禹跡寺の南に沈氏の小園有り。四十年前、嘗て小闋を壁間に題す。園己に主を易え、小闋を石に刻す。之を読みて悵然たり
- 2011/12/18
- 21:55
陸游 麗わしの人、唐琬。(3)
「釵頭鳳」は通常の詩とは異なり、「詞」といって、歌曲の辞である。「欽頭鳳」は詩題ではなく曲名であり、この曲にのせる歌辞であることを示したものであった。唐琬とのことを整理してみた。
結婚期間 21-22歳
1.釵頭鳳 33歳 偶然の再開
2.3.絶句二首 63歳 菊採り枕嚢を縫い、凄然とした詩
4.七言律詩 68歳 妄想はのぞき消しつくそう(今回)
唐琬が「釵頭鳳」の詞を読み、傷心のあまり世を去った、とされているが、を何度読み返しても、唐琬が貞操観念が強かったにしても、何度でも婚姻ができる時代であり、胸の思いで死ぬことにはならない。新しい夫が以前の夫、陸游に嫉妬して唐琬を苛め抜いて殺したのなら別であるが、そうではない。これも後世、悲恋に仕立て上げられたものであろう。唐琬とのはかない縁は、陸游の胸に深く刻みこまれ、一生のあいだおりにふれて思い出しては感傷にふけただけなのだ。
四十年を経たある日、陸游はこの園を訪れ、自分の書きしるした詞が石に刻まれているのを見て詩を詠ずる。
(「禹跡寺の南に沈氏の小園有り。四十年前、嘗て小闋を壁間に題す。園己に主を易え、小闋を石に刻す。之を読みて悵然たり」と題した)
本文
楓葉初丹槲葉黄、河陽愁鬢怯新霜。
かつらの葉(もみじ)が赤くなりはじめ、柏の葉は黄色に色づく、黄河の北地方は愁いのため白くなった鬢髪と初霜に怯えている。
林亭感舊空回首、泉路凭誰説断腸。
林の中に屋敷がある、思い返してみると昔と変わらないと感じた、あの世において燃え上がるせつない思いをだれによって喜びを得られるのか。
壊壁酔題塵漠漠、断雲幽夢事茫茫。
古ぼけた壁に昔書きつけていた、酔った席で作った詩題は埃によってぼやけていた、千切れ雲のようにぼんやりした夢は事とともに薄らいでいた。
年来妄念消除盡、回向禪龕一炷香。
数年来の妄想はのぞき消しつくす、思う向きをかえて禅宗の塔に香を焚くことにした。
かつらの葉(もみじ)が赤くなりはじめ、柏の葉は黄色に色づく、黄河の北地方は愁いのため白くなった鬢髪と初霜に怯えている。
林の中に屋敷がある、思い返してみると昔と変わらないと感じた、あの世において燃え上がるせつない思いをだれによって喜びを得られるのか。
古ぼけた壁に昔書きつけていた、酔った席で作った詩題は埃によってぼやけていた、千切れ雲のようにぼんやりした夢は事とともに薄らいでいた。
数年来の妄想はのぞき消しつくす、思う向きをかえて禅宗の塔に香を焚くことにした。
(下し文)
楓葉初めて丹く槲葉(かしわの菓)黄なり、河陽の愁鬢 新霜に怯ゆ。
林亭 旧に感じて空しく回首す、泉路 誰に焦りてか断腸を説かん
壊壁の酔題 塵漠漠たり、断雲 幽夢 事茫茫たり
年来 妄念 消険し尽くせり、禪龕に回向す 一炷の香
楓葉初丹槲葉黄、河陽愁鬢怯新霜。
かつらの葉(もみじ)が赤くなりはじめ、柏の葉は黄色に色づく、黄河の北地方は愁いのため白くなった鬢髪と初霜に怯えている。
○楓葉 かつらの葉。カエデ科の落葉樹の総称。戴叔倫「盧橘花開楓葉衰」○槲葉 かしわの菓、○河陽 黄河の北側地方。○愁鬢 愁いのため白くなった鬢髪。 ○新霜 初霜。
林亭感舊空回首、泉路凭誰説断腸。
林の中に屋敷がある、思い返してみると昔と変わらないと感じた、あの世において燃え上がるせつない思いをだれによって喜びを得られるのか。
○林亭 沈氏の庭園 ○回首 振り返って眺めやる。同時に回想にふける。李煜「采桑子」にある。 ○泉路 あの世。死後の世界。黄泉。○説 悦とおなじ。 ○断腸 悲痛の極み。李白「春思」と「清平調詞其二」につかう。どちらも情交できない満たされないときの悲痛な思いを詠う。
壊壁酔題塵漠漠、断雲幽夢事茫茫。
古ぼけた壁に昔書きつけていた、酔った席で作った詩題は埃によってぼやけていた、千切れ雲のようにぼんやりした夢は事とともに薄らいでいた。
○壊壁 古ぼけた壁。 ○酔題 酔っていた席で作った詩題。 ○塵 俗事。欲望。 ○漠漠 広大なはてのないさま。ぼんやりとしていて、とりとめもないさま。 ○断雲 ちぎれた雲。離れ離れの男女。 ○幽夢 ぼんやりした夢。 ○茫茫 広々したさま。疲れたさま。白居易「琵琶行」、韓愈「祭十二郎文」に使う。
年来妄念消除盡、回向禪龕一炷香。
数年来の妄想はのぞき消しつくす、思う向きをかえて禅宗の塔に香を焚くことにした。
○年来 としごろ。数年来。 ○妄念 みだらなおもい。妄想。 ○消除 のぞきけしさる。○回向 むきをかえる。 ○禪龕 禅宗の塔。灯篭 ○炷香 しゅこう 香を焚く。
ふれて思い出しては感傷にふけることになる。四十年を経たある日、陸游はこの園を訪れ、自分の書きしるした詞が石に刻まれているのを見て詩を詠ずる。
(75歳の時のにつづく)
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