579 唐宋八大家文読本 巻三 《上兵部李侍郎書 -§5》韓愈(韓退之) 韓愈kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 5221
- 2014/12/05
- 00:19
南行の詩一巻は、憂いをゆるめ、悲しみをなぐさめるもので、それに取捨雑多をまじえて珍奇であやしい言葉をつかい、時俗の好みをうまくつかっている。しかし、これは私が口に歌ったり、耳に聴くためのものである。
579 唐宋八大家文読本 巻三 《上兵部李侍郎書 -§5》韓愈(韓退之) | kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 5221 |
上兵部李侍郎書 §1
(兵部侍郎李巽のような人物を見る眼識のある人に遇って、知己を求めなければ、機会を失うといって、採用を願うのである。)
十二月九日,將仕郎守江陵府法曹參軍韓愈,謹上書侍郎閤下:
十二月九日、将仕郎守江陵府法曹参軍韓愈、謹んで書を侍郎閣下にたてまつる。
愈少鄙鈍,於時事都不通曉,
私は幼少から見識は低く智能は鈍く、時世の事について全く通じ知らないのであるが、
家貧不足以自活,應舉覓官,凡二十年矣。
家が貧しく自力で活きるに不充分であるので、科挙に応じて官をも とめること二十年である。
薄命不幸,動遭讒謗,進寸退尺,卒無所成。
しかし運命が薄くふしあわせで、どうかするとありもしない悪口にあい、一寸進めば一尺退く というように、ついに成功する所かないのである。
(兵部李侍郎に上る書)
十二月九日,將仕 郎守 江陵府 法曹參軍の韓愈,謹んで書を侍郎閤下に上【たてまつ】る。
愈 少より鄙鈍【ひどん】,時事に於いて都【すべ】て通曉せず,
家 貧にして以って自活するに足らず,舉に應じて官を覓むること,凡そ二十年なり。
薄命不幸,動もすれば讒謗【ざんぼう】に遭い,寸を進めば尺を退き,卒【つい】に成す所無し。
§2
性本好文學,因困厄悲愁,
私は生まれつきの性格は、もともと文学を奸み、生活に困っていて、災いに苦しみ悲しみうれっていた。
無所告語,遂得究窮於經傳、
それを告げ語る人も無い境遇であったから、そのまま聖人の教えの書やそれの伝述の書を研究した。
史記、百家之說,沈潛乎訓義,反複乎句讀,
そして、歴史の記録、請子百家の説を研究し、その読み方解義に深く心をひそめ、辞章の句切り読みなどの勉学を繰り返した。
礱磨乎事業,而奮發乎文章。
学問の仕事に錬磨して、文章に力を奮い発することができた。
§2
性は本と 文學を好み,困厄 悲愁に因る,
告語する所無く,遂に經傳、史記、百家の說を究窮するを得る。
訓義に沈潛し,句讀を反複し,
事業を礱磨【ろうま】し,而して文章を奮發す。
-2
凡自唐虞以來,編簡所存,
およそ堯・舜からこのかた、書籍に存する所のものを読み、
大之為河海,高之為山嶽,
広大な文章では黄河や大海のようなものであり、高大なものでは山嶽のような 文章であるのだ。
明之為日月,幽之為鬼神,
明らかに輝くものでは、日月のような文章であり、幽玄なものでは鬼神にもたとえられる神秘な文章であるのだ。
纖之為珠璣華實,變之為雷霆風雨,
繊細な文章では真珠や小さい玉、花や実のようなものでもあるのだ。
奇辭奧旨,靡不通達。
変化の激しいものでは、雷や稲光、風や雨のような文章である。これらのめずらしい文辞、奥深い意味を、私は十分によく理解しないところがない。
惟是鄙鈍不通曉於時事,學成而道益窮,
ただ私の性質は見識いやしく、心の働きがにぶくて、時世の大切な事がらに行きわたり理解できないだけである。学問はでき上がっているのにである。
年老而智益困,私自憐悼,
わが道はますます行きづまり、年を重ねて智恵はますます苦しんでいる。私は人しれず自分を憐みいたむのである。
悔其初心,發禿齒落,不見知己。
その初めに抱いた志を今では悔いている。髪は禿げ歯は技けてうつろになっても、己を知ってくれる人物に遭遇できないでいる。
凡そ唐虞より以來,編簡の存する所なり,
之を大にしては河海を為し,之を高うしては山嶽と為す。
之を明しては日月と為り,之を幽にしては鬼神と為る。
之を纖しては珠璣【しゅき】華實と為り,之を變じては雷霆【らいてい】風雨と為る,
奇辭 奧旨,通達せざる靡【な】し。
惟だ是れ 鄙鈍【ひどん】時事に通曉せず,學成りて 道 益す窮す。
年老いて 智 益す困しみ,私【ひそか】に自ら憐悼【れんとう】す。
其の初心を悔い,發禿【はつとく】し齒落ち,知己を見ず。
§3
夫牛角之歌,辭鄙而義拙;
一体、斉の甯戚の牛角の歌は、斉の桓公に求めたものであるが、その辞はいやしくて、その意義はまずいものであった。
堂下之言,不書於傳記。
鄭の鬷蔑の堂下での言は、伝記に書いてはないから、内容はわからないのである。
齊桓舉以相國,叔向攜手以上,
斉の桓公は甯戚を挙げて国政を相ける宰相となし、晋の叔向は鬷蔑と手をたずさえて堂に上って語った。
然則非言之難為,聽而識之者難遇也!
そうだとすると、人に認められ難いのは、物言うことの難いのでなくて、それを聴いて人物を識別する者の遇い難いのである。
夫れ牛角の歌,辭 鄙【いやし】くして 義 拙【つたな】し。
堂下の言は,傳記に書せず。
齊桓 舉げて以って國に相たらしめ,叔向 手を攜えて以て上る,
然らば則ち言の為し難きに非らず,聽いて之を識る者 遇い難きなり!
上兵部李侍郎書§4-1
伏以閣下內仁而外義,行高而德巨,
伏して思うに、閣下は心の内には仁愛の心を貯え外には筋道正しい行いをされ、その行為は高尚で人格は大きいのであります。
尚賢而與能,哀窮而悼屈,
すぐれた徳のある人を尚び、能力のある人を挙げ用い、行きづまって苦しんでいる者を哀れんで、志を伸ばし得ないでいるものをいたみ悲しまれる。
自江而西,既化而行矣。
江西の地方は、その徳によって感化されてその政道が実行されている。
今者入守內職,為朝廷大臣,
今は政府内の官職を守って、朝廷の大臣と為られた。
-2
當天子新即位,汲汲於理化之日,
いま永貞元年正月に、天子が新たに即位されたので、政治教化はこの日から汲汲として休みなく勉められることになった。
出言舉事,宜必施設。
言説を出し事業を行ったのであり、必ずその実施の設備をするのがよいのである。
既有聽之之明,又有振之之力,
侍郎はすでにこれを聴いて判断する明智を持ち、またこれを力強く動かす実力があるのである。
寧戚之歌,鬷明之言,
それなのに甯戚の牛角の歌、鬷明の堂下の言のように、知己を求める意をあきらかにし、
不發於左右,則後而失其時矣。
閣下の左右に発し陳べなければ、遅れて時を失うことになるであろう。
上兵部李侍郎書§4-1
伏して以【おも】うに閣下 內仁して外義【そとぎ】,行ない高くして德 巨【おおい】なり,
賢を尚【たっと】んで能を與え,窮を哀んで屈を悼む,
江よりして西,既に化して行わる。
今は入りて內職を守り,朝廷の大臣と為る,
-2
天子 新に即位し,理化に汲汲たるの日に當り,
言を出だし事を舉げ,宜しく必ず施設すべし。
既に之れを聽くの明 有り,又た之れを振るの力 有る,
寧戚【ねいせき】の歌,鬷明【そうめい】の言,
左右に發せざれば,則ち後れて其の時を失わん。
§5
謹獻舊文一卷,扶樹教道,有所明白;
謹んで旧作の文章一巻をたてまつる。これは教化道徳を扶け樹立し、明らかにするところの働きがあるというものである。
南行詩一卷,舒憂娛悲,
また南行の詩一巻は、憂いをゆるめ、悲しみをなぐさめるもので、
雜以瑰怪之言,時俗之好,
それに取捨雑多をまじえて珍奇であやしい言葉をつかい、時俗の好みをうまくつかっている。
所以諷於口而聽於耳也。
しかし、これは私が口に歌ったり、耳に聴くためのものである。
如賜覽觀,亦有可采,
もし御覧いただければ、そして、采べきものがあるとみられたのであれば、
幹黷嚴尊,伏增惶恐。
これは、閣下の尊厳をおかし、けがしているわけでなく、厳かに尊意を持っているということであり、伏して益々かしこみ恐れる次第である。
愈再拜。
わたくし、韓愈はこうして頭を下げてお願い申し上げる。
§5
謹んで舊文の一卷を獻じ,教道を扶樹し,所明白にする有らん。
南行の詩の一卷は,憂いを舒べ悲みを娛【なぐ】さむ。
雜うるに瑰怪の言を,時俗の好を以ってす。
口に諷して、耳に聽いたりする所以なり。
如し 覽觀を賜り,亦た采る可き有らんとすれば,
嚴尊を幹黷【かんとく】し,伏して惶恐を增すものなり。
愈 再拜す。
『上兵部李侍郎書』 現代語訳と訳註解説
(本文) §5
謹獻舊文一卷,扶樹教道,有所明白;
南行詩一卷,舒憂娛悲,
雜以瑰怪之言,時俗之好,
所以諷於口而聽於耳也。
如賜覽觀,亦有可采,
幹黷嚴尊,伏增惶恐。
愈再拜。
(下し文)
謹んで舊文の一卷を獻じ,教道を扶樹し,所明白にする有らん。
南行の詩の一卷は,憂いを舒べ悲みを娛【なぐ】さむ。
雜うるに瑰怪の言を,時俗の好を以ってす。
口に諷して、耳に聽いたりする所以なり。
如し 覽觀を賜り,亦た采る可き有らんとすれば,
嚴尊を幹黷【かんとく】し,伏して惶恐を增すものなり。
愈 再拜す。
(現代語訳)
謹んで旧作の文章一巻をたてまつる。これは教化道徳を扶け樹立し、明らかにするところの働きがあるというものである。
また南行の詩一巻は、憂いをゆるめ、悲しみをなぐさめるもので、
それに取捨雑多をまじえて珍奇であやしい言葉をつかい、時俗の好みをうまくつかっている。
しかし、これは私が口に歌ったり、耳に聴くためのものである。
もし御覧いただければ、そして、采べきものがあるとみられたのであれば、
これは、閣下の尊厳をおかし、けがしているわけでなく、厳かに尊意を持っているということであり、伏して益々かしこみ恐れる次第である。
わたくし、韓愈はこうして頭を下げてお願い申し上げる。
(訳注)§5
兵部李侍郎書
(兵部侍郎李巽のような人物を見る眼識のある人に遇って、知己を求めなければ、機会を失うといって、採用を願うのである。)
○兵部侍郎 国防を担当し、長官を兵部尚書、次官を兵部侍郎という。 兵部は隋唐の時に設置され、武官の人事・兵器・軍政などを担当した。
謹獻舊文一卷,扶樹教道,有所明白;
謹んで旧作の文章一巻をたてまつる。これは教化道徳を扶け樹立し、明らかにするところの働きがあるというものである。
○扶樹 たすけ立てる。○教道 教化道徳。
南行詩一卷,舒憂娛悲,
また南行の詩一巻は、憂いをゆるめ、悲しみをなぐさめるもので、
○南行詩 韓愈が陽山の令に遷される時に作った詩である。この時の詩は
index-3[805年貞元21年 38歳] 陽山から江陵府参事軍 39首
index-4[806年元和元年 39歳]江陵府参事軍・権知国子博士 50首の(1)25首
韓愈は五嶺山脈を越えたのは三度ある。幼い12歳時に、779年兄の韶州流刑について行った。二回目がこの詩の謂う803年36歳、京兆尹李実を弾劾したため陽山に貶せられた時で、三度目は819年52歳「佛骨を論ずる表」を上って憲宗の逆鱗に触れ潮州に貶せられた。
index-11819年元和14年 52歳 ・『論佛骨表』を上って潮州に貶せらる 38首
雜以瑰怪之言,時俗之好,
それに取捨雑多をまじえて珍奇であやしい言葉をつかい、時俗の好みをうまくつかっている。
○瑰怪 珍しくあやしいこと。
所以諷於口而聽於耳也。
しかし、これは私が口に歌ったり、耳に聴くためのものである。
○諷 口ずさむ。歌う。
- テーマ:詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
- ジャンル:学問・文化・芸術
- カテゴリ:唐宋八大家文読本
- CM:0
最新記事
- 長い間ブログを休校している件について (09/01)
- 李太白集 397《太白巻23-02效古二首其一》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7573 (04/04)
- 李太白集 396《太白巻二十二40憶東山二首 其二》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7568 (04/03)
- 李太白集 395《太白巻二十二39憶東山二首 其一》 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7563 (03/30)
- 李太白集 394《太白巻二十08杜陵絕句》 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7558 (03/29)
- 李太白集 393《太白巻十九18朝下過盧郎中敘舊游》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7553 (03/28)
- 李太白集 392《太白巻十八12金門答蘇秀才》 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7548 (03/27)
- 太白集 391《太白巻十九17下終南山過斛斯山人宿置酒》 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7543 (03/26)
- 太白集 390《太白巻十六33 送長沙陳太守,二首之二》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7538 (03/25)
- 李太白集 389《太白巻十六32 送長沙陳太守,二首之一》 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7533 (03/24)
- 李太白集 388《太白巻十六26 送祝八之江東賦得浣紗石》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7528 (03/23)
- 李太白集 387《太白巻十六23-《送白利從金吾董將軍西征》 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7523 (03/22)
- 李太白集 386《太白巻十六21 送族弟綰從軍安西》(漢家兵馬乘北風) 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7508 (03/19)
- 李太白集 385《太白巻十六18-3-《送外甥鄭灌從軍,三首之三》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7503 (03/18)
- 李太白集 384《太白巻十六18-2 送外甥鄭灌從軍,三首之二》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7498 (03/17)
- 李太白集 383《太白巻十六18-1 送外甥鄭灌從軍,三首之一》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7493 (03/16)
- 李太白集 382《太白巻十六13 送張遙之壽陽幕府》 (壽陽信天險,) 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7488 (03/15)
- 李太白集 381《太白巻十六10 送程劉二侍郎兼獨孤判官赴安西幕府》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7483 (03/14)
- 李太白集 381《太白巻十六10 送程劉二侍郎兼獨孤判官赴安西幕府》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7483 (03/13)
- 李太白集 380《太白巻十六08 送竇司馬貶宜春》 (天馬白銀鞍,) 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7478 (03/12)
- 李太白集 379《太白巻十四34 贈別王山人歸布山》(王子析道論,) 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7473 (03/11)
- 李太白集 378《太白巻十二06-夕霽杜陵登樓寄韋繇》 (浮陽滅霽景) 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7468 (03/10)
- 李太白集 377《太白巻巻十二05-《望終南山寄紫閣隱者》(出門見南山) 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7463 (03/09)
- 李太白集 376《太白巻八36 贈盧徵君昆弟》 (明主訪賢逸) 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7458 (03/08)
- 李太白集 375《太白巻八22 贈郭將軍》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7453 (03/07)
- 李太白集 374《太白巻六10-《同族弟金城尉叔卿燭照山水壁畫歌》 (高堂粉壁圖蓬瀛) 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7448 (03/06)
- 李太白集 373《太白巻六07 西嶽雲臺歌送丹丘子》 (西嶽崢嶸何壯哉) 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7443 (03/05)
- 李太白集 372《太白巻六05 玉壺吟》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7438 (03/04)
- 李太白集 371《太白巻卷六04-《侍從宜春苑,奉詔賦龍池柳色初青,聽新鶯百囀歌》 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7433 (03/03)
- 李太白集 370《太白巻五 24-秋思》 李白 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 7428 (03/02)