古風 其六 李白



古風 其六
代馬不思越。 越禽不戀燕。
北国の代の馬は、南国の越へいきたいとは思わない。また越の国の禽は、北国の燕をこいしくはおもわない。
情性有所習。 土風固其然。
感情や性質というものは、習慣によってつちかわれるところがあり、それは、土地の環境がもともとそうさせるのだ。
昔別雁門關。 今戍龍庭前。
ところが、むかし雁門の関所で、故国をはなれ、いまは竜庭の前のまもりにつかされている。
驚沙亂海日。 飛雪迷胡天。
まいあがる砂ぽこりは海の日の光を散乱させる。ふぶきが、胡の空にみだれとぶ。
蟣虱生虎鶡。 心魂逐旌旃。
しらみが兵士の服や帽子にわく、兵士の心や魂は、ひらひらする軍旗やさしものをおっかけて、たえず揺動く。
苦戰功不賞。 忠誠難可宣。
たとえ苦しい戦をしてみたところで、論功がもらえるわけでなし、忠義のまごころをいだいていても、発揮することはとてもむつかしい。
誰憐李飛將。 白首沒三邊。

飛将軍といわれた李広は、白髪頭になるまで三つの国境をかけめぐり、ついにそこで駄目になったけれども、誰がかれを哀れにおもっているであろうか。


北国の代の馬は、南国の越へいきたいとは思わない。また越の国の禽は、北国の燕をこいしくはおもわない。
感情や性質というものは、習慣によってつちかわれるところがあり、それは、土地の環境がもともとそうさせるのだ。
ところが、むかし雁門の関所で、故国をはなれ、いまは竜庭の前のまもりにつかされている。
まいあがる砂ぽこりは海の日の光を散乱させる。ふぶきが、胡の空にみだれとぶ。
しらみが兵士の服や帽子にわく、兵士の心や魂は、ひらひらする軍旗やさしものをおっかけて、たえず揺動く。
たとえ苦しい戦をしてみたところで、論功がもらえるわけでなし、忠義のまごころをいだいていても、発揮することはとてもむつかしい。
飛将軍といわれた李広は、白髪頭になるまで三つの国境をかけめぐり、ついにそこで駄目になったけれども、誰がかれを哀れにおもっているであろうか。



代馬は越を思はず、越禽は燕を恋はず。 
情性習ふ所あり、土風もとよりそれ然らむ。
昔は鴈門の関に別れ、今は龍庭の前に戍(まも)る。 
驚沙(ケイサ)海日を乱し、飛雪胡天に迷ふ、
蟣虱(キシツ)  虎鶡 (コカツ)に生じ、心魂 旌旃(セイセン)を逐 (お)ふ。
苦戦すれども功 賞せられず、忠誠宣(よろこ)ぶべきこと難し。
誰か憐れむ李飛将、白首にして三辺に没するを。 


代馬不思越、越禽不戀燕。
北国の代の馬は、南国の越へいきたいとは思わない。また越の国の禽は、北国の燕をこいしくはおもわない。
 山西省北部。○ 新江省方面。○ 走る獣の総称。鳥獣の総称。 ○ 河北省方面。


情性有所習、土風固其然。
感情や性質というものは、習慣によってつちかわれるところがあり、それは、土地の環境がもともとそうさせるのだ。
情性 感情や性。○士風 土地の環境。


昔別雁門關。 今戍龍庭前。
ところが、むかし雁門の関所で、故国をはなれ、いまは竜庭の前のまもりにつかされている。
雁門関 山両省代県のそばにある関所。万里の長城に近く、北の国境である。〇龍庭 句奴の王の単子が天をまつるところ。そこは砂漠地帯である。


驚沙亂海日。 飛雪迷胡天。

まいあがる砂ぽこりは海の日の光を散乱させる。ふぶきが、胡の空にみだれとぶ。
驚沙 騒ぎ立つ砂塵。○海日 海の太陽。この場合、海は、砂漠の中にある大きな湖のこと。


蟣虱生虎鶡。 心魂逐旌旃。
しらみが兵士の服や帽子にわく、兵士の心や魂は、ひらひらする軍旗やさしものをおっかけて、たえず揺動く。
蟣虱 しらみ。○虎鶡 虎とやまどり。鶴は、きじの一種で、喧嘩をこのみ柏手を殺すまで闘いをやめない猛烈な鳥である。後漢の時、近衛兵は、おそろしい虎の絵を軍服にえがき、やまどりの尾を冠にかざった。そこで、虎鶡といえば、兵隊の装束をさす。○旌旃 軍旗とさしもの。


苦戰功不賞。 忠誠難可宣。
たとえ苦しい戦をしてみたところで、論功がもらえるわけでなし、忠義のまごころをいだいていても、発揮することはとてもむつかしい。
 論功行賞。


誰憐李飛將。 白首沒三邊。
飛将軍といわれた李広は、白髪頭になるまで三つの国境をかけめぐり、ついにそこで駄目になったけれども、誰がかれを哀れにおもっているであろうか。
李飛将 漢の時代の名将、李広のこと。かれは生涯、北の国境を守り、旬奴と戦うこと大小七十余回、敵を殺し、又は捕虜にすること多く、旬奴から「漢の飛将軍」と称され、大いに恐れられた。生涯不遇で、大名に封ぜられなかった。おまけに、最後にはちょっとした作戦の失敗を咎められ、憤慨して自殺した。弓の名人で、虎かと思った一心で、石に矢を射立てたという逸話がある。なお、中島敦の小説の主人公「李陵」は、李広の孫に当る。また、李白は李広の子孫だと自称しているが、これは事実ではない。しかし、李白が李広を慕っていたことは、まちがいない。○ 必ずしも死ぬことでなく、捕虜になることも没である。○三邊 幽州(河北)と井州(山西)と涼州(甘粛)と、旬奴にたいする三つの国境の要処。