上にいくとかくれている。頂上はもとより存在しているといっても、誰が見きわめえたというのか。
我來正逢秋雨節,陰氣晦昧無清風。
私はここへ来て正に秋雨の季節に逢ってしまった。秋雨の陰湿の気、ぶきみに暗いし、ここではすがすがしい風は吹かないのである。
#2
潛心默禱若有應,豈非正直能感通。
そうして、心を静かに潜めるようにして黙祷したら、それに応えてくれたように思われるのだ。それで正直であることが出来ない様でどうしてよく神仏に祈り、悟ことができようか。
須臾靜掃眾峰出,仰見突兀撐青空。
しばらくすると 静かに暗い陰気の雲は掃われて 連峰の山々が姿を現わしている。見あげれば 高く抜きん出て立ち青空をささえていた。
紫蓋連延接天柱,石廩騰擲堆祝融。
衡山七十二峯の紫蓋は連なって延び 天をささえる天柱と接しており、石稟は飛騰し、祝融は淮積岩をあらわにし、衡山四絶景を構成する。
森然魄動下馬拜,松柏一徑趨靈宮。
山は森然として神霊な動きをしており、わたしは馬を下りて拝礼するのである。松柏の間を行く一筋の小径には霊宮にはしり通じている。
#3
粉牆丹柱動光彩,鬼物圖畫填青紅。
白い漆喰の壁と丹塗の柱はきらきらと互いに映えている。鬼神や霊獣が青や紅の絵の具でもり上げて描かれてあった。
升階傴僂薦脯酒,欲以菲薄明其衷。
陵廟の階をのぼってゆき、ぬかずいて、乾肉と酒とを供えた。お粗末かもしれないが、奉謝の誠意をあらわそうと思ったからだ。
廟令老人識神意,睢盱偵伺能鞠躬。
そこの年老いた宮司は神慮をうかがうことができると認識した。つまらぬ人がにこにこと媚びヘつらう顔色を見て身を丸くしてぺこべこお辞儀をする。
手持杯珓導我擲,云此最吉餘難同。
そして貝占をしてみなさいとわたしに二枚の貝殼を 投げさせた。それで卦が出てこのように言ったのだ
「最もよい吉であり、こんな卦はめったに出るものではない」などと。
#4
竄逐蠻荒幸不死,衣食才足甘長終。
侯王將相望久絕,神縱欲福難為功。
夜投佛寺上高閣,星月掩映雲朣朧。
猿鳴鐘動不知曙,杲杲寒日生於東。
(衡嶽【こうがく】廟に謁し、遂に嶽寺に宿り、門樓【もんろう】に題す。)
五嶽の祭秩【さいちつ】皆 三公【さんこう】、四方に環【めぐ】り鎮【ちん】して 嵩【すう】は中に當る。
火維【かい】地荒れて 妖怪【ようかい】足【おお】く、天 神柄【しんぺい】を瑕【か】して 其の雄を専にす。
雲を噴き 霧を泄【もら】して 半腹を蔵【ぞう】す、絶頂有りと雖も 誰か能く窮めむ。
我来って 正に 秋雨の節に逢ふ、陰気【いんき】晦昧【かいまい】として 清風無し。
#2
心を潜めて默禱【もくとう】すれば 応【こたえ】有るが若し、豈に 正直なるに非ずんば 能く感通【かんつう】せむや。
須臾【しばらく】して 靜かに掃って 衆峯【しゅうほう】出づ、仰いで見るに 突冗【とつごつ】として 青空を撐【ささ】ヘ。
紫蓋【しがい】連り延びて 天柱に接し、石廩【せきりん】騰擲【とうてき】し 祝融【しゅくゆう】堆し。
森然【しんぜん】として魄【はく】動き 馬を下って拝す、松柏の一徑【いっけい】霊宮【れいきゅう】に趨【おもむ】く。
#3
粉牆【ふんしょう】丹柱【たんちゅう】光彩【こうさい】を勤し、鬼物【きぶつ】の圖畫【とが】青紅【せいこう】を填【うづ】む。
階に升【のぼ】って傴僂【うろう】し 脯酒【ほしゅ】を薦む、菲薄【ひはく】を以て 其の衷を明にせんと欲す。
廟令【びょうれい】の老人 神意【しんい】を識る と、睢盱【いく】偵伺【ていし】して 能く鞠躬【きくきゅう】す。
手に盃珓【はいこう】を持して 我をして擲【なげう】たしむ、云ふ 此れ最も吉にして餘【よ】は同じうし難し と。
#4
蠻荒【ばんこう】に竄逐【ざんちく】せられ 幸に死せざるも、衣食【いしょく】緩【わずか】に足りて長【とこしえ】に 終らんことに甘んず。
侯王【こうおう】將相【しょうそう】たらんとする望は 久しく絶ちたり、神 縦【たと】い福【さいわい】せんと欲すとも 功を錫し難し。
夜 佛寺【ぶつじ】に投じて 高閣に上る、星月 掩映【えんえい】して 雲 朣朧【とうろう】たり。
猿鳴き 鐘動いて 曙を知らず、杲杲【こうこう】たる寒日【かんじつ】東に生ず。
現代語訳と訳註
(本文) #3
粉牆丹柱動光彩,鬼物圖畫填青紅。
升階傴僂薦脯酒,欲以菲薄明其衷。
廟令老人識神意,睢盱偵伺能鞠躬。
手持杯珓導我擲,云此最吉餘難同。
(下し文) #3
粉牆【ふんしょう】丹柱【たんちゅう】光彩【こうさい】を勤し、鬼物【きぶつ】の圖畫【とが】青紅【せいこう】を填【うづ】む。
階に升【のぼ】って傴僂【うろう】し 脯酒【ほしゅ】を薦む、菲薄【ひはく】を以て 其の衷を明にせんと欲す。
廟令【びょうれい】の老人 神意【しんい】を識る と、睢盱【いく】偵伺【ていし】して 能く鞠躬【きくきゅう】す。
手に盃珓【はいこう】を持して 我をして擲【なげう】たしむ、云ふ 此れ最も吉にして餘【よ】は同じうし難し と。
(現代語訳)
白い漆喰の壁と丹塗の柱はきらきらと互いに映えている。鬼神や霊獣が青や紅の絵の具でもり上げて描かれてあった。
陵廟の階をのぼってゆき、ぬかずいて、乾肉と酒とを供えた。お粗末かもしれないが、奉謝の誠意をあらわそうと思ったからだ。
そこの年老いた宮司は神慮をうかがうことができると認識した。つまらぬ人がにこにこと媚びヘつらう顔色を見て身を丸くしてぺこべこお辞儀をする。
そして貝占をしてみなさいとわたしに二枚の貝殼を 投げさせた。それで卦が出てこのように言ったのだ
「最もよい吉であり、こんな卦はめったに出るものではない」などと。
(訳注)#3
粉牆丹柱動光彩,鬼物圖畫填青紅。
粉牆【ふんしょう】丹柱【たんちゅう】光彩【こうさい】を勤し、鬼物【きぶつ】の圖畫【とが】青紅【せいこう】を填【うづ】む。
白い漆喰の壁と丹塗の柱はきらきらと互いに映えている。鬼神や霊獣が青や紅の絵の具でもり上げて描かれてあった。
・粉牆 白く漆喰の壁。・鬼物 鬼神と霊獣。・填青紅青や紅の絵の具が凹凸に塗り込めてある。
升階傴僂薦脯酒,欲以菲薄明其衷。
階に升【のぼ】って傴僂【うろう】し 脯酒【ほしゅ】を薦む、菲薄【ひはく】を以て 其の衷を明にせんと欲す。
陵廟の階をのぼってゆき、ぬかずいて、乾肉と酒とを供えた。お粗末かもしれないが、奉謝の誠意をあらわそうと思ったからだ。
・傴僂 うやうやしくぬかずく。傴はせぐくまる。僂はまげる。・脯酒 乾肉と酒。おそなえにする。・菲薄 非も薄もうすいことで、粗末というほどの意。・衷 誠。
廟令老人識神意,睢盱偵伺能鞠躬。
廟令【びょうれい】の老人 神意【しんい】を識る と、睢盱【いく】偵伺【ていし】して 能く鞠躬【きくきゅう】す。
そこの年老いた宮司は神慮をうかがうことができると認識した。つまらぬ人がにこにこと媚びヘつらう顔色を見て身を丸くしてぺこべこお辞儀をする。
・廟令 神主。・睢盱 つまらぬ人がにこにこと媚びヘつらうさま。・鞠躬 身を丸くしてぺこべこお辞儀をする。
手持杯珓導我擲,云此最吉餘難同。
手に盃珓【はいこう】を持して 我をして擲【なげう】たしむ、云ふ 此れ最も吉にして餘【よ】は同じうし難し と。
そして貝占をしてみなさいとわたしに二枚の貝殼を 投げさせた。それで卦が出てこのように言ったのだ
「最もよい吉であり、こんな卦はめったに出るものではない」などと。
・盃竣 貝殼占い。二板の貝殼を投げてその表裏の出方で占う。・余難同 他の人は、同じ卦は出にくい。
謁衡獄廟遂宿岳寺題門樓
衡嶽廟に拝謁してとうとう衡山にある仏寺の宿坊に宿し、その楼門に題す詩
五嶽祭秩皆三公,四方環鎮嵩當中。
五嶽は祭典序列はみな三公待遇である。天下四方に位置し、嵩山を中心にして天下鎮守するのである。
火維地荒足妖怪,天假神柄專其雄。
赤道に位置するといわれてきたこの地は荒廃し、妖怪どもがあまた棲息した、そして天は衡山に神の権能を賦与し、それらを雄伏させようとされたのだ。
噴雲洩霧藏半腹,雖有絕頂誰能窮。
雲を吹き出し、霧をもらしていて、中腹以上にいくとかくれている。頂上はもとより存在しているといっても、誰が見きわめえたというのか。
我來正逢秋雨節,陰氣晦昧無清風。
私はここへ来て正に秋雨の季節に逢ってしまった。秋雨の陰湿の気、ぶきみに暗いし、ここではすがすがしい風は吹かないのである。
#2
潛心默禱若有應,豈非正直能感通。
そうして、心を静かに潜めるようにして黙祷したら、それに応えてくれたように思われるのだ。それで正直であることが出来ない様でどうしてよく神仏に祈り、悟ことができようか。
須臾靜掃眾峰出,仰見突兀撐青空。
しばらくすると 静かに暗い陰気の雲は掃われて 連峰の山々が姿を現わしている。見あげれば 高く抜きん出て立ち青空をささえていた。
紫蓋連延接天柱,石廩騰擲堆祝融。
衡山七十二峯の紫蓋は連なって延び 天をささえる天柱と接しており、石稟は飛騰し、祝融は淮積岩をあらわにし、衡山四絶景を構成する。
森然魄動下馬拜,松柏一徑趨靈宮。
山は森然として神霊な動きをしており、わたしは馬を下りて拝礼するのである。松柏の間を行く一筋の小径には霊宮にはしり通じている。
#3
粉牆丹柱動光彩,鬼物圖畫填青紅。
白い漆喰の壁と丹塗の柱はきらきらと互いに映えている。鬼神や霊獣が青や紅の絵の具でもり上げて描かれてあった。
升階傴僂薦脯酒,欲以菲薄明其衷。
陵廟の階をのぼってゆき、ぬかずいて、乾肉と酒とを供えた。お粗末かもしれないが、奉謝の誠意をあらわそうと思ったからだ。
廟令老人識神意,睢盱偵伺能鞠躬。
そこの年老いた宮司は神慮をうかがうことができると認識した。つまらぬ人がにこにこと媚びヘつらう顔色を見て身を丸くしてぺこべこお辞儀をする。
手持杯珓導我擲,云此最吉餘難同。
そして貝占をしてみなさいとわたしに二枚の貝殼を 投げさせた。それで卦が出てこのように言ったのだ
「最もよい吉であり、こんな卦はめったに出るものではない」などと。
#4
竄逐蠻荒幸不死,衣食才足甘長終。
野蛮の荒地に鼠逐せられたということであったが 辛くも死のみまぬかれた身である、衣食もなんとかわずかに足りたのであるし、寿命をながらえることになったのであるから、まずよしとせねばならない。
侯王將相望久絕,神縱欲福難為功。
王侯将相のぞむような野心はとっくのむかしに無くなっている、神がたとえ幸福を与えようとなされたのだとしても、これが御利益などとは思われはしない。
夜投佛寺上高閣,星月掩映雲朣朧。
夜になって山中の仏寺を宿とし、そこの高い鐘楼に上ってみた。星や月を覆って光を帯びた薄雲があたりを ぼんやりと照らし始めている。
猿鳴鐘動不知曙,杲杲寒日生於東。
猿が啼き叫ぶそして鐘が鳴るけれど、まだ明け方になってはいないはずである。よく見るとキラキラ冷たく輝く太陽が東方に生まれていて木の上にのぽり切っているのだ。
(衡嶽【こうがく】廟に謁し、遂に嶽寺に宿り、門樓【もんろう】に題す。)
五嶽の祭秩【さいちつ】皆 三公【さんこう】、四方に環【めぐ】り鎮【ちん】して 嵩【すう】は中に當る。
火維【かい】地荒れて 妖怪【ようかい】足【おお】く、天 神柄【しんぺい】を瑕【か】して 其の雄を専にす。
雲を噴き 霧を泄【もら】して 半腹を蔵【ぞう】す、絶頂有りと雖も 誰か能く窮めむ。
我来って 正に 秋雨の節に逢ふ、陰気【いんき】晦昧【かいまい】として 清風無し。
#2
心を潜めて默禱【もくとう】すれば 応【こたえ】有るが若し、豈に 正直なるに非ずんば 能く感通【かんつう】せむや。
須臾【しばらく】して 靜かに掃って 衆峯【しゅうほう】出づ、仰いで見るに 突冗【とつごつ】として 青空を撐【ささ】ヘ。
紫蓋【しがい】連り延びて 天柱に接し、石廩【せきりん】騰擲【とうてき】し 祝融【しゅくゆう】堆し。
森然【しんぜん】として魄【はく】動き 馬を下って拝す、松柏の一徑【いっけい】霊宮【れいきゅう】に趨【おもむ】く。
#3
粉牆【ふんしょう】丹柱【たんちゅう】光彩【こうさい】を勤し、鬼物【きぶつ】の圖畫【とが】青紅【せいこう】を填【うづ】む。
階に升【のぼ】って傴僂【うろう】し 脯酒【ほしゅ】を薦む、菲薄【ひはく】を以て 其の衷を明にせんと欲す。
廟令【びょうれい】の老人 神意【しんい】を識る と、睢盱【いく】偵伺【ていし】して 能く鞠躬【きくきゅう】す。
手に盃珓【はいこう】を持して 我をして擲【なげう】たしむ、云ふ 此れ最も吉にして餘【よ】は同じうし難し と。
#4
蠻荒【ばんこう】に竄逐【ざんちく】せられ 幸に死せざるも、衣食【いしょく】緩【わずか】に足りて長【とこしえ】に 終らんことに甘んず。
侯王【こうおう】將相【しょうそう】たらんとする望は 久しく絶ちたり、神 縦【たと】い福【さいわい】せんと欲すとも 功を錫し難し。
夜 佛寺【ぶつじ】に投じて 高閣に上る、星月 掩映【えんえい】して 雲 朣朧【とうろう】たり。
猿鳴き 鐘動いて 曙を知らず、杲杲【こうこう】たる寒日【かんじつ】東に生ず。
現代語訳と訳註
(本文)#4
竄逐蠻荒幸不死,衣食才足甘長終。
侯王將相望久絕,神縱欲福難為功。
夜投佛寺上高閣,星月掩映雲朣朧。
猿鳴鐘動不知曙,杲杲寒日生於東。
(下し文) #4
蠻荒【ばんこう】に竄逐【ざんちく】せられ 幸に死せざるも、衣食【いしょく】緩【わずか】に足りて長【とこしえ】に 終らんことに甘んず。
侯王【こうおう】將相【しょうそう】たらんとする望は 久しく絶ちたり、神 縦【たと】い福【さいわい】せんと欲すとも 功を錫し難し。
夜 佛寺【ぶつじ】に投じて 高閣に上る、星月 掩映【えんえい】して 雲 朣朧【とうろう】たり。
猿鳴き 鐘動いて 曙を知らず、杲杲【こうこう】たる寒日【かんじつ】東に生ず。
(現代語訳)
野蛮の荒地に鼠逐せられたということであったが 辛くも死のみまぬかれた身である、衣食もなんとかわずかに足りたのであるし、寿命をながらえることになったのであるから、まずよしとせねばならない。
王侯将相のぞむような野心はとっくのむかしに無くなっている、神がたとえ幸福を与えようとなされたのだとしても、これが御利益などとは思われはしない。
夜になって山中の仏寺を宿とし、そこの高い鐘楼に上ってみた。星や月を覆って光を帯びた薄雲があたりを ぼんやりと照らし始めている。
猿が啼き叫ぶそして鐘が鳴るけれど、まだ明け方になってはいないはずである。よく見るとキラキラ冷たく輝く太陽が東方に生まれていて木の上にのぽり切っているのだ。
(訳注)#4
竄逐蠻荒幸不死,衣食才足甘長終。
蠻荒【ばんこう】に竄逐【ざんちく】せられ 幸に死せざるも、衣食【いしょく】緩【わずか】に足りて長【とこしえ】に 終らんことに甘んず。
野蛮の荒地に鼠逐せられたということであったが 辛くも死のみまぬかれた身である、衣食もなんとかわずかに足りたのであるし、寿命をながらえることになったのであるから、まずよしとせねばならない。
・鼠逐 罪ある人を遠くへ追いやること。五嶺山脈を越えた向こうに行くことは死を意味した。・蛮荒 野蛮の荒地。瘴癘の地。・幸不死 死なないだけが幸福というような身の上。
侯王將相望久絕,神縱欲福難為功。
侯王【こうおう】將相【しょうそう】たらんとする望は 久しく絶ちたり、神 縦【たと】い福【さいわい】せんと欲すとも 功を錫し難し。
王侯将相のぞむような野心はとっくのむかしに無くなっている、神がたとえ幸福を与えようとなされたのだとしても、これが御利益などとは思われはしない。
・侯王将相 諸侯・国王・将軍・宰相。高い地位の人をいう。・望久絶 望みを持たなくなってから長い時間がたつ。・縦 かりにそういうことがあったところで。
夜投佛寺上高閣,星月掩映雲朣朧。
夜 佛寺【ぶつじ】に投じて 高閣に上る、星月 掩映【えんえい】して 雲 朣朧【とうろう】たり。
夜になって山中の仏寺を宿とし、そこの高い鐘楼に上ってみた。星や月を覆って光を帯びた薄雲があたりを ぼんやりと照らし始めている。
・掩映 拾は掩と同じで、おおうこと。おは反映する。てりはえる。・朣朧 月かげの明るくなりかけるさま。潘岳の「秋興賦」に「月は朣朧として光を含めり」という有名な句がある。
猿鳴鐘動不知曙,杲杲寒日生於東。
猿鳴き 鐘動いて 曙を知らず、杲杲【こうこう】たる寒日【かんじつ】東に生ず。
猿が啼き叫ぶそして鐘が鳴るけれど、まだ明け方になってはいないはずである。よく見るとキラキラ冷たく輝く太陽が東方に生まれていて木の上にのぽり切っているのだ。
・不知曙 明方だとはわからなかった・唐の詩ではよく、知りでいることを知らずといい、わからないことを知るという場合がある。一種の反語である。
・杲杲 キラキラ。コウコウとかがやく。杲は太陽が木の上にのぽり切ったさま。
#4
蠻荒【ばんこう】に竄逐【ざんちく】せられ 幸に死せざるも、衣食【いしょく】緩【わずか】に足りて長【とこしえ】に 終らんことに甘んず。
侯王【こうおう】將相【しょうそう】たらんとする望は 久しく絶ちたり、神 縦【たと】い福【さいわい】せんと欲すとも 功を錫し難し。
夜 佛寺【ぶつじ】に投じて 高閣に上る、星月 掩映【えんえい】して 雲 朣朧【とうろう】たり。
猿鳴き 鐘動いて 曙を知らず、杲杲【こうこう】たる寒日【かんじつ】東に生ず。
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