586 韓昌黎集 巻五 《病中贈張十八》韓愈(韓退之) 798年貞元14年 31歳 kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 5256
- 2014/12/12
- 22:20
韓愈《病中贈張十八》夜明け前の 登朝の知らせる太鼓の音が聴こえても土を踏んでゆくこともできない。だから、ただ安眠して太鼓の逢逢となる音をきいているだけなのだ。張籍よ、お前は長安の閭里に住んでいて、十分な才能を秘めており、未だこれを一斛の政治に役立て、施すことはできていない。
26- 《病中贈張十八 -1》韓愈(韓退之) 798年貞元14年 31歳韓昌黎集 巻五
年:798年貞元十四年31歲
卷別: 卷三四0 文體: 五言古詩
韓昌黎集 巻五
詩題: 病中贈張十八
作地點: 汴州(河南道 / 汴州 / 汴州)
及地點: 崑崙山 (隴右道東部 肅州 崑崙山)
交遊人物:張籍 書信往來(河南道 汴州 汴州)
病中贈張十八 -1
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
中虛得暴下,避冷臥北窗。
近頃、胃腸を悪くして、腹の中を空虚にしても、頻りに下痢を催すので、冷気をさけて北窓のもとに臥せっている。
不蹋曉鼓朝,安眠聽逢逢。
夜明け前の 登朝の知らせる太鼓の音が聴こえても土を踏んでゆくこともできない。だから、ただ安眠して太鼓の逢逢となる音をきいているだけなのだ。
籍也處閭里,抱能未施邦。
張籍よ、お前は長安の閭里に住んでいて、十分な才能を秘めており、未だこれを一斛の政治に役立て、施すことはできていない。
文章自娛戲,金石日擊撞。
文章をもって我が門下での娯楽としているが、その作品は、金石が日々に擊撞するように絶えず心に鳴り響くほどである。
(病中の張十八に贈る) -1
中虛 暴下を得たり,冷を避けて北窗に臥す。
曉鼓を蹋んで朝さず,安眠して逢逢を聽く。
籍也 閭里に處し,能を抱いて未だ邦に施さず。
文章 自ら娛戲【ごぎ】,金石 日に擊撞【げきとう】。
-2
龍文百斛鼎,筆力可獨扛。
談舌久不掉,非君亮誰雙。
扶几導之言,曲節初摐摐。
半途喜開鑿,派別失大江。
-3
吾欲盈其氣,不令見麾幢。
牛羊滿田野,解旆束空杠。
傾尊與斟酌,四壁堆罌缸。
玄帷隔雪風,照爐釘明釭。
-4
夜闌縱捭闔,哆口疏眉厖。
勢侔高陽翁,坐約齊橫降。
連日挾所有,形軀頓胮肛。
將歸乃徐謂,子言得無哤。
回軍與角逐,斫樹收窮龐。
-5
雌聲吐款要,酒壺綴羊腔。
君乃崑崙渠,籍乃嶺頭瀧。
譬如蟻蛭微,詎可陵崆山兇。
幸願終賜之,斬拔櫱與樁。
從此識歸處,東流水淙淙。
『病中贈張十八』 現代語訳と訳註解説
(本文)
病中贈張十八 -1
中虛得暴下,避冷臥北窗。
不蹋曉鼓朝,安眠聽逢逢。
籍也處閭里,抱能未施邦。
文章自娛戲,金石日擊撞。
(下し文)
(病中の張十八に贈る) -1
中虛 暴下を得たり,冷を避けて北窗に臥す。
曉鼓を蹋んで朝さず,安眠して逢逢を聽く。
籍也 閭里に處し,能を抱いて未だ邦に施さず。
文章 自ら娛戲【ごぎ】,金石 日に擊撞【げきとう】。
(現代語訳)
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
近頃、胃腸を悪くして、腹の中を空虚にしても、頻りに下痢を催すので、冷気をさけて北窓のもとに臥せっている。
夜明け前の 登朝の知らせる太鼓の音が聴こえても土を踏んでゆくこともできない。だから、ただ安眠して太鼓の逢逢となる音をきいているだけなのだ。
張籍よ、お前は長安の閭里に住んでいて、十分な才能を秘めており、未だこれを一斛の政治に役立て、施すことはできていない。
文章をもって我が門下での娯楽としているが、その作品は、金石が日々に擊撞するように絶えず心に鳴り響くほどである。
(訳注)
病中贈張十八 -1
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
病気静養中に張籍が来て、何かと議論をしたが、韓愈は初めからただ聞き方に専念し、可否、反論、結論は全く言わなかったが、張籍の意見を十分いい尽くしたと思えたので、張籍の誤っているところを指摘し、納得させた。この詩はそれについての経過を一首の詩にしたものである。
張十八 張籍。字は文昌。和州烏江(安徽省)あるいは東郡(河南省)の人といわれる。貞元15年(799)の進士で国子司業などをつとめる。韓愈の門下のひとり。とりわけ楽府(がふ)に長じ,僚友の王建の作とともに〈張王楽府〉と並称される。官僚としては不遇だった彼には〈征婦怨〉や〈築城詞〉など民衆の苦痛を訴え,為政者を批判する作品が多く,その点杜甫,元結の詩風を受け継ぎ,同時代の大詩人で友人でもあった白居易が絶賛している。
中虛得暴下,避冷臥北窗。
近頃、胃腸を悪くして、腹の中を空虚にしても、頻りに下痢を催すので、冷気をさけて北窓のもとに臥せっている。
中虛 胃腸を悪くして、腹の中を空虚にする。
暴下 頻りに下痢を催す。
不蹋曉鼓朝,安眠聽逢逢。
夜明け前の 登朝の知らせる太鼓の音が聴こえても土を踏んでゆくこともできない。だから、ただ安眠して太鼓の逢逢となる音をきいているだけなのだ。
曉鼓 登朝の知らせをする太鼓の音。夜明け時には、整列を終える。
朝 朝廷に出かけること。朝礼に出る。
逢逢【ほうほう】 鼓声。『詩経、大雅、霊台』「鼉鼓逢逢 矇瞍奏公.」(鼉鼓逢逢たり 矇瞍公を奏す.)
籍也處閭里,抱能未施邦。
張籍よ、お前は長安の閭里に住んでいて、十分な才能を秘めており、未だこれを一斛の政治に役立て、施すことはできていない。
閭里 長安の閭里に住んでいること。
文章自娛戲,金石日擊撞。
文章をもって我が門下での娯楽としているが、その作品は、金石が日々に擊撞するように絶えず心に鳴り響くほどである。
擊撞 ・撞:1 つく。2 つき当たる。さしさわる。
病中贈張十八 -1
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
中虛得暴下,避冷臥北窗。
近頃、胃腸を悪くして、腹の中を空虚にしても、頻りに下痢を催すので、冷気をさけて北窓のもとに臥せっている。
不蹋曉鼓朝,安眠聽逢逢。
夜明け前の 登朝の知らせる太鼓の音が聴こえても土を踏んでゆくこともできない。だから、ただ安眠して太鼓の逢逢となる音をきいているだけなのだ。
籍也處閭里,抱能未施邦。
張籍よ、お前は長安の閭里に住んでいて、十分な才能を秘めており、未だこれを一斛の政治に役立て、施すことはできていない。
文章自娛戲,金石日擊撞。
文章をもって我が門下での娯楽としているが、その作品は、金石が日々に擊撞するように絶えず心に鳴り響くほどである。
(病中の張十八に贈る) -1
中虛 暴下を得たり,冷を避けて北窗に臥す。
曉鼓を蹋んで朝さず,安眠して逢逢を聽く。
籍也 閭里に處し,能を抱いて未だ邦に施さず。
文章 自ら娛戲【ごぎ】,金石 日に擊撞【げきとう】。
-2
龍文百斛鼎,筆力可獨扛。
つくる文章といえば、面に龍の模様を彫り、中には百斛ものを盛るような鼎を一人で持ち上げるような筆力なのである。
談舌久不掉,非君亮誰雙。
ところが、張籍は我が門下に来て、文章だけでとても自分の才能を充分発揮できないから、弁舌でもってしようと思ったのだが、そのお相手がいないと久しく弁舌をふるえなかったということで、ここへ来て「君以外にしかるべきものがいない」から来てやった。
扶几導之言,曲節初摐摐。
そんなことで、病気の私は、机に助けられて座ることができ、その弁舌の紆余曲節をはじめから机をたたきながら調子を上げて話すのを聞かされたのである。
半途喜開鑿,派別失大江。
おもしろいけれど、中途から横道にそれ、人の通らぬところを開鑿し、大江の水があふれ出して別の所に流れを作ってしまったようであった。
-2
龍文 百斛の鼎,筆力 獨り扛【あ】ぐ可し。
談舌 久しく掉【ふる】わず,君に非らざれば 亮【まこと】に誰か雙せん。
几を扶け之を導いて言う,曲節 初めて 摐摐【そうそう】たり。
半途 喜んで開鑿【かいさく】し,派別 大江を失う。
-3
吾欲盈其氣,不令見麾幢。
牛羊滿田野,解旆束空杠。
傾尊與斟酌,四壁堆罌缸。
玄帷隔雪風,照爐釘明釭。
-4
夜闌縱捭闔,哆口疏眉厖。
勢侔高陽翁,坐約齊橫降。
連日挾所有,形軀頓胮肛。
將歸乃徐謂,子言得無哤。
回軍與角逐,斫樹收窮龐。
-5
雌聲吐款要,酒壺綴羊腔。
君乃崑崙渠,籍乃嶺頭瀧。
譬如蟻蛭微,詎可陵崆山兇。
幸願終賜之,斬拔櫱與樁。
從此識歸處,東流水淙淙。
『病中贈張十八』 現代語訳と訳註解説
(本文) -2
龍文百斛鼎,筆力可獨扛。
談舌久不掉,非君亮誰雙。
扶几導之言,曲節初摐摐。
半途喜開鑿,派別失大江。
(含異文)
龍文百斛鼎,筆力可獨扛。談舌久不掉,非君亮誰雙。
扶几導之言,曲節初摐摐【案:音窗。】。半途喜開鑿,派別失大江。
(下し文) -2
龍文 百斛の鼎,筆力 獨り扛【あ】ぐ可し。
談舌 久しく掉【ふる】わず,君に非らざれば 亮【まこと】に誰か雙せん。
几を扶け之を導いて言う,曲節 初めて 摐摐【そうそう】たり。
半途 喜んで開鑿【かいさく】し,派別 大江を失う。
(現代語訳)
つくる文章といえば、面に龍の模様を彫り、中には百斛ものを盛るような鼎を一人で持ち上げるような筆力なのである。
ところが、張籍は我が門下に来て、文章だけでとても自分の才能を充分発揮できないから、弁舌でもってしようと思ったのだが、そのお相手がいないと久しく弁舌をふるえなかったということで、ここへ来て「君以外にしかるべきものがいない」から来てやった。
そんなことで、病気の私は、机に助けられて座ることができ、その弁舌の紆余曲節をはじめから机をたたきながら調子を上げて話すのを聞かされたのである。
おもしろいけれど、中途から横道にそれ、人の通らぬところを開鑿し、大江の水があふれ出して別の所に流れを作ってしまったようであった。
(訳注) -2
病中贈張十八
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
病気静養中に張籍が来て、何かと議論をしたが、韓愈は初めからただ聞き方に専念し、可否、反論、結論は全く言わなかったが、張籍の意見を十分いい尽くしたと思えたので、張籍の誤っているところを指摘し、納得させた。この詩はそれについての経過を一首の詩にしたものである。
龍文百斛鼎,筆力可獨扛。
つくる文章といえば、面に龍の模様を彫り、中には百斛ものを盛るような鼎を一人で持ち上げるような筆力なのである。
龍文百斛鼎 百斛の大盤の鼎での面に龍の模様を彫ってある。10斗,すなわち100升に等しい。中国の漢の時代に10斗に等しい容量の単位を斛(こく)と定め,石(せき)は120斤=4鈞(きん)に等しい質量の単位であったが,宋の末に至り5斗を斛とし,10斗を石(せき)とした。ただし5斗を斛とする。
扛 差し上げる。
談舌久不掉,非君亮誰雙。
ところが、張籍は我が門下に来て、文章だけでとても自分の才能を充分発揮できないから、弁舌でもってしようと思ったのだが、そのお相手がいないと久しく弁舌をふるえなかったということで、ここへ来て「君以外にしかるべきものがいない」から来てやった。
談舌久不掉 相手がいないと久しく弁舌をふるえなかったという意。
扶几導之言,曲節初摐摐。
そんなことで、病気の私は、机に助けられて座ることができ、その弁舌の紆余曲節をはじめから机をたたきながら調子を上げて話すのを聞かされたのである。
摐摐 弁士が机をたたきながら調子を上げて話すこと。
半途喜開鑿,派別失大江。
おもしろいけれど、中途から横道にそれ、人の通らぬところを開鑿し、大江の水があふれ出して別の所に流れを作ってしまったようであった。
半途喜開鑿,派別失大江 この二句は、話が横道にそれたばかりか、横道の話が本流になったことをいう。
病中贈張十八 -1
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
中虛得暴下,避冷臥北窗。
近頃、胃腸を悪くして、腹の中を空虚にしても、頻りに下痢を催すので、冷気をさけて北窓のもとに臥せっている。
不蹋曉鼓朝,安眠聽逢逢。
夜明け前の 登朝の知らせる太鼓の音が聴こえても土を踏んでゆくこともできない。だから、ただ安眠して太鼓の逢逢となる音をきいているだけなのだ。
籍也處閭里,抱能未施邦。
張籍よ、お前は長安の閭里に住んでいて、十分な才能を秘めており、未だこれを一斛の政治に役立て、施すことはできていない。
文章自娛戲,金石日擊撞。
文章をもって我が門下での娯楽としているが、その作品は、金石が日々に擊撞するように絶えず心に鳴り響くほどである。
(病中の張十八に贈る) -1
中虛 暴下を得たり,冷を避けて北窗に臥す。
曉鼓を蹋んで朝さず,安眠して逢逢を聽く。
籍也 閭里に處し,能を抱いて未だ邦に施さず。
文章 自ら娛戲【ごぎ】,金石 日に擊撞【げきとう】。
-2
龍文百斛鼎,筆力可獨扛。
つくる文章といえば、面に龍の模様を彫り、中には百斛ものを盛るような鼎を一人で持ち上げるような筆力なのである。
談舌久不掉,非君亮誰雙。
ところが、張籍は我が門下に来て、文章だけでとても自分の才能を充分発揮できないから、弁舌でもってしようと思ったのだが、そのお相手がいないと久しく弁舌をふるえなかったということで、ここへ来て「君以外にしかるべきものがいない」から来てやった。
扶几導之言,曲節初摐摐。
そんなことで、病気の私は、机に助けられて座ることができ、その弁舌の紆余曲節をはじめから机をたたきながら調子を上げて話すのを聞かされたのである。
半途喜開鑿,派別失大江。
おもしろいけれど、中途から横道にそれ、人の通らぬところを開鑿し、大江の水があふれ出して別の所に流れを作ってしまったようであった。
-2
龍文 百斛の鼎,筆力 獨り扛【あ】ぐ可し。
談舌 久しく掉【ふる】わず,君に非らざれば 亮【まこと】に誰か雙せん。
几を扶け之を導いて言う,曲節 初めて 摐摐【そうそう】たり。
半途 喜んで開鑿【かいさく】し,派別 大江を失う。
-3
吾欲盈其氣,不令見麾幢。
私が口を出すと懼れて頓挫するだろうというので、わざと先方の気を満たそうとして伏兵を置いて、敵を欺くようなこころもちで、指図旗を見せようとしないのである。
牛羊滿田野,解旆束空杠。
そして牛と羊を野に放って田野を満たし、旗を解き去って、棹だけになったものを束ねて片付けて、張籍にものを言わせようと企てたのである。
傾尊與斟酌,四壁堆罌缸。
そこで大盃を傾けて、共に飲んで、部屋の四面の壁に酒の甕をいくつも積んでどんなに飲んでも構わないための用意をしたのである。
玄帷隔雪風,照爐釘明釭。
その時は冬の時期であり、吹雪が激しいので、黒い幃を回りに垂らして、雪の風が入らないようにし、亦、夜になって、炉に十分の火を起こし、その上、明かりをともして、徹夜して喋っても良い様にしたのである。
-吾 其の氣を盈たしめんと欲し,麾幢【きとう】を見せ令めず。
牛羊 田野に滿ち,旆を解いて空杠を束ぬ。
尊を傾けて與に斟酌【しんしゃく】し,四壁 罌缸【おうこう】を堆す。
玄帷 雪風を隔て,爐を照らして明釭を釘つ。
4
夜闌縱捭闔,哆口疏眉厖。
勢侔高陽翁,坐約齊橫降。
連日挾所有,形軀頓胮肛。
將歸乃徐謂,子言得無哤。
回軍與角逐,斫樹收窮龐。
-5
雌聲吐款要,酒壺綴羊腔。
君乃崑崙渠,籍乃嶺頭瀧。
譬如蟻蛭微,詎可陵崆山兇。
幸願終賜之,斬拔櫱與樁。
從此識歸處,東流水淙淙。
『病中贈張十八』 現代語訳と訳註解説
(本文) -3
吾欲盈其氣,不令見麾幢。
牛羊滿田野,解旆束空杠。
傾尊與斟酌,四壁堆罌缸。
玄帷隔雪風,照爐釘明釭。
(下し文) -3
吾 其の氣を盈たしめんと欲し,麾幢【きとう】を見せ令めず。
牛羊 田野に滿ち,旆を解いて空杠を束ぬ。
尊を傾けて與に斟酌【しんしゃく】し,四壁 罌缸【おうこう】を堆す。
玄帷 雪風を隔て,爐を照らして明釭を釘つ。
(現代語訳)
私が口を出すと懼れて頓挫するだろうというので、わざと先方の気を満たそうとして伏兵を置いて、敵を欺くようなこころもちで、指図旗を見せようとしないのである。
そして牛と羊を野に放って田野を満たし、旗を解き去って、棹だけになったものを束ねて片付けて、張籍にものを言わせようと企てたのである。
そこで大盃を傾けて、共に飲んで、部屋の四面の壁に酒の甕をいくつも積んでどんなに飲んでも構わないための用意をしたのである。
その時は冬の時期であり、吹雪が激しいので、黒い幃を回りに垂らして、雪の風が入らないようにし、亦、夜になって、炉に十分の火を起こし、その上、明かりをともして、徹夜して喋っても良い様にしたのである。
(訳注) -3
病中贈張十八
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
病気静養中に張籍が来て、何かと議論をしたが、韓愈は初めからただ聞き方に専念し、可否、反論、結論は全く言わなかったが、張籍の意見を十分いい尽くしたと思えたので、張籍の誤っているところを指摘し、納得させた。この詩はそれについての経過を一首の詩にしたものである。
吾欲盈其氣,不令見麾幢。
私が口を出すと懼れて頓挫するだろうというので、わざと先方の気を満たそうとして伏兵を置いて、敵を欺くようなこころもちで、指図旗を見せようとしないのである。
麾幢 幢麾 [ハタとホコ]ハタサシモノ。幢という,儀仗として用いる矛。
1名詞 古代,軍隊の指揮に用いた指図旗.2((文語文[昔の書き言葉])) 旗を用いて軍隊の向かうところを指図する.軍隊を指揮して前進させる.
牛羊滿田野,解旆束空杠。
そして牛と羊を野に放って田野を満たし、旗を解き去って、棹だけになったものを束ねて片付けて、張籍にものを言わせようと企てたのである。
解旆束空杠 旗を解き去って、棹だけになったものを束ねて片付けること。
傾尊與斟酌,四壁堆罌缸。
そこで大盃を傾けて、共に飲んで、部屋の四面の壁に酒の甕をいくつも積んでどんなに飲んでも構わないための用意をしたのである。
斟酌 酒をくみ分ける意① 相手の事情・心情などをくみとること。② 手加減すること。手ごころ。③ 条件などを考え合わせて,適当に取捨選択すること。④ 遠慮すること。ためらい。
堆罌缸 酒の甕をいくつも積んでどんなに飲んでも構わないための用意する。
玄帷隔雪風,照爐釘明釭。
その時は冬の時期であり、吹雪が激しいので、黒い幃を回りに垂らして、雪の風が入らないようにし、亦、夜になって、炉に十分の火を起こし、その上、明かりをともして、徹夜して喋っても良い様にしたのである。
玄帷 黒い幃を回りに垂らす。
釘明釭 明かりをともす。
病中贈張十八 -1
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
中虛得暴下,避冷臥北窗。
近頃、胃腸を悪くして、腹の中を空虚にしても、頻りに下痢を催すので、冷気をさけて北窓のもとに臥せっている。
不蹋曉鼓朝,安眠聽逢逢。
夜明け前の 登朝の知らせる太鼓の音が聴こえても土を踏んでゆくこともできない。だから、ただ安眠して太鼓の逢逢となる音をきいているだけなのだ。
籍也處閭里,抱能未施邦。
張籍よ、お前は長安の閭里に住んでいて、十分な才能を秘めており、未だこれを一斛の政治に役立て、施すことはできていない。
文章自娛戲,金石日擊撞。
文章をもって我が門下での娯楽としているが、その作品は、金石が日々に擊撞するように絶えず心に鳴り響くほどである。
(病中の張十八に贈る) -1
中虛 暴下を得たり,冷を避けて北窗に臥す。
曉鼓を蹋んで朝さず,安眠して逢逢を聽く。
籍也 閭里に處し,能を抱いて未だ邦に施さず。
文章 自ら娛戲【ごぎ】,金石 日に擊撞【げきとう】。
-2
龍文百斛鼎,筆力可獨扛。
つくる文章といえば、面に龍の模様を彫り、中には百斛ものを盛るような鼎を一人で持ち上げるような筆力なのである。
談舌久不掉,非君亮誰雙。
ところが、張籍は我が門下に来て、文章だけでとても自分の才能を充分発揮できないから、弁舌でもってしようと思ったのだが、そのお相手がいないと久しく弁舌をふるえなかったということで、ここへ来て「君以外にしかるべきものがいない」から来てやった。
扶几導之言,曲節初摐摐。
そんなことで、病気の私は、机に助けられて座ることができ、その弁舌の紆余曲節をはじめから机をたたきながら調子を上げて話すのを聞かされたのである。
半途喜開鑿,派別失大江。
おもしろいけれど、中途から横道にそれ、人の通らぬところを開鑿し、大江の水があふれ出して別の所に流れを作ってしまったようであった。
-2
龍文 百斛の鼎,筆力 獨り扛【あ】ぐ可し。
談舌 久しく掉【ふる】わず,君に非らざれば 亮【まこと】に誰か雙せん。
几を扶け之を導いて言う,曲節 初めて 摐摐【そうそう】たり。
半途 喜んで開鑿【かいさく】し,派別 大江を失う。
-3
吾欲盈其氣,不令見麾幢。
私が口を出すと懼れて頓挫するだろうというので、わざと先方の気を満たそうとして伏兵を置いて、敵を欺くようなこころもちで、指図旗を見せようとしないのである。
牛羊滿田野,解旆束空杠。
そして牛と羊を野に放って田野を満たし、旗を解き去って、棹だけになったものを束ねて片付けて、張籍にものを言わせようと企てたのである。
傾尊與斟酌,四壁堆罌缸。
そこで大盃を傾けて、共に飲んで、部屋の四面の壁に酒の甕をいくつも積んでどんなに飲んでも構わないための用意をしたのである。
玄帷隔雪風,照爐釘明釭。
その時は冬の時期であり、吹雪が激しいので、黒い幃を回りに垂らして、雪の風が入らないようにし、亦、夜になって、炉に十分の火を起こし、その上、明かりをともして、徹夜して喋っても良い様にしたのである。
-吾 其の氣を盈たしめんと欲し,麾幢【きとう】を見せ令めず。
牛羊 田野に滿ち,旆を解いて空杠を束ぬ。
尊を傾けて與に斟酌【しんしゃく】し,四壁 罌缸【おうこう】を堆す。
玄帷 雪風を隔て,爐を照らして明釭を釘つ。
4
夜闌縱捭闔,哆口疏眉厖。
すると張籍は、夜が更けるにしたがってますます弁舌のリズムをアップさせて開合抑揚をほしいままにして、口に任せて、得意絶頂では、眉毛をひき、起ちあがって動いていくかと思うほどである。
勢侔高陽翁,坐約齊橫降。
その勢いは高陽の翁といわれたかの酈食其が斉の田横の所に乗り込んで、居ながらにして、72城を陥落させたようなものである。
連日挾所有,形軀頓胮肛。
その晩から喋りつづけてあきもせず、それでも得意げにしゃべり続け、連日連夜、非常におごり高ぶった心持が形体の上にも表れるほどであった。
將歸乃徐謂,子言得無哤。
まさに張籍は勝ち誇ったようにして帰ろうとするかのようで、おもむろに口を開いて言うには、一体、君の今まで喋ったことは、蕪雑極まったもので、道理にかなったものではないと一蹴しておくのである。
回軍與角逐,斫樹收窮龐。
自分の軍勢をめぐらして一緒に角逐し、丁度、孫臏が樹を白くし、龐涓をおびき寄せて、これを打ち取ったようにこれを説破したのである。
夜闌【たけなわ】にして捭闔【はいこう】を縱にし,哆口【しゃこう】にして疏眉厖【ぼう】たり。
勢は 高陽の翁,坐ながら齊橫を約して 降すに侔【ひと】し。
連日 有る所を挾んで,形軀 頓に胮肛【ほうこう】たり。
將に歸らんとして乃ち徐【おもむろ】に謂う,子の言は哤【ぼう】たる無きを得んや。
軍を回らして與に角逐【かくちく】,樹を斫って窮龐【きゅうほう】を收む。
-5
雌聲吐款要,酒壺綴羊腔。
君乃崑崙渠,籍乃嶺頭瀧。
譬如蟻蛭微,詎可陵崆山兇。
幸願終賜之,斬拔櫱與樁。
從此識歸處,東流水淙淙。
『病中贈張十八』 現代語訳と訳註解説
(本文) -4
夜闌縱捭闔,哆口疏眉厖。
勢侔高陽翁,坐約齊橫降。
連日挾所有,形軀頓胮肛。
將歸乃徐謂,子言得無哤。
回軍與角逐,斫樹收窮龐。
(含異文)
夜闌縱捭【案:音擺。】闔,哆口疏眉厖。勢侔高陽翁,坐約齊橫降【案:音杭。】。
連日挾所有,形軀頓?【案:音滂。】肛。將歸乃徐謂,子言得無哤【案:音厖。】。
回軍與角逐,斫樹收窮龐。
(下し文)- 4
夜闌【たけなわ】にして捭闔【はいこう】を縱にし,哆口【しゃこう】にして疏眉厖【ぼう】たり。
勢は 高陽の翁,坐ながら齊橫を約して 降すに侔【ひと】し。
連日 有る所を挾んで,形軀 頓に胮肛【ほうこう】たり。
將に歸らんとして乃ち徐【おもむろ】に謂う,子の言は哤【ぼう】たる無きを得んや。
軍を回らして與に角逐【かくちく】,樹を斫って窮龐【きゅうほう】を收む。
(現代語訳)
すると張籍は、夜が更けるにしたがってますます弁舌のリズムをアップさせて開合抑揚をほしいままにして、口に任せて、得意絶頂では、眉毛をひき、起ちあがって動いていくかと思うほどである。
その勢いは高陽の翁といわれたかの酈食其が斉の田横の所に乗り込んで、居ながらにして、72城を陥落させたようなものである。
その晩から喋りつづけてあきもせず、それでも得意げにしゃべり続け、連日連夜、非常におごり高ぶった心持が形体の上にも表れるほどであった。
まさに張籍は勝ち誇ったようにして帰ろうとするかのようで、おもむろに口を開いて言うには、一体、君の今まで喋ったことは、蕪雑極まったもので、道理にかなったものではないと一蹴しておくのである。
自分の軍勢をめぐらして一緒に角逐し、丁度、孫臏が樹を白くし、龐涓をおびき寄せて、これを打ち取ったようにこれを説破したのである。
(訳注) ‐ 4
病中贈張十八
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
病気静養中に張籍が来て、何かと議論をしたが、韓愈は初めからただ聞き方に専念し、可否、反論、結論は全く言わなかったが、張籍の意見を十分いい尽くしたと思えたので、張籍の誤っているところを指摘し、納得させた。この詩はそれについての経過を一首の詩にしたものである。
夜闌縱捭闔,哆口疏眉厖。
すると張籍は、夜が更けるにしたがってますます弁舌のリズムをアップさせて開合抑揚をほしいままにして、口に任せて、得意絶頂では、眉毛をひき、起ちあがって動いていくかと思うほどである。
・捭闔 捭闔縱橫.捭闔,開合。開合抑揚をほしいままにする。
・哆口 口に任せて饒舌る。
・疏眉厖 眉毛を立て動かして喋る。
勢侔高陽翁,坐約齊橫降。
その勢いは高陽の翁といわれたかの酈食其が斉の田横の所に乗り込んで、居ながらにして、72城を陥落させたようなものである。
・高陽翁,坐約齊橫降 『史記、田儋傳「田横は秦の末期、兄の田栄、従兄の田儋と共に郷里の狄県で挙兵し、田儋が自立して斉王となった。しかし田儋は秦の章邯に包囲された魏王魏咎を救援に出て敗北して殺された。斉の人間はそれを聞くと元の斉王建の弟である田仮を王に立てたので、田栄はそれを怒った。田栄も章邯に追われたが楚の項梁に助けられ、田栄は田仮を攻撃し、田仮は楚に逃げた。田栄は田儋の子の田市を王に立て、自分はその宰相となり、田横は将となって斉を平定した。漢の将である韓信が趙を落とし、斉を攻めようとしていたので、斉は歴山のそばに兵を集めて阻もうとした。そんな折、漢は説客酈食其を派遣して斉との同盟を持ちかけてきた。田横はそれを受け入れ、漢に対する守備を止めた。しかし自己の功績が無くなることを恐れた韓信は斉へ侵攻し、斉の軍を撃破した。斉王田広と田横は報復として酈食其を煮殺して逃げた。項羽は斉を救うため龍且を派遣したが、韓信に破れ、斉王田広は捕らえられた。田横はそれを聞くと自分が王になったが、漢将灌嬰に破れて梁の彭越の元へ落ち延び、斉は漢によって平定された。このとき、72城を陥落させたという。
連日挾所有,形軀頓胮肛。
その晩から喋りつづけてあきもせず、それでも得意げにしゃべり続け、連日連夜、非常におごり高ぶった心持が形体の上にも表れるほどであった。
・胮肛 おおきなかおをする。非常におごり高ぶった顔をする。
將歸乃徐謂,子言得無哤。
まさに張籍は勝ち誇ったようにして帰ろうとするかのようで、おもむろに口を開いて言うには、一体、君の今まで喋ったことは、蕪雑極まったもので、道理にかなったものではないと一蹴しておくのである。
・得無哤 蕪雑極まったもので、道理にかなったものではない(と一蹴しておくこと)。
回軍與角逐,斫樹收窮龐。
自分の軍勢をめぐらして一緒に角逐し、丁度、孫臏が樹を白くし、龐涓をおびき寄せて、これを打ち取ったようにこれを説破したのである。
・斫樹收窮龐 馬陵の戦いでの逸話。木の枝に板を吊るして「龐涓死于此樹之下(龐涓この樹の下にて死せん)」と書き記し、道の両側の兵を伏した。
孫臏 孫臏は、中国戦国時代の斉の軍人・思想家。兵家の代表的人物の一人。孫武の子孫であるとされ、孫武と同じく孫子と呼ばれる。『孫臏兵法』は孫臏の手によると推定されている。この他、『孫臏拳』も彼が創始したと伝えられている。
龐涓 将軍まで出世した事を祝ってもらおうと孫臏を魏に招いた龐涓は、孫臏に魏へ仕官を世話しようと言って滞在を長引かせ、狩りを名目に孫臏を魏の公室の陵墓がある山へと誘い出し、スパイの罪を着せた。
13年の歳月が流れ、魏が龐涓を将軍として韓を攻めると、再び田忌が将軍、孫臏が軍師となって韓の救援に派遣された。斉軍は前回同様魏の都を攻めようとしたが、龐涓も流石これに備えて本国にも精強な兵を残しており、斉軍を足止めする一方、韓攻略隊も引き返させた。防衛隊と攻略隊で挟撃しようというのである。これを知った斉軍は撤退するが、龐涓は打撃を与えるべく追撃する。撤退戦であれば追撃する側が圧倒的に有利だからである。
しかし、孫臏は撤退する振りをしつつ、龐涓の「魏の兵は命知らずの猛者だが、斉の兵は臆病者だ」という驕りを逆手に取り、斉軍の陣営の竈の数を前の日の半分、次の日は更に半分という風に減らしていき、脱走兵が相次いだかのように偽装していた。これを見た龐涓は、更に勢いづいて足の速い騎兵だけを連れて追撃を図った。一方、孫臏は、その先の隘路である馬陵の地で、仕込みを始める。木の枝に板を吊るして「龐涓死于此樹之下(龐涓この樹の下にて死せん)」と書き記し、道の両側の兵を伏した。
果たして計算通り、夜半になって当地に龐涓が到着し、板を見つけてこれを読もうして火を掲げた。これに伏兵が一斉に矢を放ち、魏軍は慌てて逃げ出した。自らが負けたことを悟った龐涓は「遂成豎子之名(遂に豎子の名を成さしむ)」と言い残して自刎し、魏の太子申は捕虜にされた[2]。司令官を失った魏軍は斉軍に蹴散らされることとなった。
この馬陵の戦いの勝利により、兵家孫臏の名は天下に響いたと伝えられる。
病中贈張十八 -1
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
中虛得暴下,避冷臥北窗。
不蹋曉鼓朝,安眠聽逢逢。
籍也處閭里,抱能未施邦。
文章自娛戲,金石日擊撞。
近頃、胃腸を悪くして、腹の中を空虚にしても、頻りに下痢を催すので、冷気をさけて北窓のもとに臥せっている。
夜明け前の 登朝の知らせる太鼓の音が聴こえても土を踏んでゆくこともできない。だから、ただ安眠して太鼓の逢逢となる音をきいているだけなのだ。
張籍よ、お前は長安の閭里に住んでいて、十分な才能を秘めており、未だこれを一斛の政治に役立て、施すことはできていない。
文章をもって我が門下での娯楽としているが、その作品は、金石が日々に擊撞するように絶えず心に鳴り響くほどである。
(病中の張十八に贈る) -1
中虛 暴下を得たり,冷を避けて北窗に臥す。
曉鼓を蹋んで朝さず,安眠して逢逢を聽く。
籍也 閭里に處し,能を抱いて未だ邦に施さず。
文章 自ら娛戲【ごぎ】,金石 日に擊撞【げきとう】。
-2
龍文百斛鼎,筆力可獨扛。
談舌久不掉,非君亮誰雙。
扶几導之言,曲節初摐摐。
半途喜開鑿,派別失大江。
つくる文章といえば、面に龍の模様を彫り、中には百斛ものを盛るような鼎を一人で持ち上げるような筆力なのである。
ところが、張籍は我が門下に来て、文章だけでとても自分の才能を充分発揮できないから、弁舌でもってしようと思ったのだが、そのお相手がいないと久しく弁舌をふるえなかったということで、ここへ来て「君以外にしかるべきものがいない」から来てやった。
そんなことで、病気の私は、机に助けられて座ることができ、その弁舌の紆余曲節をはじめから机をたたきながら調子を上げて話すのを聞かされたのである。
おもしろいけれど、中途から横道にそれ、人の通らぬところを開鑿し、大江の水があふれ出して別の所に流れを作ってしまったようであった。
-2
龍文 百斛の鼎,筆力 獨り扛【あ】ぐ可し。
談舌 久しく掉【ふる】わず,君に非らざれば 亮【まこと】に誰か雙せん。
几を扶け之を導いて言う,曲節 初めて 摐摐【そうそう】たり。
半途 喜んで開鑿【かいさく】し,派別 大江を失う。
-3
吾欲盈其氣,不令見麾幢。
牛羊滿田野,解旆束空杠。
傾尊與斟酌,四壁堆罌缸。
玄帷隔雪風,照爐釘明釭。
私が口を出すと懼れて頓挫するだろうというので、わざと先方の気を満たそうとして伏兵を置いて、敵を欺くようなこころもちで、指図旗を見せようとしないのである。
そして牛と羊を野に放って田野を満たし、旗を解き去って、棹だけになったものを束ねて片付けて、張籍にものを言わせようと企てたのである。
そこで大盃を傾けて、共に飲んで、部屋の四面の壁に酒の甕をいくつも積んでどんなに飲んでも構わないための用意をしたのである。
その時は冬の時期であり、吹雪が激しいので、黒い幃を回りに垂らして、雪の風が入らないようにし、亦、夜になって、炉に十分の火を起こし、その上、明かりをともして、徹夜して喋っても良い様にしたのである。
-吾 其の氣を盈たしめんと欲し,麾幢【きとう】を見せ令めず。
牛羊 田野に滿ち,旆を解いて空杠を束ぬ。
尊を傾けて與に斟酌【しんしゃく】し,四壁 罌缸【おうこう】を堆す。
玄帷 雪風を隔て,爐を照らして明釭を釘つ。
4
夜闌縱捭闔,哆口疏眉厖。
勢侔高陽翁,坐約齊橫降。
連日挾所有,形軀頓胮肛。
將歸乃徐謂,子言得無哤。
回軍與角逐,斫樹收窮龐。
すると張籍は、夜が更けるにしたがってますます弁舌のリズムをアップさせて開合抑揚をほしいままにして、口に任せて、得意絶頂では、眉毛をひき、起ちあがって動いていくかと思うほどである。
その勢いは高陽の翁といわれたかの酈食其が斉の田横の所に乗り込んで、居ながらにして、72城を陥落させたようなものである。
その晩から喋りつづけてあきもせず、それでも得意げにしゃべり続け、連日連夜、非常におごり高ぶった心持が形体の上にも表れるほどであった。
まさに張籍は勝ち誇ったようにして帰ろうとするかのようで、おもむろに口を開いて言うには、一体、君の今まで喋ったことは、蕪雑極まったもので、道理にかなったものではないと一蹴しておくのである。
自分の軍勢をめぐらして一緒に角逐し、丁度、孫臏が樹を白くし、龐涓をおびき寄せて、これを打ち取ったようにこれを説破したのである。
夜闌【たけなわ】にして捭闔【はいこう】を縱にし,哆口【しゃこう】にして疏眉厖【ぼう】たり。
勢は 高陽の翁,坐ながら齊橫を約して 降すに侔【ひと】し。
連日 有る所を挾んで,形軀 頓に胮肛【ほうこう】たり。
將に歸らんとして乃ち徐【おもむろ】に謂う,子の言は哤【ぼう】たる無きを得んや。
軍を回らして與に角逐【かくちく】,樹を斫って窮龐【きゅうほう】を收む。
-5
雌聲吐款要,酒壺綴羊腔。
すると張籍は、おなごのような声をして和睦のようなことばをはいてきて、酒壺一杯の酒を持ち、羊の腸を綴って降参したのだ。
君乃崑崙渠,籍乃嶺頭瀧。
君の理論は崑崙山より流れ出る水路の水のようでまるで黄河の流れのようである、自分、張籍は普通の山から落ちて流れる早瀬のようなものである。
譬如蟻蛭微,詎可陵崆岇。
また、自分は、蟻の塔の様な小さなものであるのに、君、韓愈は、崆岇とした山岳を凌ぐほどであるからとても太刀打ちできないのである。
幸願終賜之,斬拔櫱與樁。
しかし、幸いにしてお願いしたいのは、これから、始終面倒を見て教えを乞いたいのであり、つまらぬ考えの根っこが残っていれば容赦なくぶった斬ってもらってその気が本当に成長するようにしてもらいたい。
從此識歸處,東流水淙淙。
こうして、張籍の本音のところをサラけてくれて自覚したようで、これなら、大河の水が淙淙と東流して行く様に、間違いなく成長して行ってくれることと思うのである。
雌聲にして款要を吐き,酒壺、羊腔を綴る。
君 乃ち崑崙の渠,籍 乃ち嶺頭の瀧。
譬えば蟻蛭の微なるが如し,詎んぞ崆岇【こうごう】を陵ぐ可けんや。
幸いに願わくば 終に之を賜い,櫱【けつ】と樁【とう】とを斬拔せよ。
此れより歸處を識り,東流 水淙淙たり。
『病中贈張十八』 現代語訳と訳註解説
(本文) -5
雌聲吐款要,酒壺綴羊腔。
君乃崑崙渠,籍乃嶺頭瀧。
譬如蟻蛭微,詎可陵崆岇。
幸願終賜之,斬拔櫱與樁。
從此識歸處,東流水淙淙。
(下し文)
雌聲にして款要を吐き,酒壺、羊腔を綴る。
君 乃ち崑崙の渠,籍 乃ち嶺頭の瀧。
譬えば蟻蛭の微なるが如し,詎んぞ崆岇【こうごう】を陵ぐ可けんや。
幸いに願わくば 終に之を賜い,櫱【けつ】と樁【とう】とを斬拔せよ。
此れより歸處を識り,東流 水淙淙たり。
(現代語訳)
すると張籍は、おなごのような声をして和睦のようなことばをはいてきて、酒壺一杯の酒を持ち、羊の腸を綴って降参したのだ。
君の理論は崑崙山より流れ出る水路の水のようでまるで黄河の流れのようである、自分、張籍は普通の山から落ちて流れる早瀬のようなものである。
また、自分は、蟻の塔の様な小さなものであるのに、君、韓愈は、崆岇とした山岳を凌ぐほどであるからとても太刀打ちできないのである。
しかし、幸いにしてお願いしたいのは、これから、始終面倒を見て教えを乞いたいのであり、つまらぬ考えの根っこが残っていれば容赦なくぶった斬ってもらってその気が本当に成長するようにしてもらいたい。
こうして、張籍の本音のところをサラけてくれて自覚したようで、これなら、大河の水が淙淙と東流して行く様に、間違いなく成長して行ってくれることと思うのである。
(訳注) -5
病中贈張十八
(病気静養中の張籍との論議をまとめて詩にして贈る)
病気静養中に張籍が来て、何かと議論をしたが、韓愈は初めからただ聞き方に専念し、可否、反論、結論は全く言わなかったが、張籍の意見を十分いい尽くしたと思えたので、張籍の誤っているところを指摘し、納得させた。この詩はそれについての経過を一首の詩にしたものである。
雌聲吐款要,酒壺綴羊腔。
すると張籍は、おなごのような声をして和睦のようなことばをはいてきて、酒壺一杯の酒を持ち、羊の腸を綴って降参したのだ。
雌聲 雌猫の声のようにいう。猫なで声。妓女が媚びるような言い方をする。
吐款要 和睦を申し込む。
綴羊腔 羊の腸を綴って降参した
君乃崑崙渠,籍乃嶺頭瀧。
君の理論は崑崙山より流れ出る水路の水のようでまるで黄河の流れのようである、自分、張籍は普通の山から落ちて流れる早瀬のようなものである。
崑崙渠 崑崙山より流れ出る水路の水のようでまるで黄河の流れのようである。
嶺頭瀧 普通の山から落ちて流れる早瀬のようなもの。
譬如蟻蛭微,詎可陵崆岇。
また、自分は、蟻の塔の様な小さなものであるのに、君、韓愈は、崆岇とした山岳を凌ぐほどであるからとても太刀打ちできないのである。
陵崆岇 山石高峻な山を凌ぐほど大きい。
幸願終賜之,斬拔櫱與樁。
しかし、幸いにしてお願いしたいのは、これから、始終面倒を見て教えを乞いたいのであり、つまらぬ考えの根っこが残っていれば容赦なくぶった斬ってもらってその気が本当に成長するようにしてもらいたい。
櫱與樁 櫱:ひこばえ。木の切り株から新しく出た芽。樁:切り株。木の根っこ。
從此識歸處,東流水淙淙。
こうして、張籍の本音のところをサラけてくれて自覚したようで、これなら、大河の水が淙淙と東流して行く様に、間違いなく成長して行ってくれることと思うのである。
586 韓昌黎集 巻五 《病中贈張十八》韓愈(韓退之) 798年貞元14年 31歳 | kanbuniinkai 紀 頌之の詩詞 fc2ブログ 5256 |
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