古怨歌
煢煢【けいけい】たる 白兎,東に 走り 西に 顧【かへり】る。
衣は 新しきに 不如【しか】ず,人は 故【ふる】きに 不如【しか】ず。
現代語訳と訳註
(本文) 古怨歌
煢煢白兎,東走西顧。
衣不如新,人不如故。
(下し文)
古怨歌【こえんか】
煢煢【けいけい】たる 白兎,東に 走り 西に 顧【かへり】る。
衣は 新しきに 不如【しか】ず,人は 故【ふる】きに 不如【しか】ず。
(現代語訳)
こんなにもほおっておかれている白兎はけいけいと寂しいものであります。東に向かって走っていく、こんどは西を振り返ってみたりするのです。
肌着は新しいものがよく、古いものはとても及ばないものでしょう。でも、人というものは古くから知り合った者のほうがよいというものでしょう。
(訳注)
古怨歌
竇玄妻 『古詩源』。
古註に「玄状貌絶異,天子使出其妻,妻以公主。妻悲怨寄書及歌玄。時人憐之。」
(玄状 貌は絶異にして,天子 使して 其の妻を出でしむ,妻するに公主を以てす。(古くからの)妻 悲しみ怨みて 書及び歌を玄に寄す。時の人 之を憐む。)
古怨歌 棄てられた妻の怨みのうた。竇玄は容貌が優れ、時の帝は(皇女を竇玄の嫁とするため)、竇玄の(古くからの)妻を離縁させた。これはその離縁された妻の怨みの歌。なお、『後漢書』で調べているが、まだ見つけていない。
煢煢白兎,東走西顧。
こんなにもほおっておかれている白兎はけいけいと寂しいものであります。東に向かって走っていく、こんどは西を振り返ってみたりするのです。
・煢煢 孤独なさま。
・白兎 白い兎。離縁された妻を謂う。基本となる詩は以下である。
『詩経、国風、周南』兔罝
肅肅兔罝、椓之丁丁。
赳赳武夫、公侯干城。
肅肅(しゅくしゅく)たる兔罝(としゃ) 、之を椓(たく)すること丁丁たり。
赳赳(きゅうきゅう)たる武夫(もののふ)は、公侯の干城(かんじょう)。
・東…西… あちらこちらへ行くさま。うろうろするさま。 ・東走:東の方へにげる。 ・西顧:西の方をふり返る。妻の未練がましさを表現する。
衣不如新,人不如故。
肌着は新しいものがよく、古いものはとても及ばないものでしょう。でも、人というものは古くから知り合った者のほうがよいというものでしょう。
・衣 ころも。衣服。
・人不如故 人は古くから知り合った者のほうがい。・人 ここでは人であり妻のことでもある。・不如 …に及ばない。…にしかず。
A不如B AはBに及ばない。Bの方が優れているということ。