義鶻行#1 杜甫詩集700- 260
- 2012/09/02
- 22:14
義鶻行#1 杜甫詩集700- 260
(義鶻行ぎこつこう) 1回目
義理ある鶻のことをよんだうたである。鶻は「あおだか」の類、「ぬくめどり」という猛鳥である。
杜陵の住居に近い潏水のほとりにおいて樵夫よりきいた話で、鶻が蒼鷹のために白蛇を殺し、子鷹を食った仇を討ったことを述べている。
乾元元年 758年 47歳長安での作。
義鶻行【ぎこつこう】
陰崖有蒼鷹,養子黑柏顛。
北むきの崖に二匹の蒼鷹がいて、黒い柏樹の天辺で子を育てていた。
白蛇登其巢,吞噬恣朝餐。』
自蛇がきてその巣に登り、その子だかを呑んだり咬んだりして、かってに朝の食事としてしまった。』
雄飛遠求食,雌者鳴辛酸。
時に雄鷹は遠く食物を求めるために飛びだしていたが、巣籠りしていた雌だかは鳴きつつ辛い思いをしていた。
力強不可製,黃口無半存。
蛇の力はつよいからこの雌だかの力では制止しきれず、とうとう黄色い嘴の子鷹は半分も残らず食べられてしまった。
其父從西歸,翻身入長煙。
そこへ雄だかは西の方から帰ってきて見るとこのありさまなので、身を交わしてまた煙の長く引き映えた天辺へと入って行き、暫くするとつよい鶻を連れて来た。
斯須領健鶻,痛憤寄所宣。』
そしてしばらくすると、力の強い鶻をひきいてかえってきた。自分の抱いて居た憤りの気持ちを述べだす言葉に託してすっかりはきだした。』
#2
鬥上捩孤影,咆哮來九天。修鱗脫遠枝,巨顙坼老拳。
高空得蹭蹬,短草辭蜿蜒。折尾能一掉,飽腸皆已穿。』
#3
生雖滅眾雛,死亦垂千年。物情可報複,快意貴目前。
茲實鷙鳥最,急難心炯然。功成失所往,用舍何其賢!』
#4
近經潏水湄,此事樵夫傳。飄蕭覺素發,凜欲沖儒冠。
人生許與分,只在顧盼間。聊為義鶻行,永激壯士肝。』
義鶻行 #1
陰崖の二蒼鷹【そうよう】、 子を養う黒柏【こくはく】の顛【いただき】。
白蛇【はくだ】其の巣に登り、 吞噬【とんぜい】朝餐【ちょうさん】を恣【ほしいまま】にす。』
雄飛びて遠く食を求む、 雌者【ししゃ】鳴いて辛酸【しんさん】なり。
力強くして制す可らず、 黄口【こうこう】半存する無し。
其の父西従【よ】り帰る、 身を翻えして長煙に入る。
斯須【ししゅ】健鶻【けんこつ】を領す、 痛憤【つうふん】宣【の】ぶる所に寄す。』
#2
斗【たちま】ち上りて孤影【こえい】を捩【れっ】し、 咆哮【ほうこう】して九天より来る。
修鱗【しゅうりん】遠枝【えんし】より脱す、 巨顙【きょそう】老拳【ろうけん】に坼く。
高空に蹭蹬【そうとう】たるを得、 短草に蜿蜒【えんえん】たるを辞す。
折尾能く一たび掉【ふる】う、 飽腸【ほうちょう】皆己に穿【うが】たる。』
#3
生衆【せいしゅう】雛【すう】を滅【ほろぼ】すと雖も、 死も亦千年に垂る。
物情報復有り、 快意目前なるを貴ぶ。
茲實【これじつ】に鷙鳥【しちょう】の最なり、 急難に心桐然【けいぜん】たり。
功成りて往く所を失う、 用舎何ぞ其れ賢なる。』
#4
近【ちかご】ろ潏水【いつすい】の湄【ほとり】を経【ふ】、 此の事樵夫【しょうふ】伝【つと】う。
飄蕭【ひょうしょう】素髪の 凛として、儒冠【じゅかん】を衝かんと欲するを覚ゆ。
人生許与【きょよ】の分、 只だ顧盼【こはん】の間に在り。
聊【いささか】か義鶴行を為【つく】り、 用て壮士の肝を激せしむ。』
現代語訳と訳註
(本文)
陰崖有蒼鷹,養子黑柏顛。
白蛇登其巢,吞噬恣朝餐。』
雄飛遠求食,雌者鳴辛酸。
力強不可製,黃口無半存。
其父從西歸,翻身入長煙。
斯須領健鶻,痛憤寄所宣。』
(下し文) 義鶻行 #1
陰崖の二蒼鷹【そうよう】、 子を養う黒柏【こくはく】の顛【いただき】。
白蛇【はくだ】其の巣に登り、 吞噬【とんぜい】朝餐【ちょうさん】を恣【ほしいまま】にす。』
雄飛びて遠く食を求む、 雌者【ししゃ】鳴いて辛酸【しんさん】なり。
力強くして制す可らず、 黄口【こうこう】半存する無し。
其の父西従【よ】り帰る、 身を翻えして長煙に入る。
斯須【ししゅ】健鶻【けんこつ】を領す、 痛憤【つうふん】宣【の】ぶる所に寄す。』
(現代語訳)
北むきの崖に二匹の蒼鷹がいて、黒い柏樹の天辺で子を育てていた。
自蛇がきてその巣に登り、その子だかを呑んだり咬んだりして、かってに朝の食事としてしまった。』
時に雄鷹は遠く食物を求めるために飛びだしていたが、巣籠りしていた雌だかは鳴きつつ辛い思いをしていた。
蛇の力はつよいからこの雌だかの力では制止しきれず、とうとう黄色い嘴の子鷹は半分も残らず食べられてしまった。
そこへ雄だかは西の方から帰ってきて見るとこのありさまなので、身を交わしてまた煙の長く引き映えた天辺へと入って行き、暫くするとつよい鶻を連れて来た。
そしてしばらくすると、力の強い鶻をひきいてかえってきた。自分の抱いて居た憤りの気持ちを述べだす言葉に託してすっかりはきだした。』
(訳注) 義鶻行 #1
陰崖有蒼鷹,養子黑柏顛。
北むきの崖に二匹の蒼鷹がいて、黒い柏樹の天辺で子を育てていた。
○陰崖 北むきのがけ。杜甫『題李尊師松樹障子歌』「陰崖卻承霜雪幹,偃蓋反走虬龍形。』『三川觀水漲二十韻』「清晨望高浪,忽謂陰崖踣。」〇二蒼鷹 二を或は有に作る、有の字が自然であるように思われる、二とは雌雄をさす。 李白『行路難 三首 其三』「華亭鶴唳渠可聞,上蔡蒼鷹何足道。」○黒柏 柏の葉の色が黒いのであろう、老柏をいう。
白蛇登其巢,吞噬恣朝餐。』
自蛇がきてその巣に登り、その子だかを呑んだり咬んだりして、かってに朝の食事としてしまった。』
○噬 かむ。
雄飛遠求食,雌者鳴辛酸。
時に雄鷹は遠く食物を求めるために飛びだしていたが、巣籠りしていた雌だかは鳴きつつ辛い思いをしていた。
○辛酸 つらい思いをする。
力強不可製,黃口無半存。
蛇の力はつよいからこの雌だかの力では制止しきれず、とうとう黄色い嘴の子鷹は半分も残らず食べられてしまった。
○力強自蛇のカのつよいこと。○黃口 こだかのくちばしの黄色な者。生まれて間もない時は黄色をしている。○無半存 子の半数さえも残存しない。
其父從西歸,翻身入長煙。
そこへ雄だかは西の方から帰ってきて見るとこのありさまなので、身を交わしてまた煙の長く引き映えた天辺へと入って行った。
○其父 父とは雄をさす。
斯須領健鶻,痛憤寄所宣。』
そしてしばらくすると、力の強い鶻をひきいてかえってきた。自分の抱いて居た憤りの気持ちを述べだす言葉に託してすっかりはきだした。』
○斯須 須臭に同じ、しばしのま。○領 ひきいる、つれてくる。○健 力のつよいこと。○痛憤 雄鷹のいたましいいきどおり。○寄所宜 所宜とは鶴に向かってのべ訴える所の言辞をいう。寄とは寄せ託する、憤りを辞に託すること。
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