古風 五十九首 其三十四 李白

北の幽州で安禄山が驕り高ぶって、野蛮な異民族と同じようになり、おかしくなった状況になってきた。一方、中央の朝廷内でも李林甫の死後、権力をえて、楊国忠が驕った政治を行い、南方での全く無駄な血を流してしまった。


古風五十九首 其の三十四

其三十四
羽檄如流星。 虎符合專城。
至急を示す鳥の羽をつけた召集令状が流星のように出されている。虎の絵の割符が各地の将軍の手もとで合わされるのだ。
喧呼救邊急。 群鳥皆夜鳴。
国境の危急を救うのだと、やかましくわめき立てている。ねぐらに休んでいた鳥たちまで、みんな、夜中に鳴きだした。
白日曜紫微。 三公運權衡。
真昼の太陽のような天子が、紫微の御座所にかがやいておられる、りっぱな三公の大臣がよい政治をしているのだ。
天地皆得一。 澹然四海清。
天地というものは万物が一から成り立ち支え合い溶け合っていくものであるという「道」なのである、天下はおだやかに四方の果ての海原、そのはてまで澄みわたっているのだ。
借問此何為。 答言楚征兵。
問いかけてみた、「こんなにあわただしいのはどうしたのか」と、答えてくれた、「楚の地方で兵隊を招集しているのだ。」と。
渡瀘及五月。 將赴云南征。』

濾水を渡るのを五月にしている、熱帯の雲南を征伐に赴こうというのだ。』
怯卒非戰士。 炎方難遠行。
臆病な兵卒は戦いの役にたつ勇士とはこのようなものではない、炎のように熱い南方への遠い行軍はむつかしいのである。
長號別嚴親。 日月慘光晶。
泣きわめき怒号のような叫びは、尊い両親にたいしての別れなのだ、そのために日も月も光輝きを失ってしまうばかりなのだ。
泣盡繼以血。 心摧兩無聲。
泣いて涙がつきはて、血が出るまで泣いたのだ、心までくだけてしまい、親も子も声が出なくなった。
困獸當猛虎。 窮魚餌奔鯨。
くたびれはてた獣が猛虎に出あったようなものであり、おいつめられた魚がものすごい勢いの鯨の餌じきになるようなものになっているのだ。
千去不一回。 投軀豈全生。
千という兵士が出征して一回もかえってこないのだ、身を投じたが最後、命はないものと思えばよいというのか。
如何舞干戚。 一使有苗平。』
ああ、なんとかして、タテとマサカリの舞いを舞うことができないものか、むかしの聖天子の舜が有苗族を服従させたように、一度で辺境を平和にしてもらいたいのだ。



羽檄 流星の如く、虎符 専城に合す。

喧しく呼んで 辺の急を救わんとし、群鳥は 皆 夜鳴く

白日 紫徴に曜き、三公権衡を運らす

天地皆一なるを得、澹然として 四海消し

借問す 此れ何をか為すと、

答えて言う 楚 兵を徴すと

瀘を渡って 五月に及び、将に雲南に赴いて征せんとす。』


怯卒は 戦士に非ず、炎方は 遠行し難し。

長く号きて 厳親に別れ、日月 光晶 惨たり。

泣尽きて 継ぐに血を以てし、心摧けて 両びに声なし

困猷猛虎に当り。窮魚奔鯨の餌となる

千去って 一も回らず、躯を投じて 豈に生を全うせんや

如何か 干戚を舞わし、一たび有苗をして 平らかならしめん』




古風五十九首 其三十四 訳註と解説

(本文)
羽檄如流星。 虎符合專城。
喧呼救邊急。 群鳥皆夜鳴。
白日曜紫微。 三公運權衡。
天地皆得一。 澹然四海清。
借問此何為。 答言楚征兵。
渡瀘及五月。 將赴云南征。』

(下し文)
羽檄 流星の如く、虎符 専城に合す。
喧しく呼んで 辺の急を救わんとし、群鳥は 皆 夜鳴く
白日 紫徴に曜き、三公権衡を運らす
天地皆一なるを得、澹然として 四海消し
借問す 此れ何をか為すと、
答えて言う 楚 兵を徴すと
瀘を渡って 五月に及び、将に雲南に赴いて征せんとす。』

現代語訳)
急用を示す鳥の羽をつけた召集令状が流星のように出されている。虎の絵の割符が各地の将軍の手もとで合わされるのだ。
国境の危急を救うのだと、やかましくわめき立てている。ねぐらに休んでいた鳥たちまで、みんな、夜中に鳴きだした。
真昼の太陽のような天子が、紫微の御座所にかがやいておられる、りっぱな三公の大臣がよい政治をしているのだ。
天地というものは万物が一から成り立ち支え合い溶け合っていくものであるという「道」なのである、天下はおだやかに四方の果ての海原、そのはてまで澄みわたっているのだ。
問いかけてみた、「こんなにあわただしいのはどうしたのか」と、答えてくれた、「楚の地方で兵隊を招集しているのだ。」と。
濾水を渡るのを五月にしている、熱帯の雲南を征伐に赴こうというのだ。』


(訳註)

羽檄如流星。 虎符合專城。
急用を示す鳥の羽をつけた召集令状が流星のように出されている。虎の絵の割符が各地の将軍の手もとで合わされるのだ。
羽撒 轍は木賎通知書。急用の場合に鶏の羽を目印につけた。この詩では、速達の召集令状。○虎符 兵
士を徴発するときに用いる割符。銅片か竹片を用い、虎の絵が刻みこまれ、半分は京に留め、半分は将軍に賜わり、その命令の真実であることの証拠とした。○専城 城を専らにする、一城の主、すなわち一州一部の主で、地方の将軍のこと。

 
喧呼救邊急。 群鳥皆夜鳴。
国境の危急を救うのだと、やかましくわめき立てている。ねぐらに休んでいた鳥たちまで、みんな、夜中に鳴きだした。
辺急 国境の危急。

白日曜紫微。 三公運權衡。
真昼の太陽のような天子が、紫微の御座所にかがやいておられる、りっぱな三公の大臣がよい政治をしているのだ。
紫微 天子の御座所。〇三公 周代以来、時代によって内容が異なるが、地位の最も高い大臣である。唐の制度では、大尉・司従・司空を三公とした。○権衡 はかりのおもりと竿と。これを運用するというのは、政治を正しく行うこと。

天地皆得一。 澹然四海清。
天地というものは万物が一から成り立ち支え合い溶け合っていくものであるという「道」なのである、天下はおだやかに四方の果ての海原、そのはてまで澄みわたっているのだ。
天地皆得一天下太平のこと。「天は一を得て以て招く、地は一を得て以て寧というのは「老子」の言葉であるが、「こというのは「道」といいかえでもよい。○澹然 ごたごたせず、さっぱりとしておだやかなさま。〇四海 大地の四方のはてに海があると中国人は意識していた。



借問此何為。 答言楚征兵。
問いかけてみた、「こんなにあわただしいのはどうしたのか」と、答えてくれた、「楚の地方で兵隊を招集しているのだ。」と。
借問 ちょっとたずねる。○楚徴兵 天宝十載(751年)唐の玄宗は兵を発し、雲南地方の新興国、タイ族の南詔に遠征して大敗した。八万の大軍が渡水の南で全滅したにもかかわらず、宰相の揚国忠は勝利したと上奏し、それをごまかすために、ふたたび七万の軍で南詔を討とうとした。これがまた大敗したが、このとき人民は、十中八九まで倒れて死ぬという雲南のわるい毒気のうわさを聞いており、だれも募集に応じない。揚国忠は各地に使を派遣して徴兵の人数をわりあて、強制的に召集した。楚は、雲南地方に地を接する南方の地方。なお、中唐の詩人、白居易(楽天)の「新豊折臂翁」というすぐれた詩は、この雲南征伐の際、自分で自分の腕をへし折って徴兵をのがれたという厭戦詩である。



渡瀘及五月。 將赴云南征。』
濾水を渡るのを五月にしている、熱帯の雲南を征伐に赴こうというのだ。』
楚から雲南に入るところに、濾水という川がある。いまの雲南省の北境を流れる金沙江(長江の上流)のこと。この川がおそろしい川である三種の毒ガスを発散して、毎年三月、四月にこの川をわたると必ず中毒で死ぬという。五月になると渡れるが、それでも吐気をもよおしたりするという。蚊の大発生の時期。〇五月旧暦だから、真夏の最中である。





(本文)
怯卒非戰士。 炎方難遠行。
長號別嚴親。 日月慘光晶。
泣盡繼以血。 心摧兩無聲。
困獸當猛虎。 窮魚餌奔鯨。
千去不一回。 投軀豈全生。
如何舞干戚。 一使有苗平。』

(下し文)
怯卒は 戦士に非ず、炎方は 遠行し難し。
長く号きて 厳親に別れ、日月 光晶 惨たり。
泣尽きて 継ぐに血を以てし、心摧けて 両びに声なし
困猷猛虎に当り。窮魚奔鯨の餌となる
千去って 一も回らず、躯を投じて 豈に生を全うせんや
如何か 干戚を舞わし、一たび有苗をして 平らかならしめん』

(現代語訳)
臆病な兵卒は戦いの役にたつ勇士とはこのようなものではない、炎のように熱い南方への遠い行軍はむつかしいのである。
泣きわめき怒号のような叫びは、尊い両親にたいしての別れなのだ、そのために日も月も光輝きを失ってしまうばかりなのだ。
泣いて涙がつきはて、血が出るまで泣いたのだ、心までくだけてしまい、親も子も声が出なくなった。
くたびれはてた獣が猛虎に出あったようなものであり、おいつめられた魚がものすごい勢いの鯨の餌じきになるようなものになっているのだ。
千という兵士が出征して一回もかえってこないのだ、身を投じたが最後、命はないものと思えばよいというのか。
ああ、なんとかして、タテとマサカリの舞いを舞うことができないものか、むかしの聖天子の舜が有苗族を服従させたように、一度で辺境を平和にしてもらいたいのだ。


(訳註)

怯卒非戰士。 炎方難遠行。
臆病な兵卒は戦いの役にたつ勇士とはこのようなものではない、炎のように熱い南方への遠い行軍はむつかしいのである。



長號別嚴親。 日月慘光晶。
泣きわめき怒号のような叫びは、尊い両親にたいしての別れなのだ、そのために日も月も光輝きを失ってしまうばかりなのだ。


泣盡繼以血。 心摧兩無聲。
泣いて涙がつきはて、血が出るまで泣いたのだ、心までくだけてしまい、親も子も声が出なくなった。



困獸當猛虎。 窮魚餌奔鯨。
くたびれはてた獣が猛虎に出あったようなものであり、おいつめられた魚がものすごい勢いの鯨の餌じきになるようなものになっているのだ。



千去不一回。 投軀豈全生。
千という兵士が出征して一回もかえってこないのだ、身を投じたが最後、命はないものと思えばよいというのか。



如何舞干戚。 一使有苗平。』
ああ、なんとかして、タテとマサカリの舞いを舞うことができないものか、むかしの聖天子の舜が有苗族を服従させたように、一度で辺境を平和にしてもらいたいのだ。
干戚 たてとまさかり、転じて武器の総称。むかしの聖人舜帝は千戚を手にして舞っただけで有苗族がたちまち服従したという。○有苗 中国古代の少数民族の名。



(解説)
 軍事力と統治力、大義と威圧というものがなければ一時的に勝てても、必ず反撃され、敗れる。楊国忠の戦いの目的は低俗なもので、侵略略奪のためのもので、自己の権力を誇示するためのものであった。
 この詩の後半はすべて、戦は人心をつかむものでなければならないということを李白は言っている。
 李林甫が病死して、宦官と結託した楊国忠が行う政治は唐の歴史の中で最低最悪のレベルのものであった。時期を同じくしてこれに、天災が加わるのである。国中にフラストレーションが充満するのである。