375 韓昌黎集 巻五 133 《憶昨行和張十一》 韓愈 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 4201
- 2014/05/15
- 00:25
少し前のことを思い出すと先にきみと一緒に湘水を渡ったときのことだが、大きな帆を夜中に袈けて、 高いマストのある立派な舟でも危険な状態におちいった。陽山から臨武へは鳥だけが通れるひとすじ道にでた、駅馬もこの地をいやがってむりに走らせると、しきりにつまずきたおれた。
375 韓昌黎集 巻五 133 《憶昨行和張十一》 韓愈 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 4201 | ||
806年元和元年 39歳 | ||
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805年、この年は、中央では、順宗が即位し、王叔文党が政権をにぎり、まもなく皇太子が摂政となり、王叔文が追放され、順宗が譲位し、自芸子が即位し、永点と改元した、じつにあわただしい年であった。その永貞元年も、韓愈が江陵に到着してまもなく尽き、新しい年をむかえ、新帝憲宗は、元号を「元和」と改めた。806年元和元年正月、江陵には珍しく雪がどっさり降った。雪のふるなかに梅がさき、うぐいすが鳴いた。韓愈には、そのひとつびとつが、楽しく、うれしかったようだ。『早春雪中聞鸎』 韓退之(韓愈)詩<56>Ⅱ中唐詩356 紀頌之の漢詩ブログ1147(早春雪中に鷲を聞く)はその一つである。通常、年が変われば人事報告があるもので、この詩には、いまにも都から、よびもどされようとはかりに、そわそわしているところおもしろい。
しかし、待てどもその便りは、杏の花が散ってもやって来なかったのである。『杏花』 #1 Ⅱ韓退之(韓愈) 紀頌之の漢詩ブログ989 韓愈特集-37-#1
「春に感ず四首」感春四首 其一(1) 韓退之(韓愈)詩<57>Ⅱ中唐詩357 紀頌之の漢詩ブログ1150「春に感ず四首」感春四首 其一(1) 韓退之(韓愈)詩<57>Ⅱ中唐詩357 紀頌之の漢詩ブログ1150はこのころの作である。同時期に「憶昨行張十一に和す」がある。これは、韓愈より、一足先に都に帰る張署と交換した詩である。
『贈韓退之』 張署
九疑峰畔二江前,戀闕思鄉日抵年。
白簡趨朝曾竝命,蒼梧左宦一聊翩。
鮫人遠泛漁舟水,鵩鳥閑飛露裏天。
渙汗幾時流率土,扁舟西下共歸田。
(韓退之に贈る)
九疑峰の畔 二江の前,闕を戀ひ 鄉を思うて 自ら年に抵る。
白簡 朝に趨く曾て竝びに命ぜられ,蒼梧に宦を左せらるるも一聊翩たり。
鮫人遠く泛ぶ漁舟の水,鵩鳥 閑に飛ぶ 露裏の天。
渙汗 幾時か 率土に流べば,扁舟 西下して 共に歸田せむ。
88 憶昨行和張十一
かねて過ぎ去ったころの歌、張十一署に和す。
憶昨夾鍾之呂初吹灰,上公禮罷元侯回。
かねて過ぎ去ったころのこと、季節の変わり目に吹く爽鐘の呂のはじめて灰を吹いた日のことであった、上代の聖人を祭りをしおえてこの江陵の節度使裴均長官がお帰りになられた
車載牲牢甕舁酒,並召賓客延鄒枚。
車に神に供える牛・羊・豚をの、神酒の甕を担がせている、宴に召された賓客に漢代の枚乗と鄒陽のような文豪たちが居並んだ。
腰金首翠光照耀,絲竹迥發清以哀。
腰には金の佩び玉をつけ、翡翠の羽飾りはきらきら輝いている、遠くからわき起こる管絃楽は清らにも哀れであった。
青天白日花草麗,玉斝屢舉傾金罍。
空は青く晴れ渡り、真昼の太陽は白くふりそそぐ、 花も草もうるわしく広がる、宝玉のさかずきはしばしば飲み干し、黄金色の真鍮の酒壷は傾けられた。
#2
張君名聲座所屬,起舞先醉長松摧。
宿酲未解舊痁作,深室靜臥聞風雷。
自期殞命在春序,屈指數日憐嬰孩。
危辭苦語感我耳,淚落不掩何漼漼。
#3
念昔從君渡湘水,大帆夜劃窮高桅。
陽山鳥路出臨武,驛馬拒地驅頻隤。
踐蛇茹蠱不擇死,忽有飛詔從天來。
伾文未揃崖州熾,雖得赦宥恒愁猜。
#4
近者三奸悉破碎,羽窟無底幽黃能。
眼中了了見鄉國,知有歸日眉方開。
今君縱署天涯吏,投檄北去何難哉。
無妄之憂勿藥喜,一善自足禳千災。
#5
頭輕目朗肌骨健,古劍新劚磨塵埃。
殃消禍散百福並,從此直至耇與鮐。
嵩山東頭伊洛岸,勝事不假須穿栽。
君當先行我待滿,沮溺可繼窮年推。
(憶昨行【おくさくこう】張十一に和す)
憶ふ昨に夾鍾【きょうしょう】の呂【りょ】の初めて灰【はい】を吹きしとき,上公の禮 罷【おわ】って元侯【げんこう】回【かえ】る。
車には牲牢【せいろう】を載せ甕【かめ】には酒を舁【か】く,賓客を並び召して鄒枚【すうばい】を延【ひ】く。
腰金【ようきん】と首翠【しゅすい】と光照【こうしょう】耀【よう】す,絲竹【しちく】迥【はるか】に發す清にして哀。
青天【せいてん】白日【はくじつ】花草麗【うるわ】し,玉斝【ぎょくか】屢ば舉げて金罍【きんらい】を傾く。
#2
張君の名聲は座の所する屬,起って舞ひ先ず醉いて長松の摧くるごとし。
宿酲【しゅくてい】の未だ解けざるに舊痁【きゅうせん】作【おこ】る,深室【しんしつ】に靜臥【せいが】して風雷を聞く。
自ら期す命を殞【おと】すは春序【しゅんじょ】に在りと,指を屈り日を数へて嬰孩【えんがい】を憐む。
危辭【きじ】苦語【くご】我が耳に感ず,淚落ちて掩はず何ぞ漼漼【さいさい】。
#3
念う昔ごろ君に従って湘水を渡りしが,大帆 夜に割けて 高桅【こうき】窮りき。
陽山の鳥路【ちょうろ】は臨武【りんぶ】に出づるも,驛馬【えきば】地を拒みて驅れども頻りに隤【つまず】く。
蛇を踐み蠱【こ】茹【くち】いて死を擇【えら】ばず,忽【たちま】ち有飛詔【ひしょう】の天より来る有りしも。
伾文【ひぶん】は未だ揃【き】られずして崖州【がいしゅう】も熾【さかん】なり,赦宥【しゃゆう】を得たりと雖も恒に愁猜【しゅうせい】す。
#4
近者【ちかごろ】三奸【さんかん】の悉【ことごと】く破碎【はさい】せられ,羽窟【はくつ】の底無きに黃能【こうたい】を幽す。
眼中に了了として鄉國を見,歸る日有を知って眉【まゆ】方【まさ】に開かむとす。
今は君の縱【たとい】天涯の吏に署せらるるとも,檄を投じて北に去る何ぞ難からむや。
無妄の憂は藥することなくして喜ぶ,一善は自ら千災を禳【はら】うに足る。
#5
頭は軽く目の朗かに肌骨は健かなり,古劍【】新に劚【けず】って塵埃【じんあい】を磨【はら】う。
殃【わざわい】は消え 禍【まがつみ】は散じ 百福 【ひゃくふく】並す,此從より直ちに耇【こう】と鮐【たい】とに至らむ。
嵩山の東頭 伊洛の岸,勝事 穿栽【せんさい】を須【もち】うるを假らず。
君よ當に先行すべし我は満つるを得たむ,沮溺【そでき】繼ぐべし年を窮るまで推【たがや】さむ。
現代語訳と訳註
(本文)
憶昨行和張十一
憶昨夾鍾之呂初吹灰,上公禮罷元侯回。
車載牲牢甕舁酒,並召賓客延鄒枚。
腰金首翠光照耀,絲竹迥發清以哀。
青天白日花草麗,玉斝屢舉傾金罍。
(下し文)
(憶昨行【おくさくこう】張十一に和す
憶ふ昨に夾鍾【きょうしょう】の呂【りょ】の初めて灰【はい】を吹きしとき,上公の禮 罷【おわ】って元侯【げんこう】回【かえ】る。
車には牲牢【せいろう】を載せ甕【かめ】には酒を舁【か】く,賓客を並び召して鄒枚【すうばい】を延【ひ】く。
腰金【ようきん】と首翠【しゅすい】と光照【こうしょう】耀【よう】す,絲竹【しちく】迥【はるか】に發す清にして哀。
青天【せいてん】白日【はくじつ】花草麗【うるわ】し,玉斝【ぎょくか】屢ば舉げて金罍【きんらい】を傾く。
(現代語訳)
かねて過ぎ去ったころの歌、張十一署に和す。
かねて過ぎ去ったころのこと、季節の変わり目に吹く爽鐘の呂のはじめて灰を吹いた日のことであった、上代の聖人を祭りをしおえてこの江陵の節度使裴均長官がお帰りになられた
車に神に供える牛・羊・豚をの、神酒の甕を担がせている、宴に召された賓客に漢代の枚乗と鄒陽のような文豪たちが居並んだ。
腰には金の佩び玉をつけ、翡翠の羽飾りはきらきら輝いている、遠くからわき起こる管絃楽は清らにも哀れであった。
空は青く晴れ渡り、真昼の太陽は白くふりそそぐ、 花も草もうるわしく広がる、宝玉のさかずきはしばしば飲み干し、黄金色の真鍮の酒壷は傾けられた。
(訳注)
憶昨行和張十一
かねて過ぎ去ったころの歌、張十一署に和す。
・憶昨行和張十一底本巻三。江陵での作。憶昨は初句の二字をとった。張十一は張署。
・昨 昔と同じで過ぎ去った日。
憶昨夾鍾之呂初吹灰,上公禮罷元侯回。
かねて過ぎ去ったころのこと、季節の変わり目に吹く爽鐘の呂のはじめて灰を吹いた日のことであった、上代の聖人を祭りをしおえてこの江陵の節度使裴均長官がお帰りになられた
・夾鍾1 中国音楽の十二律の一。基音の黄鐘(こうしょう)より三律高い音。日本の十二律の勝絶(しょうせつ)にあたる。2 陰暦2月の異称。・爽饉之呂初吹灰 中国の音律は黄鐘・大呂・大蔟・爽鐘・姑洗・仲呂・蕤賓・林鍾・夷則・南呂・無射・応鍾の十二で偶数並びを陽六、奇数並びを陰六、または六呂という。この十二律を一年の十一月から翌年の十月までに配当する。したがってこの詩では二月、仲春で夾鍾となる。その季節の到来をはかるためには、智閉した部屋の中に机をおき、十二偶のまでつくった律をおき、茨の灰を律の内端につめておく。季節がかわれば、律はその気に感じ、灰は自然に飛散するといわれる。夾鍾の律が火を吹く日は仲春二月のはじめ。
・上公 古代の聖人三皇五帝の三公のこと。上公之官は大臣。
・元侯 地方長官、ここでは節度使の裴均のこと。
車載牲牢甕舁酒,並召賓客延鄒枚。
車に神に供える牛・羊・豚をの、神酒の甕を担がせている、宴に召された賓客に漢代の枚乗と鄒陽のような文豪たちが居並んだ。
・牲牢 神に供える牛・羊・豚など。
・鄒枚 漢代の枚乗と鄒陽のような文豪たち。
腰金首翠光照耀,絲竹迥發清以哀。
腰には金の佩び玉をつけ、翡翠の羽飾りはきらきら輝いている、遠くからわき起こる管絃楽は清らにも哀れであった。
・腰金首翠 金色の帯玉、礼冠の窮翠の羽かぎり。
・糸竹 絃菜館と管楽器。
青天白日花草麗,玉斝屢舉傾金罍。
空は青く晴れ渡り、真昼の太陽は白くふりそそぐ、 花も草もうるわしく広がる、宝玉のさかずきはしばしば飲み干し、黄金色の真鍮の酒壷は傾けられた。
・玉斝 玉のさかすき。斝は俗字。
・金罍 黄金色の真鍮の酒壷。
『贈韓退之』 張署
九疑峰畔二江前,戀闕思鄉日抵年。
白簡趨朝曾竝命,蒼梧左宦一聊翩。
鮫人遠泛漁舟水,鵩鳥閑飛露裏天。
渙汗幾時流率土,扁舟西下共歸田。
(韓退之に贈る)
九疑峰の畔 二江の前,闕を戀ひ 鄉を思うて 自ら年に抵る。
白簡 朝に趨く曾て竝びに命ぜられ,蒼梧に宦を左せらるるも一聊翩たり。
鮫人遠く泛ぶ漁舟の水,鵩鳥 閑に飛ぶ 露裏の天。
渙汗 幾時か 率土に流べば,扁舟 西下して 共に歸田せむ。
88 憶昨行和張十一
憶昨夾鍾之呂初吹灰,上公禮罷元侯回。
かねて過ぎ去ったころのこと、季節の変わり目に吹く爽鐘の呂のはじめて灰を吹いた日のことであった、上代の聖人を祭りをしおえてこの江陵の節度使裴均長官がお帰りになられた
車載牲牢甕舁酒,並召賓客延鄒枚。
車に神に供える牛・羊・豚をの、神酒の甕を担がせている、宴に召された賓客に漢代の枚乗と鄒陽のような文豪たちが居並んだ。
腰金首翠光照耀,絲竹迥發清以哀。
腰には金の佩び玉をつけ、翡翠の羽飾りはきらきら輝いている、遠くからわき起こる管絃楽は清らにも哀れであった。
青天白日花草麗,玉斝屢舉傾金罍。
空は青く晴れ渡り、真昼の太陽は白くふりそそぐ、 花も草もうるわしく広がる、宝玉のさかずきはしばしば飲み干し、黄金色の真鍮の酒壷は傾けられた。
#2
張君名聲座所屬,起舞先醉長松摧。
張君の名声は我々左遷や不遇の一座のものの注目するところとなっている、たから、立ち起きて舞い、まず酔うてしまい、松の巨木さながらくずれてしまう。
宿酲未解舊痁作,深室靜臥聞風雷。
二日酔いのさめないうちに前からのマラリヤの発作が起こってくる、奥の間で絶対安静にしていると高熱に耳鳴りがして大風雷鳴を聞いているようだ。
自期殞命在春序,屈指數日憐嬰孩。
自分の命も最後となる時期かと春の季節のあと追い 命も尽きてしまうものと思っている、もう幾日と指折り数え、赤子を不憫に思うようである。
危辭苦語感我耳,淚落不掩何漼漼。
切ない辛い君の言葉は 耳にするにつけいたましく感じられる、落ちる涙を掩いもしなで、なんとさめざめ涙を流すだけなのだ。
#3
念昔從君渡湘水,大帆夜劃窮高桅。
陽山鳥路出臨武,驛馬拒地驅頻隤。
踐蛇茹蠱不擇死,忽有飛詔從天來。
伾文未揃崖州熾,雖得赦宥恒愁猜。
#4
近者三奸悉破碎,羽窟無底幽黃能。
眼中了了見鄉國,知有歸日眉方開。
今君縱署天涯吏,投檄北去何難哉。
無妄之憂勿藥喜,一善自足禳千災。
#5
頭輕目朗肌骨健,古劍新劚磨塵埃。
殃消禍散百福並,從此直至耇與鮐。
嵩山東頭伊洛岸,勝事不假須穿栽。
君當先行我待滿,沮溺可繼窮年推。
(憶昨行【おくさくこう】張十一に和す
憶ふ昨に夾鍾【きょうしょう】の呂【りょ】の初めて灰【はい】を吹きしとき,上公の禮 罷【おわ】って元侯【げんこう】回【かえ】る。
車には牲牢【せいろう】を載せ甕【かめ】には酒を舁【か】く,賓客を並び召して鄒枚【すうばい】を延【ひ】く。
腰金【ようきん】と首翠【しゅすい】と光照【こうしょう】耀【よう】す,絲竹【しちく】迥【はるか】に發す清にして哀。
青天【せいてん】白日【はくじつ】花草麗【うるわ】し,玉斝【ぎょくか】屢ば舉げて金罍【きんらい】を傾く。
#2
張君の名聲は座の所する屬,起って舞ひ先ず醉いて長松の摧くるごとし。
宿酲【しゅくてい】の未だ解けざるに舊痁【きゅうせん】作【おこ】る,深室【しんしつ】に靜臥【せいが】して風雷を聞く。
自ら期す命を殞【おと】すは春序【しゅんじょ】に在りと,指を屈り日を数へて嬰孩【えんがい】を憐む。
危辭【きじ】苦語【くご】我が耳に感ず,淚落ちて掩はず何ぞ漼漼【さいさい】。
#3
念う昔ごろ君に従って湘水を渡りしが,大帆 夜に割けて 高桅【こうき】窮りき。
陽山の鳥路【ちょうろ】は臨武【りんぶ】に出づるも,驛馬【えきば】地を拒みて驅れども頻りに隤【つまず】く。
蛇を踐み蠱【こ】茹【くち】いて死を擇【えら】ばず,忽【たちま】ち有飛詔【ひしょう】の天より来る有りしも。
伾文【ひぶん】は未だ揃【き】られずして崖州【がいしゅう】も熾【さかん】なり,赦宥【しゃゆう】を得たりと雖も恒に愁猜【しゅうせい】す。
#4
近者【ちかごろ】三奸【さんかん】の悉【ことごと】く破碎【はさい】せられ,羽窟【はくつ】の底無きに黃能【こうたい】を幽す。
眼中に了了として鄉國を見,歸る日有を知って眉【まゆ】方【まさ】に開かむとす。
今は君の縱【たとい】天涯の吏に署せらるるとも,檄を投じて北に去る何ぞ難からむや。
無妄の憂は藥することなくして喜ぶ,一善は自ら千災を禳【はら】うに足る。
#5
頭は軽く目の朗かに肌骨は健かなり,古劍【】新に劚【けず】って塵埃【じんあい】を磨【はら】う。
殃【わざわい】は消え 禍【まがつみ】は散じ 百福 【ひゃくふく】並す,此從より直ちに耇【こう】と鮐【たい】とに至らむ。
嵩山の東頭 伊洛の岸,勝事 穿栽【せんさい】を須【もち】うるを假らず。
君よ當に先行すべし我は満つるを得たむ,沮溺【そでき】繼ぐべし年を窮るまで推【たがや】さむ。
現代語訳と訳註
(本文) #2
張君名聲座所屬,起舞先醉長松摧。
宿酲未解舊痁作,深室靜臥聞風雷。
自期殞命在春序,屈指數日憐嬰孩。
危辭苦語感我耳,淚落不掩何漼漼。
(下し文) #2
張君の名聲は座の所する屬,起って舞ひ先ず醉いて長松の摧くるごとし。
宿酲【しゅくてい】の未だ解けざるに舊痁【きゅうせん】作【おこ】る,深室【しんしつ】に靜臥【せいが】して風雷を聞く。
自ら期す命を殞【おと】すは春序【しゅんじょ】に在りと,指を屈り日を数へて嬰孩【えんがい】を憐む。
危辭【きじ】苦語【くご】我が耳に感ず,淚落ちて掩はず何ぞ漼漼【さいさい】。
(現代語訳)
張君の名声は我々左遷や不遇の一座のものの注目するところとなっている、たから、立ち起きて舞い、まず酔うてしまい、松の巨木さながらくずれてしまう。
二日酔いのさめないうちに前からのマラリヤの発作が起こってくる、奥の間で絶対安静にしていると高熱に耳鳴りがして大風雷鳴を聞いているようだ。
自分の命も最後となる時期かと春の季節のあと追い 命も尽きてしまうものと思っている、もう幾日と指折り数え、赤子を不憫に思うようである。
切ない辛い君の言葉は 耳にするにつけいたましく感じられる、落ちる涙を掩いもしなで、なんとさめざめ涙を流すだけなのだ。
(訳注) #2
張君名聲座所屬,起舞先醉長松摧。
張君の名声は我々左遷や不遇の一座のものの注目するところとなっている、たから、立ち起きて舞い、まず酔うてしまい、松の巨木さながらくずれてしまう。
・属 注目する。
宿酲未解舊痁作,深室靜臥聞風雷。
二日酔いのさめないうちに前からのマラリヤの発作が起こってくる、奥の間で絶対安静にしていると高熱に耳鳴りがして大風雷鳴を聞いているようだ。
・宿酲 二日酔い。
・旧痁 痁はマラリヤ。
・聞風雷 高熱に耳鳴りがして大風雷鳴を聞いているようだ。
自期殞命在春序,屈指數日憐嬰孩。
自分の命も最後となる時期かと春の季節のあと追い 命も尽きてしまうものと思っている、もう幾日と指折り数え、赤子を不憫に思うようである。
・殞命 いのちつきる。しぬこと。・春序 春の季節.
・嬰孩 赤子.
危辭苦語感我耳,淚落不掩何漼漼。
切ない辛い君の言葉は 耳にするにつけいたましく感じられる、落ちる涙を掩いもしなで、なんとさめざめ涙を流すだけなのだ。
・危辭苦語 あやぶみおそれることば。
・漼漼 さめざめ涙を流すさま。
韓愈より、一足先に都に帰る張署と交換した詩である。
『贈韓退之』 張署
九疑峰畔二江前,戀闕思鄉日抵年。
白簡趨朝曾竝命,蒼梧左宦一聊翩。
鮫人遠泛漁舟水,鵩鳥閑飛露裏天。
渙汗幾時流率土,扁舟西下共歸田。
(韓退之に贈る)
九疑峰の畔 二江の前,闕を戀ひ 鄉を思うて 自ら年に抵る。
白簡 朝に趨く曾て竝びに命ぜられ,蒼梧に宦を左せらるるも一聊翩たり。
鮫人遠く泛ぶ漁舟の水,鵩鳥 閑に飛ぶ 露裏の天。
渙汗 幾時か 率土に流べば,扁舟 西下して 共に歸田せむ。
88 憶昨行和張十一
憶昨夾鍾之呂初吹灰,上公禮罷元侯回。
かねて過ぎ去ったころのこと、季節の変わり目に吹く爽鐘の呂のはじめて灰を吹いた日のことであった、上代の聖人を祭りをしおえてこの江陵の節度使裴均長官がお帰りになられた
車載牲牢甕舁酒,並召賓客延鄒枚。
車に神に供える牛・羊・豚をの、神酒の甕を担がせている、宴に召された賓客に漢代の枚乗と鄒陽のような文豪たちが居並んだ。
腰金首翠光照耀,絲竹迥發清以哀。
腰には金の佩び玉をつけ、翡翠の羽飾りはきらきら輝いている、遠くからわき起こる管絃楽は清らにも哀れであった。
青天白日花草麗,玉斝屢舉傾金罍。
空は青く晴れ渡り、真昼の太陽は白くふりそそぐ、 花も草もうるわしく広がる、宝玉のさかずきはしばしば飲み干し、黄金色の真鍮の酒壷は傾けられた。
#2
張君名聲座所屬,起舞先醉長松摧。
張君の名声は我々左遷や不遇の一座のものの注目するところとなっている、たから、立ち起きて舞い、まず酔うてしまい、松の巨木さながらくずれてしまう。
宿酲未解舊痁作,深室靜臥聞風雷。
二日酔いのさめないうちに前からのマラリヤの発作が起こってくる、奥の間で絶対安静にしていると高熱に耳鳴りがして大風雷鳴を聞いているようだ。
自期殞命在春序,屈指數日憐嬰孩。
自分の命も最後となる時期かと春の季節のあと追い 命も尽きてしまうものと思っている、もう幾日と指折り数え、赤子を不憫に思うようである。
危辭苦語感我耳,淚落不掩何漼漼。
切ない辛い君の言葉は 耳にするにつけいたましく感じられる、落ちる涙を掩いもしなで、なんとさめざめ涙を流すだけなのだ。
#3
念昔從君渡湘水,大帆夜劃窮高桅。
少し前のことを思い出すと先にきみと一緒に湘水を渡ったときのことだが、大きな帆を夜中に袈けて、 高いマストのある立派な舟でも危険な状態におちいった。
陽山鳥路出臨武,驛馬拒地驅頻隤。
陽山から臨武へは鳥だけが通れるひとすじ道にでた、駅馬もこの地をいやがってむりに走らせると、しきりにつまずきたおれた。
踐蛇茹蠱不擇死,忽有飛詔從天來。
いたるところで蛇をふみつけ、食物の中に毒虫がいたり、死をいとう暇もなかったが、しばらくして、とぶようにやって来る天子の詔勅が天降ることとはなった。
伾文未揃崖州熾,雖得赦宥恒愁猜。
だが王伾・王叔文は斬られはしなくて、崖州の仲間の奴もまだ元気である、わたしは赦免は得たというものの 別の懸念がつきまとっているのだ。
#4
近者三奸悉破碎,羽窟無底幽黃能。
眼中了了見鄉國,知有歸日眉方開。
今君縱署天涯吏,投檄北去何難哉。
無妄之憂勿藥喜,一善自足禳千災。
#5
頭輕目朗肌骨健,古劍新劚磨塵埃。
殃消禍散百福並,從此直至耇與鮐。
嵩山東頭伊洛岸,勝事不假須穿栽。
君當先行我待滿,沮溺可繼窮年推。
(憶昨行【おくさくこう】張十一に和す
憶ふ昨に夾鍾【きょうしょう】の呂【りょ】の初めて灰【はい】を吹きしとき,上公の禮 罷【おわ】って元侯【げんこう】回【かえ】る。
車には牲牢【せいろう】を載せ甕【かめ】には酒を舁【か】く,賓客を並び召して鄒枚【すうばい】を延【ひ】く。
腰金【ようきん】と首翠【しゅすい】と光照【こうしょう】耀【よう】す,絲竹【しちく】迥【はるか】に發す清にして哀。
青天【せいてん】白日【はくじつ】花草麗【うるわ】し,玉斝【ぎょくか】屢ば舉げて金罍【きんらい】を傾く。
#2
張君の名聲は座の所する屬,起って舞ひ先ず醉いて長松の摧くるごとし。
宿酲【しゅくてい】の未だ解けざるに舊痁【きゅうせん】作【おこ】る,深室【しんしつ】に靜臥【せいが】して風雷を聞く。
自ら期す命を殞【おと】すは春序【しゅんじょ】に在りと,指を屈り日を数へて嬰孩【えんがい】を憐む。
危辭【きじ】苦語【くご】我が耳に感ず,淚落ちて掩はず何ぞ漼漼【さいさい】。
#3
念う昔ごろ君に従って湘水を渡りしが,大帆 夜に割けて 高桅【こうき】窮りき。
陽山の鳥路【ちょうろ】は臨武【りんぶ】に出づるも,驛馬【えきば】地を拒みて驅れども頻りに隤【つまず】く。
蛇を踐み蠱【こ】茹【くち】いて死を擇【えら】ばず,忽【たちま】ち有飛詔【ひしょう】の天より来る有りしも。
伾文【ひぶん】は未だ揃【き】られずして崖州【がいしゅう】も熾【さかん】なり,赦宥【しゃゆう】を得たりと雖も恒に愁猜【しゅうせい】す。
#4
近者【ちかごろ】三奸【さんかん】の悉【ことごと】く破碎【はさい】せられ,羽窟【はくつ】の底無きに黃能【こうたい】を幽す。
眼中に了了として鄉國を見,歸る日有を知って眉【まゆ】方【まさ】に開かむとす。
今は君の縱【たとい】天涯の吏に署せらるるとも,檄を投じて北に去る何ぞ難からむや。
無妄の憂は藥することなくして喜ぶ,一善は自ら千災を禳【はら】うに足る。
#5
頭は軽く目の朗かに肌骨は健かなり,古劍【】新に劚【けず】って塵埃【じんあい】を磨【はら】う。
殃【わざわい】は消え 禍【まがつみ】は散じ 百福 【ひゃくふく】並す,此從より直ちに耇【こう】と鮐【たい】とに至らむ。
嵩山の東頭 伊洛の岸,勝事 穿栽【せんさい】を須【もち】うるを假らず。
君よ當に先行すべし我は満つるを得たむ,沮溺【そでき】繼ぐべし年を窮るまで推【たがや】さむ。
現代語訳と訳註
(本文) #3
念昔從君渡湘水,大帆夜劃窮高桅。
陽山鳥路出臨武,驛馬拒地驅頻隤。
踐蛇茹蠱不擇死,忽有飛詔從天來。
伾文未揃崖州熾,雖得赦宥恒愁猜。
(下し文) #3
念う昔ごろ君に従って湘水を渡りしが,大帆 夜に割けて 高桅【こうき】窮りき。
陽山の鳥路【ちょうろ】は臨武【りんぶ】に出づるも,驛馬【えきば】地を拒みて驅れども頻りに隤【つまず】く。
蛇を踐み蠱【こ】茹【くち】いて死を擇【えら】ばず,忽【たちま】ち有飛詔【ひしょう】の天より来る有りしも。
伾文【ひぶん】は未だ揃【き】られずして崖州【がいしゅう】も熾【さかん】なり,赦宥【しゃゆう】を得たりと雖も恒に愁猜【しゅうせい】す。
(現代語訳)
少し前のことを思い出すと先にきみと一緒に湘水を渡ったときのことだが、大きな帆を夜中に袈けて、 高いマストのある立派な舟でも危険な状態におちいった。
陽山から臨武へは鳥だけが通れるひとすじ道にでた、駅馬もこの地をいやがってむりに走らせると、しきりにつまずきたおれた。
いたるところで蛇をふみつけ、食物の中に毒虫がいたり、死をいとう暇もなかったが、しばらくして、とぶようにやって来る天子の詔勅が天降ることとはなった。
だが王伾・王叔文は斬られはしなくて、崖州の仲間の奴もまだ元気である、わたしは赦免は得たというものの 別の懸念がつきまとっているのだ。
(訳注) #3
念昔從君渡湘水,大帆夜劃窮高桅。
少し前のことを思い出すと先にきみと一緒に湘水を渡ったときのことだが、大きな帆を夜中に袈けて、 高いマストのあるりっはな舟でも危険な状態におちいった。
・従君 韓愈と張署は同時に南方に流され、同じ舟で湖水を渡った。
・劃 さける。
・窮高桅 桅はマスト。高いマストのあるりっはな舟でも危険な状態におちいった。
陽山鳥路出臨武,驛馬拒地驅頻隤。
陽山から臨武へは鳥だけが通れるひとすじ道にでた、駅馬もこの地をいやがってむりに走らせると、しきりにつまずきたおれた。
・鳥路 鳥だけが通れる道。地上を歩くものはどんな動物でも通れないような峻路。
・臨武 張著の凍窮地、沼州にある。
・驅頻隤 むりに走らせると、しきりにつまずきたおれた。
踐蛇茹蠱不擇死,忽有飛詔從天來。
いたるところで蛇をふみつけ、食物の中に毒虫がいたり、死をいとう暇もなかったが、しばらくして、とぶようにやって来る天子の詔勅が天降ることとはなった。
・践蛇 いたるところで蛇をふみつける。
・茹蠱 食物の中に毒虫がいる。
・飛詔 とぶようにやって来る天子の命令。
伾文未揃崖州熾,雖得赦宥恒愁猜。
だが王伾・王叔文は斬られはしなくて、崖州の仲間の奴もまだ元気である、わたしは赦免は得たというものの 別の懸念がつきまとっているのだ。
・伾文未揃 王位と王叔文はまだ斬殺さ
れない。
・崖州 のちには崖州に流された葦執誼
をさす。
・赦宥 ゆるし。
・愁猜 推測してうれう。
韓愈より、一足先に都に帰る張署と交換した詩である。
『贈韓退之』 張署
九疑峰畔二江前,戀闕思鄉日抵年。
白簡趨朝曾竝命,蒼梧左宦一聊翩。
鮫人遠泛漁舟水,鵩鳥閑飛露裏天。
渙汗幾時流率土,扁舟西下共歸田。
(韓退之に贈る)
九疑峰の畔 二江の前,闕を戀ひ 鄉を思うて 自ら年に抵る。
白簡 朝に趨く曾て竝びに命ぜられ,蒼梧に宦を左せらるるも一聊翩たり。
鮫人遠く泛ぶ漁舟の水,鵩鳥 閑に飛ぶ 露裏の天。
渙汗 幾時か 率土に流べば,扁舟 西下して 共に歸田せむ。
88 憶昨行和張十一
憶昨夾鍾之呂初吹灰,上公禮罷元侯回。
かねて過ぎ去ったころのこと、季節の変わり目に吹く爽鐘の呂のはじめて灰を吹いた日のことであった、上代の聖人を祭りをしおえてこの江陵の節度使裴均長官がお帰りになられた
車載牲牢甕舁酒,並召賓客延鄒枚。
車に神に供える牛・羊・豚をの、神酒の甕を担がせている、宴に召された賓客に漢代の枚乗と鄒陽のような文豪たちが居並んだ。
腰金首翠光照耀,絲竹迥發清以哀。
腰には金の佩び玉をつけ、翡翠の羽飾りはきらきら輝いている、遠くからわき起こる管絃楽は清らにも哀れであった。
青天白日花草麗,玉斝屢舉傾金罍。
空は青く晴れ渡り、真昼の太陽は白くふりそそぐ、 花も草もうるわしく広がる、宝玉のさかずきはしばしば飲み干し、黄金色の真鍮の酒壷は傾けられた。
#2
張君名聲座所屬,起舞先醉長松摧。
張君の名声は我々左遷や不遇の一座のものの注目するところとなっている、たから、立ち起きて舞い、まず酔うてしまい、松の巨木さながらくずれてしまう。
宿酲未解舊痁作,深室靜臥聞風雷。
二日酔いのさめないうちに前からのマラリヤの発作が起こってくる、奥の間で絶対安静にしていると高熱に耳鳴りがして大風雷鳴を聞いているようだ。
自期殞命在春序,屈指數日憐嬰孩。
自分の命も最後となる時期かと春の季節のあと追い 命も尽きてしまうものと思っている、もう幾日と指折り数え、赤子を不憫に思うようである。
危辭苦語感我耳,淚落不掩何漼漼。
切ない辛い君の言葉は 耳にするにつけいたましく感じられる、落ちる涙を掩いもしなで、なんとさめざめ涙を流すだけなのだ。
#3
念昔從君渡湘水,大帆夜劃窮高桅。
少し前のことを思い出すと先にきみと一緒に湘水を渡ったときのことだが、大きな帆を夜中に袈けて、 高いマストのある立派な舟でも危険な状態におちいった。
陽山鳥路出臨武,驛馬拒地驅頻隤。
陽山から臨武へは鳥だけが通れるひとすじ道にでた、駅馬もこの地をいやがってむりに走らせると、しきりにつまずきたおれた。
踐蛇茹蠱不擇死,忽有飛詔從天來。
いたるところで蛇をふみつけ、食物の中に毒虫がいたり、死をいとう暇もなかったが、しばらくして、とぶようにやって来る天子の詔勅が天降ることとはなった。
伾文未揃崖州熾,雖得赦宥恒愁猜。
だが王伾・王叔文は斬られはしなくて、崖州の仲間の奴もまだ元気である、わたしは赦免は得たというものの 別の懸念がつきまとっているのだ。
#4
近者三奸悉破碎,羽窟無底幽黃能。
それが近ごろのことで、改革派と称したこの三人の悪者は悉くうちにその思惑は打ち砕かれたのだ。羽山の底なしの洞窟に黄熊が閉じこもった事と同様に、やつらは幽閉せられたということだ。
眼中了了見鄉國,知有歸日眉方開。
私の目にはっきりと故郷の姿を思い浮かべて見ることもできる、帰る日のあるということがまちがいなくあるとわかるし、ひそめた眉がもうじき開けるというものなのだ。
今君縱署天涯吏,投檄北去何難哉。
今、君がたとえはるか天涯の地の下級官吏に任命されたとしても、辞令を投げ返して、北の都に向けて官を去ることもどうしてむつかしいというのか。(君の力なら難しくはないというものだ)
無妄之憂勿藥喜,一善自足禳千災。
「圥妄の憂は薬することなくして喜びあり」とかいうではないか、一の吉報はおのずから千の災いをはらいのけるに十分足るというものだ。
#5
頭輕目朗肌骨健,古劍新劚磨塵埃。
殃消禍散百福並,從此直至耇與鮐。
嵩山東頭伊洛岸,勝事不假須穿栽。
君當先行我待滿,沮溺可繼窮年推。
(憶昨行【おくさくこう】張十一に和す)
憶ふ昨に夾鍾【きょうしょう】の呂【りょ】の初めて灰【はい】を吹きしとき,上公の禮 罷【おわ】って元侯【げんこう】回【かえ】る。
車には牲牢【せいろう】を載せ甕【かめ】には酒を舁【か】く,賓客を並び召して鄒枚【すうばい】を延【ひ】く。
腰金【ようきん】と首翠【しゅすい】と光照【こうしょう】耀【よう】す,絲竹【しちく】迥【はるか】に發す清にして哀。
青天【せいてん】白日【はくじつ】花草麗【うるわ】し,玉斝【ぎょくか】屢ば舉げて金罍【きんらい】を傾く。
#2
張君の名聲は座の所する屬,起って舞ひ先ず醉いて長松の摧くるごとし。
宿酲【しゅくてい】の未だ解けざるに舊痁【きゅうせん】作【おこ】る,深室【しんしつ】に靜臥【せいが】して風雷を聞く。
自ら期す命を殞【おと】すは春序【しゅんじょ】に在りと,指を屈り日を数へて嬰孩【えんがい】を憐む。
危辭【きじ】苦語【くご】我が耳に感ず,淚落ちて掩はず何ぞ漼漼【さいさい】。
#3
念う昔ごろ君に従って湘水を渡りしが,大帆 夜に割けて 高桅【こうき】窮りき。
陽山の鳥路【ちょうろ】は臨武【りんぶ】に出づるも,驛馬【えきば】地を拒みて驅れども頻りに隤【つまず】く。
蛇を踐み蠱【こ】茹【くち】いて死を擇【えら】ばず,忽【たちま】ち有飛詔【ひしょう】の天より来る有りしも。
伾文【ひぶん】は未だ揃【き】られずして崖州【がいしゅう】も熾【さかん】なり,赦宥【しゃゆう】を得たりと雖も恒に愁猜【しゅうせい】す。
#4
近者【ちかごろ】三奸【さんかん】の悉【ことごと】く破碎【はさい】せられ,羽窟【はくつ】の底無きに黃能【こうたい】を幽す。
眼中に了了として鄉國を見,歸る日有を知って眉【まゆ】方【まさ】に開かむとす。
今は君の縱【たとい】天涯の吏に署せらるるとも,檄を投じて北に去る何ぞ難からむや。
無妄【むぼう】の憂は藥することなくして喜ぶ,一善は自ら千災を禳【はら】うに足る。
#5
頭は軽く目の朗かに肌骨は健かなり,古劍【】新に劚【けず】って塵埃【じんあい】を磨【はら】う。
殃【わざわい】は消え 禍【まがつみ】は散じ 百福 【ひゃくふく】並す,此從より直ちに耇【こう】と鮐【たい】とに至らむ。
嵩山の東頭 伊洛の岸,勝事 穿栽【せんさい】を須【もち】うるを假らず。
君よ當に先行すべし我は満つるを得たむ,沮溺【そでき】繼ぐべし年を窮るまで推【たがや】さむ。
現代語訳と訳註
(本文) #4
近者三奸悉破碎,羽窟無底幽黃能。
眼中了了見鄉國,知有歸日眉方開。
今君縱署天涯吏,投檄北去何難哉。
無妄之憂勿藥喜,一善自足禳千災。
(下し文) #4
近者【ちかごろ】三奸【さんかん】の悉【ことごと】く破碎【はさい】せられ,羽窟【はくつ】の底無きに黃能【こうたい】を幽す。
眼中に了了として鄉國を見,歸る日有を知って眉【まゆ】方【まさ】に開かむとす。
今は君の縱【たとい】天涯の吏に署せらるるとも,檄を投じて北に去る何ぞ難からむや。
無妄【むぼう】の憂は藥することなくして喜ぶ,一善は自ら千災を禳【はら】うに足る。
(現代語訳)
それが近ごろのことで、改革派と称したこの三人の悪者は悉くうちにその思惑は打ち砕かれたのだ。羽山の底なしの洞窟に黄熊が閉じこもった事と同様に、やつらは幽閉せられたということだ。
私の目にはっきりと故郷の姿を思い浮かべて見ることもできる、帰る日のあるということがまちがいなくあるとわかるし、ひそめた眉がもうじき開けるというものなのだ。
今、君がたとえはるか天涯の地の下級官吏に任命されたとしても、辞令を投げ返して、北の都に向けて官を去ることもどうしてむつかしいというのか。(君の力なら難しくはないというものだ)
「圥妄の憂は薬することなくして喜びあり」とかいうではないか、一の吉報はおのずから千の災いをはらいのけるに十分足るというものだ。
(訳注) #4
近者三奸悉破碎,羽窟無底幽黃能。
それが近ごろのことで、改革派と称したこの三人の悪者は悉くうちにその思惑は打ち砕かれたのだ。羽山の底なしの洞窟に黄熊が閉じこもった事と同様に、やつらは幽閉せられたということだ。
・三奸 王伾、王叔文、韋執誼。順宗が即位し、王叔文党が政権をにぎり、まもなく皇太子が摂政となり、王叔文が追放され、順宗が譲位し、自芸子が即位し、永点と改元した、じつにあわただしい年であった。その永貞元年も、韓愈が江陵に到着してまもなく尽き、新しい年をむかえ、新帝憲宗は、元号を「元和」と改めた。
だが、待ちに待ったその便りは、杏の花のさくころになってもやって来ぬ。
・羽窟黃能 羽山の洞窟。『書経』舜典に「共工を幽州に流し、驩兜を崇山に放ち、三苗を三危に竄し、鯀を羽山に極し、四罪して天下威く服す」とある。南に追放された四者のうち鯀の幽閉された山で、江蘇省東海県の西北だとする説と、山東省蓬莱県の東南だとする説とがある。・黃能 熊が羽山に閉じこめられてそのたましいが黄熊になったと『左伝』に見える。黄能は熊の一種。
眼中了了見鄉國,知有歸日眉方開。
私の目にはっきりと故郷の姿を思い浮かべて見ることもできる、帰る日のあるということがまちがいなくあるとわかるし、ひそめた眉がもうじき開けるというものなのだ。
今君縱署天涯吏,投檄北去何難哉。
今、君がたとえはるか天涯の地の下級官吏に任命されたとしても、辞令を投げ返して、北の都に向けて官を去ることもどうしてむつかしいというのか。(君の力なら難しくはないというものだ)
・縦署 たとえ任命せられたとしても。
・投檄 辞令を投げ返して辞表をさし出す。
無妄之憂勿藥喜,一善自足禳千災。
「圥妄の憂は薬することなくして喜びあり」とかいうではないか、一の吉報はおのずから千の災いをはらいのけるに十分足るというものだ。
・無妄之憂勿藥喜 『易経』に「圥妄の疾あるときは、薬すること勿くして喜び有り」ということばがある。圥は無と同じで、無妄とは虚妄のないこと、天理自然で人為を加えないことをいう。虚妄のない誠実の人が 偶然、病を得た場合には、薬をのんだりしなくとも、自然に治癒して喜びがやってくるという。韓愈の詩は、張署の病気も正に無妄の病だったから、治療せずに治ったというのである。
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