554 韓昌黎集 巻五 《謝自然詩》韓愈(韓退之) 韓愈 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 5096
- 2014/11/10
- 00:04
韓愈は道教を奉じた少女が、白日に昇天したなどと言うのは、無知蒙昧で決してこんなことがあるわけはない。それだけならまだしも郡守が上奏して、天子が詔を賜うという、寄懐至極のことだという。この詩は、韓愈《論佛骨表》の源泉というべきものである。
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《謝自然詩》韓愈(韓退之)
制作年:794年貞元十年27歲
卷別: 卷三三六 文體: 五言古詩
韓昌黎集 巻一
詩題: 謝自然詩〔果州謝真人上昇在金泉山,貞元十年十一月十二日白晝輕舉,郡守李堅以聞,有詔褒諭。〕
及地點: 南充 (山南西道 果州 南充) 別名:南充縣
金泉山 (山南西道 果州 金泉山)
謝自然詩 #1
(果州の謝仙女が白日天に昇ったのを、郡守李堅が,詔して褒美したことを韓愈がこの詩を寄懐至極のことだと作った)#1
果州南充縣,寒女謝自然。
所は蜀で果州の南充縣という地に謝自然と名乗る一人の貧女がいた。
童騃無所識,但聞有神仙。
言ってもまだ、子供で、一向知識も何もないが、道教を聞きかじって世に神仙と称するありがたいものがあるということを承っていた。
輕生學其術,乃在金泉山。
人並みのものを食わず、自分の生を軽んじて、神仙の術をまなび、はては、金泉山に分け入って、修業をおこなった。
繁華榮慕絕,父母慈愛捐。
こうして、世の中の栄華富貴など念慮を絶ち、父母の慈愛をもすててしまったということだ。
#2
凝心感魑魅,慌惚難具言。一朝坐空室,雲霧生其間。
如聆笙竽韻,來自冥冥天。白日變幽晦,蕭蕭風景寒。
#3
簷楹暫明滅【簷楹氣明滅】,五色光屬聯。觀者徒傾駭,躑躅詎敢前。
須臾自輕舉,飄若風中煙。茫茫八紘大,影響無由緣。
#4
里胥上其事,郡守驚且歎。驅車領官吏,甿俗爭相先。
入門無所見,冠履同蛻蟬。皆云神仙事,灼灼信可傳。
#5
餘聞古夏后,象物知神姦。山林民可入,魍魎莫逢旃。
逶迤不復振,後世恣欺謾。幽明紛雜亂,人鬼更相殘。
#6
秦皇雖篤好,漢武洪其源。自從二主來,此禍竟連連。
木石生怪變,狐狸騁妖患。莫能盡性命,安得更長延。
#7
人生處萬類,知識最為賢。奈何不自信,反欲從物遷。
往者不可悔,孤魂抱深冤。來者猶可誡,余言豈空文。
人生有常理,男女各有倫。
#7
寒衣及飢食,在紡績耕耘。下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
#8
寒衣及飢食,在紡績耕耘。
下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。
噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
謝自然の詩 #1
果州の南充縣,寒女の謝自然。
童騃 識る所無く,但だ神仙有るを聞く。
生を輕んじて其の術を學び,乃ち金泉山に在り。
繁華 榮慕絕え,父母 慈愛 捐【す】つ。
#2
心を凝らして 魑魅を感ぜしめ,慌惚 具【つぶさ】に言い難し。
一朝 空室に坐して,雲霧 其の間に生ず。
笙竽の韻を聆【き】くが如く,冥冥の天より來る。
白日 幽晦に變じ,蕭蕭として風景寒し。
#3
簷楹【えんえい】暫らく明滅し,五色 光 屬聯す。
觀る者 徒らに傾駭,躑躅【てきちょく】して詎んぞ敢て前【すす】まん。
須臾【しゅゆ】にして自ら 輕舉して,飄として 風中の煙の若し。
茫茫として 八紘大に,影響 緣に由し無し。
#4
里胥【りしょ】其の事を上【たてまつ】り,郡守 驚き且つ歎ず。
車を驅って官吏を領し,甿俗【ぼうぞく】爭うて相い先んず。
門に入って見る所無く,冠履【かんく】蛻蟬【ぜいぜん】に同じ。
皆云う 神仙の事,灼灼として 信び傳う可し と。
#5
餘聞く 古しえの夏后,物を象って神姦を知る。
山林 民入る可し,魍魎【ほうりょう】旃【これ】に逢うこと莫れ。
逶迤【いい】として復た振わず,後世 欺謾を恣にする。
幽明 紛として雜亂,人鬼 更【かわるがわ】る相い殘【そこな】う。
#6
秦皇 篤好と雖も,漢武 其の源を洪【おおい】にす。
二主より來【このかた】,此の禍 竟に連連。
木石 怪變を生じ,狐狸 妖患を騁【は】す。
能く性命を盡く莫く,安んぞ更に長延するを得んとする。
#7
人生 萬類を處す,知識を最も賢と為す。
奈何んぞ 自ら信ぜずして,反って物に從って遷らんと欲す。
往者 悔ゆ可からず,孤魂 深冤を抱く。
來者 猶お誡む可し,余の言 豈に空文ならんや。
人生常理有り,男女 各【おのお】の倫有り。
#8
寒衣と飢食と,紡績 耕耘に在り。
下は以って子孫を保ち,上は以て君親を奉ず。
苟しくも此の道に異ならば,皆 其の身を棄つと為す。
噫乎 彼の寒女,永く異物の群に托す。
感傷 遂に詩を成す,昧者は 宜しく紳に書すべし。
『謝自然詩』 現代語訳と訳註
(本文)
謝自然詩 #1
果州南充縣,寒女謝自然。童騃無所識,但聞有神仙。
輕生學其術,乃在金泉山。繁華榮慕絕,父母慈愛捐。
(下し文)
謝自然の詩 #1
果州の南充縣,寒女の謝自然。
童騃 識る所無く,但だ神仙有るを聞く。
生を輕んじて其の術を學び,乃ち金泉山に在り。
繁華 榮慕絕え,父母 慈愛 捐【す】つ。
(現代語訳)
(果州の謝仙女が白日天に昇ったのを、郡守李堅が,詔して褒美したことを韓愈がこの詩を寄懐至極のことだと作った)#1
所は蜀で果州の南充縣という地に謝自然と名乗る一人の貧女がいた。
言ってもまだ、子供で、一向知識も何もないが、道教を聞きかじって世に神仙と称するありがたいものがあるということを承っていた。
人並みのものを食わず、自分の生を軽んじて、神仙の術をまなび、はては、金泉山に分け入って、修業をおこなった。
こうして、世の中の栄華富貴など念慮を絶ち、父母の慈愛をもすててしまったということだ。
(訳注)
謝自然詩 #1
(果州の謝仙女が白日天に昇ったのを、郡守李堅が,詔して褒美したことを韓愈がこの詩を寄懐至極のことだと作った)
〔果州謝真人上昇在金泉山,貞元十年十一月十二日白晝輕舉,郡守李堅以聞,有詔褒諭。〕
(果州の謝真人で上昇し、金泉山に在り,貞元十年十一月十二日、白晝に輕舉す,郡守李堅以聞し,詔を褒諭【ほうゆ】する有り。〕(果州の謝仙女は十四、五で道に修し、室を金泉山に築き在り,貞元十年十一月十二日、白日天に昇る。郡守李堅はこれらを表して聞きつけて,詔して褒美す。と有る〕
◎韓愈は道教を奉じた少女が、白日に昇天したなどと言うのは、無知蒙昧で決してこんなことがあるわけはない。それだけならまだしも郡守が上奏して、天子が詔を賜うという、寄懐至極のことだという。この詩は、韓愈《論佛骨表》の源泉というべきものである。
《論佛骨表》(1)元和十四年韓愈(韓退之) Ⅱ中唐詩 <884> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3404韓愈詩-227-1
果州南充縣,寒女謝自然。
所は蜀で果州の南充縣という地に謝自然と名乗る一人の貧女がいた。
果州南充縣 (今四川省南充市東北)安漢県は唐代の621年に果州と改名され、その他には閬州(閬中市)、蓬州(営山県)などが置かれた。果州は742年に南充と改められた。1221年には果州は順慶府に昇格した。 中華民国の時代に入り1916年、この地方の中心は閬中から南充に遷された。
寒女 貧女
謝自然 孝廉謝寰の娘で、女道士,果州の人である。
童騃無所識,但聞有神仙。
言ってもまだ、子供で、一向知識も何もないが、道教を聞きかじって世に神仙と称するありがたいものがあるということを承っていた。
童騃 幼なくて痴愚、知識も何もない、無知。
輕生學其術,乃在金泉山。
人並みのものを食わず、自分の生を軽んじて、神仙の術をまなび、はては、金泉山に分け入って、修業をおこなった。
金泉山 四川果州南充城の西にある。
繁華榮慕絕,父母慈愛捐。
こうして、世の中の栄華富貴など念慮を絶ち、父母の慈愛をもすててしまったということだ。
#2
凝心感魑魅,慌惚難具言。
やがて、心を凝らした一念は、魑魅をも感動せしめ、その神變不思議なことは、とても、まじめで詳しく話もできないくらいであった。
一朝坐空室,雲霧生其間。
ある朝から、誰もいない講堂に坐していると、雲霧が忽然とその間に生じる。
如聆笙竽韻,來自冥冥天。
冥冥たる天上よりはものとはなしに、笙竽の微妙なる音楽の韻がきこえてくるようなのである。
白日變幽晦,蕭蕭風景寒。
その内に、一天、にわかに搔き曇り、はくじつのひかりをうしなって、幽晦に変ずると同時に、少々として、風景凄まじく寒く淋しいものとなる。
#3
簷楹暫明滅【簷楹氣明滅】,五色光屬聯。觀者徒傾駭,躑躅詎敢前。
須臾自輕舉,飄若風中煙。茫茫八紘大,影響無由緣。
#4
里胥上其事,郡守驚且歎。驅車領官吏,甿俗爭相先。
入門無所見,冠履同蛻蟬。皆云神仙事,灼灼信可傳。
#5
餘聞古夏后,象物知神姦。山林民可入,魍魎莫逢旃。
逶迤不復振,後世恣欺謾。幽明紛雜亂,人鬼更相殘。
#6
秦皇雖篤好,漢武洪其源。自從二主來,此禍竟連連。
木石生怪變,狐狸騁妖患。莫能盡性命,安得更長延。
#7
人生處萬類,知識最為賢。奈何不自信,反欲從物遷。
往者不可悔,孤魂抱深冤。來者猶可誡,余言豈空文。
人生有常理,男女各有倫。
#8
寒衣及飢食,在紡績耕耘。下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
謝自然の詩 #1
果州の南充縣,寒女の謝自然。
童騃 識る所無く,但だ神仙有るを聞く。
生を輕んじて其の術を學び,乃ち金泉山に在り。
繁華 榮慕絕え,父母 慈愛 捐【す】つ。
#2
心を凝らして 魑魅を感ぜしめ,慌惚 具【つぶさ】に言い難し。
一朝 空室に坐して,雲霧 其の間に生ず。
笙竽の韻を聆【き】くが如く,冥冥の天より來る。
白日 幽晦に變じ,蕭蕭として風景寒し。
#3
簷楹【えんえい】暫らく明滅し,五色 光 屬聯す。
觀る者 徒らに傾駭,躑躅【てきちょく】して詎んぞ敢て前【すす】まん。
須臾【しゅゆ】にして自ら 輕舉して,飄として 風中の煙の若し。
茫茫として 八紘大に,影響 緣に由し無し。
#4
里胥【りしょ】其の事を上【たてまつ】り,郡守 驚き且つ歎ず。
車を驅って官吏を領し,甿俗【ぼうぞく】爭うて相い先んず。
門に入って見る所無く,冠履【かんく】蛻蟬【ぜいぜん】に同じ。
皆云う 神仙の事,灼灼として 信び傳う可し と。
#5
餘聞く 古しえの夏后,物を象って神姦を知る。
山林 民入る可し,魍魎【ほうりょう】旃【これ】に逢うこと莫れ。
逶迤【いい】として復た振わず,後世 欺謾を恣にする。
幽明 紛として雜亂,人鬼 更【かわるがわ】る相い殘【そこな】う。
#6
秦皇 篤好と雖も,漢武 其の源を洪【おおい】にす。
二主より來【このかた】,此の禍 竟に連連。
木石 怪變を生じ,狐狸 妖患を騁【は】す。
能く性命を盡く莫く,安んぞ更に長延するを得んとする。
#7
人生 萬類を處す,知識を最も賢と為す。
奈何んぞ 自ら信ぜずして,反って物に從って遷らんと欲す。
往者 悔ゆ可からず,孤魂 深冤を抱く。
來者 猶お誡む可し,余の言 豈に空文ならんや。
人生常理有り,男女 各【おのお】の倫有り。
#8
寒衣と飢食と,紡績 耕耘に在り。
下は以って子孫を保ち,上は以て君親を奉ず。
苟しくも此の道に異ならば,皆 其の身を棄つと為す。
噫乎 彼の寒女,永く異物の群に托す。
感傷 遂に詩を成す,昧者は 宜しく紳に書すべし。
『謝自然詩』 現代語訳と訳註
(本文)
#2
凝心感魑魅,慌惚難具言。
一朝坐空室,雲霧生其間。
如聆笙竽韻,來自冥冥天。
白日變幽晦,蕭蕭風景寒。
(下し文) #2
心を凝らして 魑魅を感ぜしめ,慌惚 具【つぶさ】に言い難し。
一朝 空室に坐して,雲霧 其の間に生ず。
笙竽の韻を聆【き】くが如く,冥冥の天より來る。
白日 幽晦に變じ,蕭蕭として風景寒し。
(現代語訳)
やがて、心を凝らした一念は、魑魅をも感動せしめ、その神變不思議なことは、とても、まじめで詳しく話もできないくらいであった。
ある朝から、誰もいない講堂に坐していると、雲霧が忽然とその間に生じる。
冥冥たる天上よりはものとはなしに、笙竽の微妙なる音楽の韻がきこえてくるようなのである。
その内に、一天、にわかに搔き曇り、はくじつのひかりをうしなって、幽晦に変ずると同時に、少々として、風景凄まじく寒く淋しいものとなる。
(訳注) #2
謝自然詩
(果州の謝仙女が白日天に昇ったのを、郡守李堅が,詔して褒美したことを韓愈がこの詩を寄懐至極のことだと作った)
〔果州謝真人上昇在金泉山,貞元十年十一月十二日白晝輕舉,郡守李堅以聞,有詔褒諭。〕
(果州の謝真人で上昇し、金泉山に在り,貞元十年十一月十二日、白晝に輕舉す,郡守李堅以聞し,詔を褒諭【ほうゆ】する有り。〕(果州の謝仙女は十四、五で道に修し、室を金泉山に築き在り,貞元十年十一月十二日、白日天に昇る。郡守李堅はこれらを表して聞きつけて,詔して褒美す。と有る〕
◎韓愈は道教を奉じた少女が、白日に昇天したなどと言うのは、無知蒙昧で決してこんなことがあるわけはない。それだけならまだしも郡守が上奏して、天子が詔を賜うという、寄懐至極のことだという。この詩は、韓愈《論佛骨表》の源泉というべきものである。
《論佛骨表》(1)元和十四年韓愈(韓退之) Ⅱ中唐詩 <884> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3404韓愈詩-227-1
凝心感魑魅,慌惚難具言。
やがて、心を凝らした一念は、魑魅をも感動せしめ、その神變不思議なことは、とても、まじめで詳しく話もできないくらいであった。
感魑魅 眼に見えない妖怪悪魔怪物をもかんどうさせる。
慌惚 魅力または呪文によるように影響されること。神變不思議なこと。
一朝坐空室,雲霧生其間。
ある朝から、誰もいない講堂に坐していると、雲霧が忽然とその間に生じる。
如聆笙竽韻,來自冥冥天。
冥冥たる天上よりはものとはなしに、笙竽の微妙なる音楽の韻がきこえてくるようなのである。
如聆 聞く・聞えてくるようだ。
笙竽韻 笙の笛。竽:笙(しよう)の大型のもの。古くは三六管,のち,一九管・一七管となる。平安中期には用いられなくなった。うのふえ。
白日變幽晦,蕭蕭風景寒。
その内に、一天、にわかに搔き曇り、はくじつのひかりをうしなって、幽晦に変ずると同時に、少々として、風景凄まじく寒く淋しいものとなる。
#3
簷楹暫明滅,五色光屬聯。
一団の黒雲が落ちてきたものと見え、軒端がしばらく明滅していたが、忽ちにして、五色の光がたがいに連なる様にして入って来る。
觀者徒傾駭,躑躅詎敢前。
耀きわたった故に、見るものは、全員が大いに驚いたが、何分恐ろしいので、踟蹰して敢て進まず、かといってどういうわけか、室中に入って真相を見極めることもしないようだ。
須臾自輕舉,飄若風中煙。
暫くすると、雲霧の中より、謝自然の姿が現れて、軽やかに空中に舞上って昇天したが、その有様は、飄然として、風に漂う煙のようであったという。
茫茫八紘大,影響無由緣。
昇天した後、広大な世界のはるか遠い先の先までも、その影響についても、理由、接縁などの痕跡は全くなかったのである。
#4
里胥上其事,郡守驚且歎。
驅車領官吏,甿俗爭相先。
入門無所見,冠履同蛻蟬。
皆云神仙事,灼灼信可傳。
#5
餘聞古夏后,象物知神姦。山林民可入,魍魎莫逢旃。
逶迤不復振,後世恣欺謾。幽明紛雜亂,人鬼更相殘。
#6
秦皇雖篤好,漢武洪其源。自從二主來,此禍竟連連。
木石生怪變,狐狸騁妖患。莫能盡性命,安得更長延。
#7
人生處萬類,知識最為賢。奈何不自信,反欲從物遷。
往者不可悔,孤魂抱深冤。來者猶可誡,余言豈空文。
人生有常理,男女各有倫。
#7
寒衣及飢食,在紡績耕耘。下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
#8
寒衣及飢食,在紡績耕耘。
下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。
噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
謝自然の詩 #1
果州の南充縣,寒女の謝自然。
童騃 識る所無く,但だ神仙有るを聞く。
生を輕んじて其の術を學び,乃ち金泉山に在り。
繁華 榮慕絕え,父母 慈愛 捐【す】つ。
#2
心を凝らして 魑魅を感ぜしめ,慌惚 具【つぶさ】に言い難し。
一朝 空室に坐して,雲霧 其の間に生ず。
笙竽の韻を聆【き】くが如く,冥冥の天より來る。
白日 幽晦に變じ,蕭蕭として風景寒し。
#3
簷楹【えんえい】暫らく明滅し,五色 光 屬聯す。
觀る者 徒らに傾駭,躑躅【てきちょく】して詎んぞ敢て前【すす】まん。
須臾【しゅゆ】にして自ら 輕舉して,飄として 風中の煙の若し。
茫茫として 八紘大に,影響 緣に由し無し。
#4
里胥【りしょ】其の事を上【たてまつ】り,郡守 驚き且つ歎ず。
車を驅って官吏を領し,甿俗【ぼうぞく】爭うて相い先んず。
門に入って見る所無く,冠履【かんく】蛻蟬【ぜいぜん】に同じ。
皆云う 神仙の事,灼灼として 信び傳う可し と。
#5
餘聞く 古しえの夏后,物を象って神姦を知る。
山林 民入る可し,魍魎【ほうりょう】旃【これ】に逢うこと莫れ。
逶迤【いい】として復た振わず,後世 欺謾を恣にする。
幽明 紛として雜亂,人鬼 更【かわるがわ】る相い殘【そこな】う。
#6
秦皇 篤好と雖も,漢武 其の源を洪【おおい】にす。
二主より來【このかた】,此の禍 竟に連連。
木石 怪變を生じ,狐狸 妖患を騁【は】す。
能く性命を盡く莫く,安んぞ更に長延するを得んとする。
#7
人生 萬類を處す,知識を最も賢と為す。
奈何んぞ 自ら信ぜずして,反って物に從って遷らんと欲す。
往者 悔ゆ可からず,孤魂 深冤を抱く。
來者 猶お誡む可し,余の言 豈に空文ならんや。
人生常理有り,男女 各【おのお】の倫有り。
#8
寒衣と飢食と,紡績 耕耘に在り。
下は以って子孫を保ち,上は以て君親を奉ず。
苟しくも此の道に異ならば,皆 其の身を棄つと為す。
噫乎 彼の寒女,永く異物の群に托す。
感傷 遂に詩を成す,昧者は 宜しく紳に書すべし。
『謝自然詩』 現代語訳と訳註
(本文) #3
簷楹暫明滅,五色光屬聯。
觀者徒傾駭,躑躅詎敢前。
須臾自輕舉,飄若風中煙。
茫茫八紘大,影響無由緣。
(下し文) #3
簷楹【えんえい】暫らく明滅し,五色 光 屬聯す。
觀る者 徒らに傾駭,躑躅【てきちょく】して詎んぞ敢て前【すす】まん。
須臾【しゅゆ】にして自ら 輕舉して,飄として 風中の煙の若し。
茫茫として 八紘大に,影響 緣に由し無し。
(現代語訳)
一団の黒雲が落ちてきたものと見え、軒端がしばらく明滅していたが、忽ちにして、五色の光がたがいに連なる様にして入って来る。
耀きわたった故に、見るものは、全員が大いに驚いたが、何分恐ろしいので、踟蹰して敢て進まず、かといってどういうわけか、室中に入って真相を見極めることもしないようだ。
暫くすると、雲霧の中より、謝自然の姿が現れて、軽やかに空中に舞上って昇天したが、その有様は、飄然として、風に漂う煙のようであったという。
昇天した後、広大な世界のはるか遠い先の先までも、その影響についても、理由、接縁などの痕跡は全くなかったのである。
(訳注) #3
謝自然詩
(果州の謝仙女が白日天に昇ったのを、郡守李堅が,詔して褒美したことを韓愈がこの詩を寄懐至極のことだと作った)
〔果州謝真人上昇在金泉山,貞元十年十一月十二日白晝輕舉,郡守李堅以聞,有詔褒諭。〕
(果州の謝真人で上昇し、金泉山に在り,貞元十年十一月十二日、白晝に輕舉す,郡守李堅以聞し,詔を褒諭【ほうゆ】する有り。〕(果州の謝仙女は十四、五で道に修し、室を金泉山に築き在り,貞元十年十一月十二日、白日天に昇る。郡守李堅はこれらを表して聞きつけて,詔して褒美す。と有る〕
◎韓愈は道教を奉じた少女が、白日に昇天したなどと言うのは、無知蒙昧で決してこんなことがあるわけはない。それだけならまだしも郡守が上奏して、天子が詔を賜うという、寄懐至極のことだという。この詩は、韓愈《論佛骨表》の源泉というべきものである。
《論佛骨表》(1)元和十四年韓愈(韓退之) Ⅱ中唐詩 <884> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3404韓愈詩-227-1
簷楹暫明滅,五色光屬聯。
一団の黒雲が落ちてきたものと見え、軒端がしばらく明滅していたが、忽ちにして、五色の光がたがいに連なる様にして入って来る。
簷楹 のきの柱。「簷楹挂星斗、枕席響風水簷楹に星斗挂かり、枕席に風水響く」〔李白・宿清渓主人〕
五色 青(東)・赤(南)・黄(西)・白(天)・黒(北)の五色は『書経』にあり、道教では五色は神の色とする。
觀者徒傾駭,躑躅詎敢前。
耀きわたった故に、見るものは、全員が大いに驚いたが、何分恐ろしいので、踟蹰して敢て進まず、かといってどういうわけか、室中に入って真相を見極めることもしないようだ。
傾駭 全員が大いに驚いた。駭: ① 思いがけないことにあって,落ち着きを失う。びっくりする。 ② 思い知らされて,感心したり、あきれたりする。
躑躅 1 足踏みすること。ためらうこと。2 つつじ。中国で毒性のあるツツジを羊が誤って食べたところ、足ぶみしてもがき、うずくまってしまったと伝えられ、このようになることを躑躅(てきちょく)と言う。
須臾自輕舉,飄若風中煙。
暫くすると、雲霧の中より、謝自然の姿が現れて、軽やかに空中に舞上って昇天したが、その有様は、飄然として、風に漂う煙のようであったという。
須臾 短い時間。しばらくの間。ほんの少しの間。
輕舉 軽やかに空中に舞上って昇天したこと。
茫茫八紘大,影響無由緣。
昇天した後、広大な世界のはるか遠い先の先までも、その影響についても、理由、接縁などの痕跡は全くなかったのである。
茫茫 1 広々としてはるかなさま。2 ぼんやりかすんではっきりしないさま。3 草・髪などが伸びて乱れているさま
八紘 国の八方の果て。国の隅々。八極。
#4
里胥上其事,郡守驚且歎。
その里の首長はそのことを上申し、郡守はそれを聞いて驚異に感じ、且つ、道教のありがたい出来事であると感嘆したのである。
驅車領官吏,甿俗爭相先。
兎に角、検分しようというので、役人を準備し、車を馳せて出かけると、百姓は爭って先に立っていった。
入門無所見,冠履同蛻蟬。
その門に入ると何も見えず何処がどこだかわからない、普段つけていた冠とか、履だのが、まるでセミの抜け殻のようにからだけが残っていただけである。
皆云神仙事,灼灼信可傳。
みんなが口々に言うことは、尸解して仙人になったという神仙の出来事は、末世の今日と雖も、灼灼として伝えてゆくべきであるとし、道教はまことに結構なものだとした。
#5
餘聞古夏后,象物知神姦。
山林民可入,魍魎莫逢旃。
逶迤不復振,後世恣欺謾。
幽明紛雜亂,人鬼更相殘。
#6
秦皇雖篤好,漢武洪其源。自從二主來,此禍竟連連。
木石生怪變,狐狸騁妖患。莫能盡性命,安得更長延。
#7
人生處萬類,知識最為賢。奈何不自信,反欲從物遷。
往者不可悔,孤魂抱深冤。來者猶可誡,余言豈空文。
人生有常理,男女各有倫。
#7
寒衣及飢食,在紡績耕耘。下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
#8
寒衣及飢食,在紡績耕耘。
下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。
噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
謝自然の詩 #1
果州の南充縣,寒女の謝自然。
童騃 識る所無く,但だ神仙有るを聞く。
生を輕んじて其の術を學び,乃ち金泉山に在り。
繁華 榮慕絕え,父母 慈愛 捐【す】つ。
#2
心を凝らして 魑魅を感ぜしめ,慌惚 具【つぶさ】に言い難し。
一朝 空室に坐して,雲霧 其の間に生ず。
笙竽の韻を聆【き】くが如く,冥冥の天より來る。
白日 幽晦に變じ,蕭蕭として風景寒し。
#3
簷楹【えんえい】暫らく明滅し,五色 光 屬聯す。
觀る者 徒らに傾駭,躑躅【てきちょく】して詎んぞ敢て前【すす】まん。
須臾【しゅゆ】にして自ら 輕舉して,飄として 風中の煙の若し。
茫茫として 八紘大に,影響 緣に由し無し。
#4
里胥【りしょ】其の事を上【たてまつ】り,郡守 驚き且つ歎ず。
車を驅って官吏を領し,甿俗【ぼうぞく】爭うて相い先んず。
門に入って見る所無く,冠履【かんく】蛻蟬【ぜいぜん】に同じ。
皆云う 神仙の事,灼灼として 信び傳う可し と。
#5
餘聞く 古しえの夏后,物を象って神姦を知る。
山林 民入る可し,魍魎【ほうりょう】旃【これ】に逢うこと莫れ。
逶迤【いい】として復た振わず,後世 欺謾を恣にする。
幽明 紛として雜亂,人鬼 更【かわるがわ】る相い殘【そこな】う。
#6
秦皇 篤好と雖も,漢武 其の源を洪【おおい】にす。
二主より來【このかた】,此の禍 竟に連連。
木石 怪變を生じ,狐狸 妖患を騁【は】す。
能く性命を盡く莫く,安んぞ更に長延するを得んとする。
#7
人生 萬類を處す,知識を最も賢と為す。
奈何んぞ 自ら信ぜずして,反って物に從って遷らんと欲す。
往者 悔ゆ可からず,孤魂 深冤を抱く。
來者 猶お誡む可し,余の言 豈に空文ならんや。
人生常理有り,男女 各【おのお】の倫有り。
#8
寒衣と飢食と,紡績 耕耘に在り。
下は以って子孫を保ち,上は以て君親を奉ず。
苟しくも此の道に異ならば,皆 其の身を棄つと為す。
噫乎 彼の寒女,永く異物の群に托す。
感傷 遂に詩を成す,昧者は 宜しく紳に書すべし。
『謝自然詩』 現代語訳と訳註
(本文) #4
里胥上其事,郡守驚且歎。
驅車領官吏,甿俗爭相先。
入門無所見,冠履同蛻蟬。
皆云神仙事,灼灼信可傳。
(下し文) #4
里胥【りしょ】其の事を上【たてまつ】り,郡守 驚き且つ歎ず。
車を驅って官吏を領し,甿俗【ぼうぞく】爭うて相い先んず。
門に入って見る所無く,冠履【かんく】蛻蟬【ぜいぜん】に同じ。
皆云う 神仙の事,灼灼として 信び傳う可し と。
(現代語訳)
その里の首長はそのことを上申し、郡守はそれを聞いて驚異に感じ、且つ、道教のありがたい出来事であると感嘆したのである。
兎に角、検分しようというので、役人を準備し、車を馳せて出かけると、百姓は爭って先に立っていった。
その門に入ると何も見えず何処がどこだかわからない、普段つけていた冠とか、履だのが、まるでセミの抜け殻のようにからだけが残っていただけである。
みんなが口々に言うことは、尸解して仙人になったという神仙の出来事は、末世の今日と雖も、灼灼として伝えてゆくべきであるとし、道教はまことに結構なものだとした。
(訳注) #4
謝自然詩
(果州の謝仙女が白日天に昇ったのを、郡守李堅が,詔して褒美したことを韓愈がこの詩を寄懐至極のことだと作った)
〔果州謝真人上昇在金泉山,貞元十年十一月十二日白晝輕舉,郡守李堅以聞,有詔褒諭。〕
(果州の謝真人で上昇し、金泉山に在り,貞元十年十一月十二日、白晝に輕舉す,郡守李堅以聞し,詔を褒諭【ほうゆ】する有り。〕(果州の謝仙女は十四、五で道に修し、室を金泉山に築き在り,貞元十年十一月十二日、白日天に昇る。郡守李堅はこれらを表して聞きつけて,詔して褒美す。と有る〕
◎韓愈は道教を奉じた少女が、白日に昇天したなどと言うのは、無知蒙昧で決してこんなことがあるわけはない。それだけならまだしも郡守が上奏して、天子が詔を賜うという、寄懐至極のことだという。この詩は、韓愈《論佛骨表》の源泉というべきものである。
《論佛骨表》(1)元和十四年韓愈(韓退之) Ⅱ中唐詩 <884> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3404韓愈詩-227-1
里胥上其事,郡守驚且歎。
その里の首長はそのことを上申し、郡守はそれを聞いて驚異に感じ、且つ、道教のありがたい出来事であると感嘆したのである。
里胥 その里の首長。
驅車領官吏,甿俗爭相先。
兎に角、検分しようというので、役人を準備し、車を馳せて出かけると、百姓は爭って先に立っていった。
領官吏 下級役人のものを召し連れる。
甿俗 百姓
入門無所見,冠履同蛻蟬。
その門に入ると何も見えず何処がどこだかわからない、普段つけていた冠とか、履だのが、まるでセミの抜け殻のようにからだけが残っていただけである。
冠履 普段つけていた冠と履。
蛻蟬 セミの抜け殻のようにからだけが残っていた。
皆云神仙事,灼灼信可傳。
みんなが口々に言うことは、尸解して仙人になったという神仙の出来事は、末世の今日と雖も、灼灼として伝えてゆくべきであるとし、道教はまことに結構なものだとした。
#5
餘聞古夏后,象物知神姦。
とはいうものの、私が聞いている、古の夏后といわれた大禹は、洪水を収めて、天下を統一したとき、鼎を鋳造し、あらゆる神姦のものを集め、その形のものを集め、その形を象り、鼎の表面に鋳造して人民に知らしめたのである。
山林民可入,魍魎莫逢旃。
人民が山林に分け入っても、容易に魍魎たちを弁別しこれを避けて逢わないようにし、安心してゆくことが出来たのである。
逶迤不復振,後世恣欺謾。
しかし、近頃まで、だらだらと続いていたのに、それらの事はまた振るわぬようになり、後世では、唯人を欺くようなことをほしいままにしている。
幽明紛雜亂,人鬼更相殘。
それは、幽明両界の区別がなくなって、紛然雜乱し、人鬼互に、相残害するようになったのである。(謝自然が白日昇天したというのも、人を欺くことの一つではなかろうか)
#6
秦皇雖篤好,漢武洪其源。
自從二主來,此禍竟連連。
木石生怪變,狐狸騁妖患。
莫能盡性命,安得更長延。
#7
人生處萬類,知識最為賢。奈何不自信,反欲從物遷。
往者不可悔,孤魂抱深冤。來者猶可誡,余言豈空文。
人生有常理,男女各有倫。
#7
寒衣及飢食,在紡績耕耘。下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
#8
寒衣及飢食,在紡績耕耘。
下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。
噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
謝自然の詩 #1
果州の南充縣,寒女の謝自然。
童騃 識る所無く,但だ神仙有るを聞く。
生を輕んじて其の術を學び,乃ち金泉山に在り。
繁華 榮慕絕え,父母 慈愛 捐【す】つ。
#2
心を凝らして 魑魅を感ぜしめ,慌惚 具【つぶさ】に言い難し。
一朝 空室に坐して,雲霧 其の間に生ず。
笙竽の韻を聆【き】くが如く,冥冥の天より來る。
白日 幽晦に變じ,蕭蕭として風景寒し。
#3
簷楹【えんえい】暫らく明滅し,五色 光 屬聯す。
觀る者 徒らに傾駭,躑躅【てきちょく】して詎んぞ敢て前【すす】まん。
須臾【しゅゆ】にして自ら 輕舉して,飄として 風中の煙の若し。
茫茫として 八紘大に,影響 緣に由し無し。
#4
里胥【りしょ】其の事を上【たてまつ】り,郡守 驚き且つ歎ず。
車を驅って官吏を領し,甿俗【ぼうぞく】爭うて相い先んず。
門に入って見る所無く,冠履【かんく】蛻蟬【ぜいぜん】に同じ。
皆云う 神仙の事,灼灼として 信び傳う可し と。
#5
餘聞く 古しえの夏后,物を象って神姦を知る。
山林 民入る可し,魍魎【ほうりょう】旃【これ】に逢うこと莫れ。
逶迤【いい】として復た振わず,後世 欺謾を恣にする。
幽明 紛として雜亂,人鬼 更【かわるがわ】る相い殘【そこな】う。
#6
秦皇 篤好と雖も,漢武 其の源を洪【おおい】にす。
二主より來【このかた】,此の禍 竟に連連。
木石 怪變を生じ,狐狸 妖患を騁【は】す。
能く性命を盡く莫く,安んぞ更に長延するを得んとする。
#7
人生 萬類を處す,知識を最も賢と為す。
奈何んぞ 自ら信ぜずして,反って物に從って遷らんと欲す。
往者 悔ゆ可からず,孤魂 深冤を抱く。
來者 猶お誡む可し,余の言 豈に空文ならんや。
人生常理有り,男女 各【おのお】の倫有り。
#8
寒衣と飢食と,紡績 耕耘に在り。
下は以って子孫を保ち,上は以て君親を奉ず。
苟しくも此の道に異ならば,皆 其の身を棄つと為す。
噫乎 彼の寒女,永く異物の群に托す。
感傷 遂に詩を成す,昧者は 宜しく紳に書すべし。
『謝自然詩』 現代語訳と訳註
(本文) #5
餘聞古夏后,象物知神姦。
山林民可入,魍魎莫逢旃。
逶迤不復振,後世恣欺謾。
幽明紛雜亂,人鬼更相殘。
(下し文) #5
餘聞く 古しえの夏后,物を象って神姦を知る。
山林 民入る可し,魍魎【ほうりょう】旃【これ】に逢うこと莫れ。
逶迤【いい】として復た振わず,後世 欺謾を恣にする。
幽明 紛として雜亂,人鬼 更【かわるがわ】る相い殘【そこな】う。
(現代語訳)
とはいうものの、私が聞いている、古の夏后といわれた大禹は、洪水を収めて、天下を統一したとき、鼎を鋳造し、あらゆる神姦のものを集め、その形のものを集め、その形を象り、鼎の表面に鋳造して人民に知らしめたのである。
人民が山林に分け入っても、容易に魍魎たちを弁別しこれを避けて逢わないようにし、安心してゆくことが出来たのである。
しかし、近頃まで、だらだらと続いていたのに、それらの事はまた振るわぬようになり、後世では、唯人を欺くようなことをほしいままにしている。
それは、幽明両界の区別がなくなって、紛然雜乱し、人鬼互に、相残害するようになったのである。
(謝自然が白日昇天したというのも、人を欺くことの一つではなかろうか)
(訳注) #5
謝自然詩
(果州の謝仙女が白日天に昇ったのを、郡守李堅が,詔して褒美したことを韓愈がこの詩を寄懐至極のことだと作った)
〔果州謝真人上昇在金泉山,貞元十年十一月十二日白晝輕舉,郡守李堅以聞,有詔褒諭。〕
(果州の謝真人で上昇し、金泉山に在り,貞元十年十一月十二日、白晝に輕舉す,郡守李堅以聞し,詔を褒諭【ほうゆ】する有り。〕(果州の謝仙女は十四、五で道に修し、室を金泉山に築き在り,貞元十年十一月十二日、白日天に昇る。郡守李堅はこれらを表して聞きつけて,詔して褒美す。と有る〕
◎韓愈は道教を奉じた少女が、白日に昇天したなどと言うのは、無知蒙昧で決してこんなことがあるわけはない。それだけならまだしも郡守が上奏して、天子が詔を賜うという、寄懐至極のことだという。この詩は、韓愈《論佛骨表》の源泉というべきものである。
《論佛骨表》(1)元和十四年韓愈(韓退之) Ⅱ中唐詩 <884> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3404韓愈詩-227-1
餘聞古夏后,象物知神姦。
とはいうものの、私が聞いている、古の夏后といわれた大禹は、洪水を収めて、天下を統一したとき、鼎を鋳造し、あらゆる神姦のものを集め、その形のものを集め、その形を象り、鼎の表面に鋳造して人民に知らしめたのである。
夏后、中国最古と伝承される王朝。夏・殷・周を三代という。『史記』『竹書紀年』など中国の史書には初代の禹から末代の桀まで14世17代、471年間続いたと記録されている。この四句は、《左傳·宣三年》「昔夏之方有德也,遠方圖物,貢金九牧,鑄鼎象物,百物而爲之備,使民知神姦,故民入川澤山林,不逢不若,螭魅罔兩莫能逢之。」。(昔、夏の方に德有る也,遠方の圖物,貢金九牧,鼎に鑄って物に象り,百物をして之を備と爲し,民を使て神姦を知らしむ,故に民 川澤山林に入るも,「不逢不若」,螭魅魍魎 能く之に逢う莫し。)に基づいている。
山林民可入,魍魎莫逢旃。
人民が山林に分け入っても、容易に魍魎たちを弁別しこれを避けて逢わないようにし、安心してゆくことが出来たのである。
逶迤不復振,後世恣欺謾。
しかし、近頃まで、だらだらと続いていたのに、それらの事はまた振るわぬようになり、後世では、唯人を欺くようなことをほしいままにしている。
逶迤/委蛇 【いい】うねうねと長く続くさま。
幽明紛雜亂,人鬼更相殘。
それは、幽明両界の区別がなくなって、紛然雜乱し、人鬼互に、相残害するようになったのである。
(謝自然が白日昇天したというのも、人を欺くことの一つではなかろうか)
幽明 1 暗いことと明るいこと。2 死後の世界と、現在の世界。冥土(めいど)と現世。幽界と顕界。
紛然【ふんぜん】物事が入り乱れてごたごたしているさま。
残害 傷つけ、損なうこと。また、傷つけ、殺すこと。
#6
秦皇雖篤好,漢武洪其源。
そもそも道教は、秦の始皇帝が篤くし、神仙の道を好んだのであるが自分の不老不死の為というものであった。それ以上に、漢の武帝はその源を広げて流れを大きくしたのである。
自從二主來,此禍竟連連。
こうした、秦の始皇帝、漢の武帝という「幽明両界の区別がなくなって、紛然雜乱し、人鬼互に、相残害する」という二皇主がつくった禍の流れはそれ以来連連として今日まで続いているのである。
木石生怪變,狐狸騁妖患。
そこいらの、唯の木石まで怪変を生じたと云い、キツネと狸が人について妖魔の患いをおこしているということをいって道教をたくましくしたのである。
莫能盡性命,安得更長延。
道教を信ずる者は、人間が持っている生きる力、自分の生命も全うすることもなく、自然と一体と為すとして、いたずらに、薬などで、不老不死を求めているが、そんなことをしてはならないのである。そんなことでどうして生命を引き延ばすことが出来ようか。
#7
人生處萬類,知識最為賢。
奈何不自信,反欲從物遷。
往者不可悔,孤魂抱深冤。
來者猶可誡,余言豈空文。
人生有常理,男女各有倫。
#8
寒衣及飢食,在紡績耕耘。
下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。
噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
謝自然の詩 #1
果州の南充縣,寒女の謝自然。
童騃 識る所無く,但だ神仙有るを聞く。
生を輕んじて其の術を學び,乃ち金泉山に在り。
繁華 榮慕絕え,父母 慈愛 捐【す】つ。
#2
心を凝らして 魑魅を感ぜしめ,慌惚 具【つぶさ】に言い難し。
一朝 空室に坐して,雲霧 其の間に生ず。
笙竽の韻を聆【き】くが如く,冥冥の天より來る。
白日 幽晦に變じ,蕭蕭として風景寒し。
#3
簷楹【えんえい】暫らく明滅し,五色 光 屬聯す。
觀る者 徒らに傾駭,躑躅【てきちょく】して詎んぞ敢て前【すす】まん。
須臾【しゅゆ】にして自ら 輕舉して,飄として 風中の煙の若し。
茫茫として 八紘大に,影響 緣に由し無し。
#4
里胥【りしょ】其の事を上【たてまつ】り,郡守 驚き且つ歎ず。
車を驅って官吏を領し,甿俗【ぼうぞく】爭うて相い先んず。
門に入って見る所無く,冠履【かんく】蛻蟬【ぜいぜん】に同じ。
皆云う 神仙の事,灼灼として 信び傳う可し と。
#5
餘聞く 古しえの夏后,物を象って神姦を知る。
山林 民入る可し,魍魎【ほうりょう】旃【これ】に逢うこと莫れ。
逶迤【いい】として復た振わず,後世 欺謾を恣にする。
幽明 紛として雜亂,人鬼 更【かわるがわ】る相い殘【そこな】う。
#6
秦皇 篤好と雖も,漢武 其の源を洪【おおい】にす。
二主より來【このかた】,此の禍 竟に連連。
木石 怪變を生じ,狐狸 妖患を騁【は】す。
能く性命を盡く莫く,安んぞ更に長延するを得んとする。
#7
人生 萬類を處す,知識を最も賢と為す。
奈何んぞ 自ら信ぜずして,反って物に從って遷らんと欲す。
往者 悔ゆ可からず,孤魂 深冤を抱く。
來者 猶お誡む可し,余の言 豈に空文ならんや。
人生常理有り,男女 各【おのお】の倫有り。
#8
寒衣と飢食と,紡績 耕耘に在り。
下は以って子孫を保ち,上は以て君親を奉ず。
苟しくも此の道に異ならば,皆 其の身を棄つと為す。
噫乎 彼の寒女,永く異物の群に托す。
感傷 遂に詩を成す,昧者は 宜しく紳に書すべし。
『謝自然詩』 現代語訳と訳註
(本文) #6
秦皇雖篤好,漢武洪其源。
自從二主來,此禍竟連連。
木石生怪變,狐狸騁妖患。
莫能盡性命,安得更長延。
(下し文) #6
秦皇 篤好と雖も,漢武 其の源を洪【おおい】にす。
二主より來【このかた】,此の禍 竟に連連。
木石 怪變を生じ,狐狸 妖患を騁【は】す。
能く性命を盡く莫く,安んぞ更に長延するを得んとする。
(現代語訳)
そもそも道教は、秦の始皇帝が篤くし、神仙の道を好んだのであるが自分の不老不死の為というものであった。それ以上に、漢の武帝はその源を広げて流れを大きくしたのである。
こうした、秦の始皇帝、漢の武帝という「幽明両界の区別がなくなって、紛然雜乱し、人鬼互に、相残害する」という二皇主がつくった禍の流れはそれ以来連連として今日まで続いているのである。
そこいらの、唯の木石まで怪変を生じたと云い、キツネと狸が人について妖魔の患いをおこしているということをいって道教をたくましくしたのである。
道教を信ずる者は、人間が持っている生きる力、自分の生命も全うすることもなく、自然と一体と為すとして、いたずらに、薬などで、不老不死を求めているが、そんなことをしてはならないのである。そんなことでどうして生命を引き延ばすことが出来ようか。
(訳注) #6
謝自然詩
(果州の謝仙女が白日天に昇ったのを、郡守李堅が,詔して褒美したことを韓愈がこの詩を寄懐至極のことだと作った)
〔果州謝真人上昇在金泉山,貞元十年十一月十二日白晝輕舉,郡守李堅以聞,有詔褒諭。〕
(果州の謝真人で上昇し、金泉山に在り,貞元十年十一月十二日、白晝に輕舉す,郡守李堅以聞し,詔を褒諭【ほうゆ】する有り。〕(果州の謝仙女は十四、五で道に修し、室を金泉山に築き在り,貞元十年十一月十二日、白日天に昇る。郡守李堅はこれらを表して聞きつけて,詔して褒美す。と有る〕
◎韓愈は道教を奉じた少女が、白日に昇天したなどと言うのは、無知蒙昧で決してこんなことがあるわけはない。それだけならまだしも郡守が上奏して、天子が詔を賜うという、寄懐至極のことだという。この詩は、韓愈《論佛骨表》の源泉というべきものである。
《論佛骨表》(1)元和十四年韓愈(韓退之) Ⅱ中唐詩 <884> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3404韓愈詩-227-1
秦皇雖篤好,漢武洪其源。
そもそも道教は、秦の始皇帝が篤くし、神仙の道を好んだのであるが自分の不老不死の為というものであった。それ以上に、漢の武帝はその源を広げて流れを大きくしたのである。
秦皇 秦の始皇帝。自分の不老不死の為に道教を手厚くした。
漢武 漢の武帝。
洪其源 その源を広げて流れを大きくした。
自從二主來,此禍竟連連。
こうした、秦の始皇帝、漢の武帝という「幽明両界の区別がなくなって、紛然雜乱し、人鬼互に、相残害する」という二皇主がつくった禍の流れはそれ以来連連として今日まで続いているのである。
二主 秦の始皇帝、漢の武帝。
此禍 #5「幽明紛雜亂,人鬼更相殘」をさす。
木石生怪變,狐狸騁妖患。
そこいらの、唯の木石まで怪変を生じたと云い、キツネと狸が人について妖魔の患いをおこしているということをいって道教をたくましくしたのである。
騁 馳せる。たくましくする。
莫能盡性命,安得更長延。
道教を信ずる者は、人間が持っている生きる力、自分の生命も全うすることもなく、自然と一体と為すとして、いたずらに、薬などで、不老不死を求めているが、そんなことをしてはならないのである。そんなことでどうして生命を引き延ばすことが出来ようか。
莫能盡性命 道教を信ずる者は、人間が持っている生きる力、自分の生命も全うすることもなく、自然と一体と為すとして、いたずらに、薬などで、不老不死を求めているがそんなことをしてはならない。皇帝などの、金丹による中毒死、不審死が多かった。山での修行者は食事を採らないために早死にをしている。
#7
人生處萬類,知識最為賢。
元来人というものは万物の霊長であり、万類の間に処してゆくについて、最も賢明であることは知識を第一にすることである。
奈何不自信,反欲從物遷。
そうであるのに、折角天から授かった自分の知識を、自分自身が信じていないで、かえって、異物にしたがって、その生を移遷しようというのは何と愚かなことではなかろうか。
往者不可悔,孤魂抱深冤。
しかしこれまでの事は後悔しても仕方がない、謝自然としても、魑魅魍魎に引き込まれてしまったので、その孤魂の心持は深冤を抱いて苦しんでいる事だろう。
來者猶可誡,余言豈空文。
これからの事は、互いに誡め合って道教というもの盲信しないようにすべきであるし、私のこの言動は、決して空文ではないのである。
人生有常理,男女各有倫。
人生には常理というものが有るのであり、男女の間には倫理がある。
#8
寒衣及飢食,在紡績耕耘。
下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。
噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
謝自然の詩 #1
果州の南充縣,寒女の謝自然。
童騃 識る所無く,但だ神仙有るを聞く。
生を輕んじて其の術を學び,乃ち金泉山に在り。
繁華 榮慕絕え,父母 慈愛 捐【す】つ。
#2
心を凝らして 魑魅を感ぜしめ,慌惚 具【つぶさ】に言い難し。
一朝 空室に坐して,雲霧 其の間に生ず。
笙竽の韻を聆【き】くが如く,冥冥の天より來る。
白日 幽晦に變じ,蕭蕭として風景寒し。
#3
簷楹【えんえい】暫らく明滅し,五色 光 屬聯す。
觀る者 徒らに傾駭,躑躅【てきちょく】して詎んぞ敢て前【すす】まん。
須臾【しゅゆ】にして自ら 輕舉して,飄として 風中の煙の若し。
茫茫として 八紘大に,影響 緣に由し無し。
#4
里胥【りしょ】其の事を上【たてまつ】り,郡守 驚き且つ歎ず。
車を驅って官吏を領し,甿俗【ぼうぞく】爭うて相い先んず。
門に入って見る所無く,冠履【かんく】蛻蟬【ぜいぜん】に同じ。
皆云う 神仙の事,灼灼として 信び傳う可し と。
#5
餘聞く 古しえの夏后,物を象って神姦を知る。
山林 民入る可し,魍魎【ほうりょう】旃【これ】に逢うこと莫れ。
逶迤【いい】として復た振わず,後世 欺謾を恣にする。
幽明 紛として雜亂,人鬼 更【かわるがわ】る相い殘【そこな】う。
#6
秦皇 篤好と雖も,漢武 其の源を洪【おおい】にす。
二主より來【このかた】,此の禍 竟に連連。
木石 怪變を生じ,狐狸 妖患を騁【は】す。
能く性命を盡く莫く,安んぞ更に長延するを得んとする。
#7
人生 萬類を處す,知識を最も賢と為す。
奈何んぞ 自ら信ぜずして,反って物に從って遷らんと欲す。
往者 悔ゆ可からず,孤魂 深冤を抱く。
來者 猶お誡む可し,余の言 豈に空文ならんや。
人生常理有り,男女 各【おのお】の倫有り。
#8
寒衣と飢食と,紡績 耕耘に在り。
下は以って子孫を保ち,上は以て君親を奉ず。
苟しくも此の道に異ならば,皆 其の身を棄つと為す。
噫乎 彼の寒女,永く異物の群に托す。
感傷 遂に詩を成す,昧者は 宜しく紳に書すべし。
『謝自然詩』 現代語訳と訳註
(本文) #7
人生處萬類,知識最為賢。
奈何不自信,反欲從物遷。
往者不可悔,孤魂抱深冤。
來者猶可誡,余言豈空文。
人生有常理,男女各有倫。
(下し文) #7
人生 萬類を處す,知識を最も賢と為す。
奈何んぞ 自ら信ぜずして,反って物に從って遷らんと欲す。
往者 悔ゆ可からず,孤魂 深冤を抱く。
來者 猶お誡む可し,余の言 豈に空文ならんや。
人生常理有り,男女 各【おのお】の倫有り。
(現代語訳)
元来人というものは万物の霊長であり、万類の間に処してゆくについて、最も賢明であることは知識を第一にすることである。
そうであるのに、折角天から授かった自分の知識を、自分自身が信じていないで、かえって、異物にしたがって、その生を移遷しようというのは何と愚かなことではなかろうか。
しかしこれまでの事は後悔しても仕方がない、謝自然としても、魑魅魍魎に引き込まれてしまったので、その孤魂の心持は深冤を抱いて苦しんでいる事だろう。
これからの事は、互いに誡め合って道教というもの盲信しないようにすべきであるし、私のこの言動は、決して空文ではないのである。
人生には常理というものが有るのであり、男女の間には倫理がある。
(訳注) #7
謝自然詩
(果州の謝仙女が白日天に昇ったのを、郡守李堅が,詔して褒美したことを韓愈がこの詩を寄懐至極のことだと作った)
〔果州謝真人上昇在金泉山,貞元十年十一月十二日白晝輕舉,郡守李堅以聞,有詔褒諭。〕
(果州の謝真人で上昇し、金泉山に在り,貞元十年十一月十二日、白晝に輕舉す,郡守李堅以聞し,詔を褒諭【ほうゆ】する有り。〕(果州の謝仙女は十四、五で道に修し、室を金泉山に築き在り,貞元十年十一月十二日、白日天に昇る。郡守李堅はこれらを表して聞きつけて,詔して褒美す。と有る〕
◎韓愈は道教を奉じた少女が、白日に昇天したなどと言うのは、無知蒙昧で決してこんなことがあるわけはない。それだけならまだしも郡守が上奏して、天子が詔を賜うという、寄懐至極のことだという。この詩は、韓愈《論佛骨表》の源泉というべきものである。
《論佛骨表》(1)元和十四年韓愈(韓退之) Ⅱ中唐詩 <884> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3404韓愈詩-227-1
人生處萬類,知識最為賢。
元来人というものは万物の霊長であり、万類の間に処してゆくについて、最も賢明であることは知識を第一にすることである。
奈何不自信,反欲從物遷。
そうであるのに、折角天から授かった自分の知識を、自分自身が信じていないで、かえって、異物にしたがって、その生を移遷しようというのは何と愚かなことではなかろうか。
從物遷 《書経·君陳》「曰:惟民生厚,因物有遷。」(惟れ民の生厚けれども、物に因って遷る)にもとづく。
往者不可悔,孤魂抱深冤。
しかしこれまでの事は後悔しても仕方がない、謝自然としても、魑魅魍魎に引き込まれてしまったので、その孤魂の心持は深冤を抱いて苦しんでいる事だろう。
往者 既往のこと。
來者猶可誡,余言豈空文。
これからの事は、互いに誡め合って道教というもの盲信しないようにすべきであるし、私のこの言動は、決して空文ではないのである。
來者 将来のこと。
猶可誡 互いに誡め合って道教というもの盲信しないようにすべきである。
人生有常理,男女各有倫。
人生には常理というものが有るのであり、男女の間には倫理がある。
常理 永久に変わらない原理。きまり。ごく当たり前の道理,社会通念,常識.
倫 倫理:1 人として守り行うべき道。善悪・正邪の判断において普遍的な規準となるもの。道徳。モラル。2 「倫理学」道徳の概念によって見定めることができる。
#8
寒衣及飢食,在紡績耕耘。
そして、作務鞍れば衣をつけ飢えたならば食らうということに及ぶ、この二つを全うするために紡績をするのであり耕耘を為すのである。
下以保子孫,上以奉君親。
下は以て子孫を保ち、上は以て君親に奉ずるというのが儒家の道である。
苟異於此道,皆為棄其身。
いやしくも、この道以外に他の教義があろうはずもなく、斯道に異なるならば、天より授かった知識を有するにかかわらず、その身を棄てて異物に従ったのである。
噫乎彼寒女,永托異物群。
ああ、謝自然というかの貧女は、気の毒にも、永く異物の群れに託して、再び帰ることが出来ないので世俗に対しては、まことに良い誡めである。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
そこで、私は、感傷して、遂にこの詩を作成するにいたったのである、理に昧いものは、よろしくこれを紳に書し、よろしく邪教によって惑わされぬようにすることである。
謝自然の詩 #1
果州の南充縣,寒女の謝自然。
童騃 識る所無く,但だ神仙有るを聞く。
生を輕んじて其の術を學び,乃ち金泉山に在り。
繁華 榮慕絕え,父母 慈愛 捐【す】つ。
#2
心を凝らして 魑魅を感ぜしめ,慌惚 具【つぶさ】に言い難し。
一朝 空室に坐して,雲霧 其の間に生ず。
笙竽の韻を聆【き】くが如く,冥冥の天より來る。
白日 幽晦に變じ,蕭蕭として風景寒し。
#3
簷楹【えんえい】暫らく明滅し,五色 光 屬聯す。
觀る者 徒らに傾駭,躑躅【てきちょく】して詎んぞ敢て前【すす】まん。
須臾【しゅゆ】にして自ら 輕舉して,飄として 風中の煙の若し。
茫茫として 八紘大に,影響 緣に由し無し。
#4
里胥【りしょ】其の事を上【たてまつ】り,郡守 驚き且つ歎ず。
車を驅って官吏を領し,甿俗【ぼうぞく】爭うて相い先んず。
門に入って見る所無く,冠履【かんく】蛻蟬【ぜいぜん】に同じ。
皆云う 神仙の事,灼灼として 信び傳う可し と。
#5
餘聞く 古しえの夏后,物を象って神姦を知る。
山林 民入る可し,魍魎【ほうりょう】旃【これ】に逢うこと莫れ。
逶迤【いい】として復た振わず,後世 欺謾を恣にする。
幽明 紛として雜亂,人鬼 更【かわるがわ】る相い殘【そこな】う。
#6
秦皇 篤好と雖も,漢武 其の源を洪【おおい】にす。
二主より來【このかた】,此の禍 竟に連連。
木石 怪變を生じ,狐狸 妖患を騁【は】す。
能く性命を盡く莫く,安んぞ更に長延するを得んとする。
#7
人生 萬類を處す,知識を最も賢と為す。
奈何んぞ 自ら信ぜずして,反って物に從って遷らんと欲す。
往者 悔ゆ可からず,孤魂 深冤を抱く。
來者 猶お誡む可し,余の言 豈に空文ならんや。
人生常理有り,男女 各【おのお】の倫有り。
#8
寒衣と飢食と,紡績 耕耘に在り。
下は以って子孫を保ち,上は以て君親を奉ず。
苟しくも此の道に異ならば,皆 其の身を棄つと為す。
噫乎 彼の寒女,永く異物の群に托す。
感傷 遂に詩を成す,昧者は 宜しく紳に書すべし。
『謝自然詩』 現代語訳と訳註
(本文) #8
寒衣及飢食,在紡績耕耘。
下以保子孫,上以奉君親。
苟異於此道,皆為棄其身。
噫乎彼寒女,永托異物群。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
(下し文) #8
寒衣と飢食と,紡績 耕耘に在り。
下は以って子孫を保ち,上は以て君親を奉ず。
苟しくも此の道に異ならば,皆 其の身を棄つと為す。
噫乎 彼の寒女,永く異物の群に托す。
感傷 遂に詩を成す,昧者は 宜しく紳に書すべし。
(現代語訳)
そして、作務鞍れば衣をつけ飢えたならば食らうということに及ぶ、この二つを全うするために紡績をするのであり耕耘を為すのである。
下は以て子孫を保ち、上は以て君親に奉ずるというのが儒家の道である。
いやしくも、この道以外に他の教義があろうはずもなく、斯道に異なるならば、天より授かった知識を有するにかかわらず、その身を棄てて異物に従ったのである。
ああ、謝自然というかの貧女は、気の毒にも、永く異物の群れに託して、再び帰ることが出来ないので世俗に対しては、まことに良い誡めである。
そこで、私は、感傷して、遂にこの詩を作成するにいたったのである、理に昧いものは、よろしくこれを紳に書し、よろしく邪教によって惑わされぬようにすることである。
(訳注) #8
謝自然詩
(果州の謝仙女が白日天に昇ったのを、郡守李堅が,詔して褒美したことを韓愈がこの詩を寄懐至極のことだと作った)
〔果州謝真人上昇在金泉山,貞元十年十一月十二日白晝輕舉,郡守李堅以聞,有詔褒諭。〕
(果州の謝真人で上昇し、金泉山に在り,貞元十年十一月十二日、白晝に輕舉す,郡守李堅以聞し,詔を褒諭【ほうゆ】する有り。〕(果州の謝仙女は十四、五で道に修し、室を金泉山に築き在り,貞元十年十一月十二日、白日天に昇る。郡守李堅はこれらを表して聞きつけて,詔して褒美す。と有る〕
◎韓愈は道教を奉じた少女が、白日に昇天したなどと言うのは、無知蒙昧で決してこんなことがあるわけはない。それだけならまだしも郡守が上奏して、天子が詔を賜うという、寄懐至極のことだという。この詩は、韓愈《論佛骨表》の源泉というべきものである。
《論佛骨表》(1)元和十四年韓愈(韓退之) Ⅱ中唐詩 <884> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3404韓愈詩-227-1
寒衣及飢食,在紡績耕耘。
そして、作務鞍れば衣をつけ飢えたならば食らうということに及ぶ、この二つを全うするために紡績をするのであり耕耘を為すのである。
下以保子孫,上以奉君親。
下は以て子孫を保ち、上は以て君親に奉ずるというのが儒家の道である。
苟異於此道,皆為棄其身。
いやしくも、この道以外に他の教義があろうはずもなく、斯道に異なるならば、天より授かった知識を有するにかかわらず、その身を棄てて異物に従ったのである。
噫乎彼寒女,永托異物群。
ああ、謝自然というかの貧女は、気の毒にも、永く異物の群れに託して、再び帰ることが出来ないので世俗に対しては、まことに良い誡めである。
異物群 怪物の群れ。
感傷遂成詩,昧者宜書紳。
そこで、私は、感傷して、遂にこの詩を作成するにいたったのである、理に昧いものは、よろしくこれを紳に書し、よろしく邪教によって惑わされぬようにすることである。
書紳 紳は大帝であり、論語でいう宇宙である。そのことを忘れぬために書にして帯に巻き付けることをいう。
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