釵頭鳳 唐琬 陸游 麗わしの人、唐琬。(9)
- 2011/12/21
- 21:17
陸游 麗わしの人、唐琬。(9)
離婚して10年二人は偶然に沈園で、みかけたのだ。その時は唐琬の夫とあいさつもした。しかし、後日、人づてに、沈園の壁に書き付けられた詩は唐琬にとって驚きであったのではなかろうか。いや迷惑ではなかったのだろうか。唱和するように詠っている。一般に言われるように、ロマンが続いていたとは思えない。
別れて互いに他の人と一緒になっていて、内容は、「私への思いは、迷惑だ、いい加減にしてよ」と受け取れる詩になっている。唐琬のしに、むしろ礼節を知ることができる。やはり、唐琬は、麗しの女性だったのだ。
釵頭鳳 唐琬
世情薄、 人情悪。
三十年になれば思いはうすくなるもの、人の情けを思うことはよくない
雨送黄昏花易落。
雨と黄昏はともに花が散りやすくし送ってくれている。
暁風干、 泪痕残、
風は乾かすことを悟らせ、それでも涙は後を残す。
欲箋心事 独語斜欄。
手紙(詩)を書こうとする、心に思うことを実行する、自分勝手な言葉、正しくない遮り。
難!難!難!
はばかれ、どうして、とがめたい
人成各、 今非昨、
人それぞれ成長するもの、今日は昨日ではない、
病魂常似鞦韆索。
病のような思いというものは何時の世もブランコの縄のようなもの。
角聲寒 夜闌珊。
角笛の音色というものは寒々と響くもの、夜は珊瑚をさかりがすぎてしまった。
怕人詢問 咽泪粧歡。
人は怖いもの、問われ尋ねられること、啼いて涙を流すこと、装った悦楽の言葉。
瞞!瞞!瞞!
あざむく。はじる。はずかしい。
三十年になれば思いはうすくなるもの、人の情けを思うことはよくない
雨と黄昏はともに花が散りやすくし送ってくれている。
風は乾かすことを悟らせ、それでも涙は後を残す。
手紙(詩)を書こうとする、心に思うことを実行する、自分勝手な言葉、正しくない遮り。
はばかれ、どうして、とがめたい
人それぞれ成長するもの、今日は昨日ではない、病のような思いというものは何時の世もブランコの縄のようなもの。
角笛の音色というものは寒々と響くもの、夜は珊瑚をさかりがすぎてしまった。
人は怖いもの、問われ尋ねられること、啼いて涙を流すこと、装った悦楽の言葉。
あざむく。はじる。はずかしい。
釵頭鳳
世 情は薄なり 人 情は悪なり。
雨送り 黄昏、花易落。
暁風は乾かし、 泪痕は残る
箋 心事を欲せん 独語 欄に斜す
難(かた)し 難し 難し
人各々に成り 今は昨に非ず。
病魂 常に千秋(ブランコ)の索くに似たり。
角声 寒く 夜にして珊を爛し、
人の尋問を怕れ 咽泪せしも歓を装う
瞞(あざむ)かん 瞞かん 瞞かん
釵頭鳳
唐琬南宋の頃から沈園は江南の有名な私家庭園で、今も残る園内のヒョウタン形の池、石板橋、池辺の築山、井戸はみな南宋時代のもの。
唐琬は一緒に来ていた夫の許しをえた上で酒肴を陸游のもとにとどけさせる。
その後、唐琬たちが帰ったあと、陸游が庭園の壁に書き付けたのが、「釵頭鳳」(さいとうほう)という詞に対し、返信の如く書き綴ったのが次の詞、同じく「釵頭鳳」である。
陸游は 20歳で結婚、
22歳で離婚、唐琬と別れたのち23歳で再婚、
24歳で第一子、
26歳第二子、
27歳で第三子と、三人の子を持っている。
仲が良すぎて科挙の試験の妨げになるため別れさせたというけれど、子作りだけが上手くいっている。
陸游は29歳の時、鎖庁試に主席及第した。本来ならば、この及第により、これを踏み台として、洋々の未来が期待できるはずであった。しかし、陸游にとってこの主席が災いし、将来をふさがれるのである。
当時、南宋の実権は秦檜であった。北の強国、金に対して、強硬策化、和平策化で抗戦派の中心、詩人でもある岳飛を殺してまで和平を成立させた人物が秦檜であったのだ。陸游は抗戦派であった。
陸游が主席及第した試験に秦檜の孫が受験していたのだ。次席であった。
翌年30歳進士落第。
陸游、地方官に任官するのがやっと34歳が初めてのことなのだ。ということからして、31歳のころは、いわばどん底、悶々とした状況にあった。そこで、沈園での出来事、唐琬は、再婚し、安らいだ生活をしていた。別れた夫に対し、許しを得て酒を送っている賢女である。陸游がいかにどん底とはいえ、唐琬にとって、迷惑な詩であったに違いない。二十歳前後の少年ならいざ知らず、また、離婚仕立てならまだしも、三十といえば自分の考えを確立していなければいけない年齢である。陸游の「釵頭鳳」はいただけない。さすが、唐琬の冷静で、陸游をたしなめるような詩は理解できる。唐婉の声が聞える詞です。
(しかし、陸游というのは一言で言って、憎めない人物である。立派な詩人なのにどこか抜けていて、頼りなさそうで、優しそうな雰囲気を感じる。)
世情薄、人情惡、 雨送黄昏花易落。
三十年になれば思いはうすくなるもの、人の情けを思うことはよくない
○世 三十。30歳。○情薄 情は薄くなる ○惡 人の情の移り変りをわるくする。だれだれが悪いといっているのではない。
雨送黄昏花易落。
雨と黄昏はともに花が散りやすくし送ってくれている。
曉風乾、涙痕殘。
風は乾かすことを悟らせ、それでも涙は後を残す。
三語、三語の啖呵を切っている。
欲箋心事、獨語斜闌。
手紙(詩)を書こうとする、 心に思うことを実行する、自分勝手な言葉、正しくない遮り。
二語二語、二語二語、というのは、啖呵を切っているので句ではないのである。ここでは、欲箋 心事、獨語 斜闌と文章ではない。・欲箋 手紙(詩)を書こうとする、 ・心事 心に思うことを実行する、・獨語 ひとりごと、自分勝手な言葉、 ・斜闌 正しくない遮り、斜:正しくない。闌:さえぎる、せき止める(唐琬がせっかく落ち着いてきて安定した生活を取り戻したことを遮ったり邪魔をすることはよくない)
難!難!難!
はばかれ、どうして、とがめたい。
(前の啖呵「欲箋 心事、獨語 斜闌」を受けてのことばである)
女子は最初嫁いだ家のために別の家に嫁ぎ最初の家の弾に尽力するということも考えられたが、この場合どうも違いようである。やはり、お母さんが陸游の出世のために唐琬をいいところへ嫁がせたのであろうがうまくいかなかったということか。
人成各、今非昨、 病魂常似鞦韆索。
人それぞれ成長するもの、今日は昨日ではない、病のような思いというものは何時の世もブランコの縄のようなもの。
ここも三語、三語の啖呵。○鞦韆(しゅうせん):秋千、ブランコ。○索 ブランコの綱。縄。
角聲寒、夜闌珊。
角笛の音色というものは寒々と響くもの、夜は珊瑚をさかりがすぎてしまった。
ここも三語、三語の啖呵。○角聲寒 角笛の音色というものは寒々と響くもの。ときのうつろいをあらわす。 ○闌 さかりがすぎる。さえぎる。おとろえる。 珊 珊瑚、珊瑚の弾。珊瑚は東海の海底で育つもの。時をやり過ごせば枯れてとることはできない。
「神農本草経」に「珊瑚は海底の盤石の上に生ず一歳にして黄、三歳にして赤し。海人先ず鉄網を作りて水底に沈むれば中を貫いて生ず。網を絞りて之を出す。時を失して取らざれは則ち腐る。」とある。な玉輪 鉄網の二句には奥に隠された意味があると思われる。例えば西晋の傅玄(217-278)の雑詩の句「明月常には盈つるあたわず。」という月が女性の容姿の喩えであるように、恐らく「顧免初生魄」は、少くとも、愁いを知りそめた乙女の顔、そしてその瞳への聯想をいざなうように作られている。また、熟せば赤くなる珊瑚、だがまだ枝を生じないから網でひきあげられてはいない。セックスについて未成熟であるというこの一句にはエロティックな意味がある。
その頃は燃えて赤くなっていたがもうそれも衰えてしまった
怕人尋問、咽涙裝歡。
人は怖いもの、問われ尋ねられること、啼いて涙を流すこと、装った悦楽の言葉。
ここも二語二語、二語二語の啖呵。・怕人:人は怖いもの。・尋問:問われ尋ねられること。・咽涙:啼いて涙を流すこと。・裝歡:装った悦楽の言葉
○裝 よそおう。おさめる。ふりをする。 ○歡 喜び楽しむ。愛し合う男女が互いに掛け合う喜びの表現。
瞞!瞞!瞞!
あざむく。はじる。はずかしい。
上の啖呵、怕人尋問、咽涙裝歡を受けての言葉である。
麗しき人唐琬。について、手元にはまだまだ掘り下げて見てはいるがこれで終了にしたい。
明日から、また李商隠を中心に書いていくことにする予定。
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