陸游 釵頭鳳
- 2011/12/18
- 21:39
陸游 釵頭鳳
麗わしの人、唐琬。(2)
われわれは、麗しの人、唐琬(1)で陸游たちの離婚は「政略結婚を推し進められたもの」とういう仮説を立てた。それに基づいて陸游の詩7編を見ていくことにしたのである。(1)ではここに立てた仮説の方が分かりやすいという結果になった。
詩題の結び、「凄然として感有り」は、①若き日を回想して甘い感傷にふけっているのではなく、②無惨な破局に終わったことを思い出す胸の痛みを表わしているのでもなく、③特に其一には、性と情交、閨に関した語句でつづられている、無理やり引きはがされたとしても仲が良すぎて引き離すのは理屈に合わない。これでは、本人陸游は意外とさばさばしている感がする。したがって、これまでの「母の唐氏はどういうわけか自分の姪でもあるこの嫁が気に入らなかった。一説によれば、あまり仲がよすぎて、科挙受験を目ざしている陸游が勉学をおろそかにしたため、などともいうが、さだかではない。とにかく諸書の記載の一致するところ、母夫人の気に入らず離縁されてしまった。陸游は、はじめのころ別宅に隠れてしのび逢いをしていたが、それも見つかってしまい、とうとう断絶してしまった。やがて陸游は王氏と再婚し、唐琬は宋の皇室と縁つづきの趙士程なる人物にあらためてとついだが、二人はたがいに忘れることができず、思いを胸のうちにひそめていた。そして、十年ほどを経たある日、二人は偶然再会することになる。」(中国詩人⑫村上哲見著P48)とされているが、我々はこれでは別れた原因に疑問が残り、十分な説明にはならないとした。この原因を、母親を巻き込んだ関係者の政略と仮説した。
紹興の東南隅、禹跡寺の隣に、沈氏の庭園があった。唐宋のころ、仏寺・通観(道教の教会)や富豪の庭園は、花見のシーズンになると士族らに開放されるのが習わしであった。ある春の日、陸游はこの庭園に花見に出かけ、思いがけず別れた妻と出逢ったのだ。唐氏の夫は、陸游に酒肴を贈ったのだ。
唐氏らが去ったあと、陸游は庭園の壁に詞をしたためた。
釵頭鳳
紅酥手,黄縢酒,滿城春色宮牆柳。
紅色に染まった柔らかい部分に手をやる、黄色のわきでる酒、城郭一面が春景色で、宮殿の壁沿いの柳にも春が訪れた。
東風惡,歡情薄。
春風は、その時を思い浮かばせるからわるいし、歓びの思いが薄かった。
一懷愁緒,幾年離索。
思うことは一つ断ち切れない思いのさびしさ、幾年も、もとめあうことがなくなってる。
錯,錯,錯。
まじりあいたい。かわるがわるしたい。間違がったのか。
春如舊,人空痩,涙痕紅浥鮫綃透。
春の訪れは旧来のままである。人は空しく痩せてしまった。ひとのこころは、 空しくやせ衰えてしまった。
桃花落,閑池閣,山盟雖在,錦書難託,
桃の花が散る。静かな池の畔の建物。男女の深い契りあるとはいえ、思いをしたためた手紙は、もはや手渡すわけにはいかない。
莫,莫,莫。
あってはならない、やめよう、終わりにした
紅色に染まった柔らかい部分に手をやる、黄色のわきでる酒、城郭一面が春景色で、宮殿の壁沿いの柳にも春が訪れた。
春風は、その時を思い浮かばせるからわるいし、歓びの思いが薄かった。
思うことは一つ断ち切れない思いのさびしさ、幾年も、もとめあうことがなくなってる。
まじりあいたい。かわるがわるしたい。間違がったのか。
春の訪れは旧来のままである。人は空しく痩せてしまった。ひとのこころは、 空しくやせ衰えてしまった。
桃の花が散る。静かな池の畔の建物。男女の深い契りあるとはいえ、思いをしたためた手紙は、もはや手渡すわけにはいかない。
あってはならない、やめよう、終わりにした
紅く 酥(やはら)かき手,
黄縢の酒,
滿城の春色 宮牆の柳。
東風 惡しく,歡情 薄し。
一懷の愁緒,幾年の離索。
錯,錯,錯。
春 舊の如く,
人 空しく 痩す,
涙痕 紅(あか)く 鮫綃 して 透る。
桃花 落ち,
閑かなる池閣,
山盟 在りと雖も,
錦書 托し難し,
莫,莫,莫!
紅酥手,黄縢酒,滿城春色宮牆柳。
紅色に染まった柔らかい部分に手をやる、黄色のわきでる酒、城郭一面が春景色で、宮殿の壁沿いの柳にも春が訪れた。
紅酥手 ピンク色に染まった柔らかい手。 ・酥 ふっくらとして柔らかい。名詞;バター、チーズ等の乳脂肪を固めたもの。女性の局部。黄縢酒 黄色の酒。 ・縢 わく。わきでる。 ・滿城春色 城内一面が春景色。 ・宮牆柳 宮殿の壁沿いの柳。宮、牆、柳。この語は性交渉を暗示する語。 ・牆 壁。
東風惡,歡情薄。
春風は、その時を思い浮かばせるからわるいし、歓びの思いが薄かった。
東風惡 春風がわるい。 ・東風 春風。思いを起させる風。 ・惡 わるい。春風は、その時を思い浮かばせるからわるい。だれだれを憎むとかいうのではない。
歡情薄 歓びの思いが薄かった。二人が夫婦として楽しく過ごした期間は短かった。
一懷愁緒,幾年離索。
思うことは一つ断ち切れない思いのさびしさ、幾年も、もとめあうことがなくなってる。
・一懷 思うことは一つ。 ・愁緒 さびしい(離別の)心情。緒 情緒。断ち切れない思い。幾年離索 どれだけ逢わずにいたことだろう。 ・離索 離別。別居。・索 なわ。もとめる。よめをもらう。さみしい。
錯,錯,錯。
まじりあいたい。かわるがわるしたい。間違がったのか。
・錯 まじりあう。かわるがわる。間違がった。
春如舊,人空痩,涙痕紅浥鮫綃透。
春の訪れは旧来のままである。人は空しく痩せてしまった。ひとのこころは、 空しくやせ衰えてしまった。
涙が頬紅を流して、薄絹までもに紅く滲み出てきた。
・涙痕 涙のあとがで流れて紅く。 ・紅浥 ひたす。うるおす。滲み(透り)。 ・鮫綃 肌着。 ・透 にじみ出る。
桃花落,閑池閣,山盟雖在,錦書難託,
桃の花が散る。静かな池の畔の建物。男女の深い契りあるとはいえ、思いをしたためた手紙は、もはや手渡すわけにはいかない。
・山盟 男女の深い契り ・雖在 …が存在しているとはいても。・錦書 思いをしたためた文、手紙。 ・難托 託し難い。委託しにくい。手渡しにくい。
莫,莫,莫
あってはならない、やめよう、終わりにした
・莫 ・・・・・・なかれ。
「錯,錯,錯。」とか「莫,莫,莫」。の受け止め方、顔借により、この詩はかなり異なった解釈になるだろう。これまでの解釈は大前提に、①陸游が無理やり引き離された、②親がすべて決めてきた、③陸游には一途な思いがあった、④礼節の美徳、⑤貞操、⑤陸游は儒教の教えを守っていた、⑥母親の姪の唐琬、母親は自分の兄弟との子であるから自分の兄弟親戚関係が無茶な離婚をさせてもおかしくならないなどの前提条件があるから決めつけた解釈となっている。
あるにはあったろうがそれほど強くはなかったのではないか。この詩の通りの気持ちであれば、別の手段はなかったのか疑問は残る。
思い焦がれた気持ちで他の女性と一緒になり、他の男性と一緒になったのか。仲が良いだけで離婚させて何のメリットがあったのか。怒るのならその矛先が、なぜ、別れさせた母親に向かわないのか、なぜ10年も音信不通なのか、当事者でない場合なら、いくらでも恋しい思い、せつない思いを表現している。中国の詩で思いを表現する場合、他人のこころを借りて表現するはずである。
この詩は「艶歌」であるから、艶を借りて、表現しているといえるが、艶=「遊び」であると考えれば、理解できる。後世、悲恋に仕立て上げられたものと考える。
しかしはっきりしたことがある。それは、唐琬という女性は「麗しい人」であったということである。この庭園に来た人々に女性の「麗しさ」感じさせることが第一であったものと考える。
( 3)68歳の作につづく)
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